第133話 襲い来る魔物
同時刻、少し離れた場所にいたロゼリアとチェリシアも動き出していた。
大きな揺れが起こり、多くの学生たちが動けずにいる。
だが、こういうことには慣れているチェリシアは実に冷静だ。
「これはおそらく去年と同じものね。ロゼリア、揺れが小さくなり次第、アクアマリン子爵の別荘にみんなを誘導するわよ。私の魔法を使えば、この程度の湯で崩れることはないでしょうからね」
「わ、分かったわ。でも、この揺れの中でも冷静でいられるなんて」
「こういうのは慣れているのよ。私が前世にいた場所は、とにかく地震の多い場所だったからね」
チェリシアの言い分を聞いて、ロゼリアはあっそうという感じの顔になってしまう。
だが、すぐにチェリシアのいった通りに、学生たちをアクアマリン子爵の別荘へと案内する。
その時、別行動になっているペシエラたちを気にしてしまう。
「ペシエラなら大丈夫よ。きっと一人で解決しちゃうわ」
「そ、そうね。それじゃ私たちは、こっちをどうにかしないとね」
まだまだ揺れの続く中、アクアマリン子爵の別荘へと入ったロゼリアたち。チェリシアはすぐに防護魔法を展開して子爵邸全体をしっかりと包み込む。
これでひと安心と、チェリシアはひとまず息をつく。
「頼むわよ、ペシエラ」
揺れに怯える学生たちを見ながら、ロゼリアはペシエラたちの無事を祈るのだった。
避難が終わった頃、ペシエラたちは揺れの中心地へと向かっている。当然ながら揺れている地面の上をろくに走れるわけもないので、エアリアルソーサーで向かっている。
「ペシエラ様、このあたりです!」
アイリスが叫ぶので、ペシエラはエアリアルソーサーを下ろして地面へと降り立つ。
「ここは……」
ペシエラは降り立った場所に見覚えがあった。
そう、ここは去年の合宿で、アイリスがペシエラに襲い掛かった場所だった。
「ものすごく強い魔力を感じますわね」
「はい。去年、私たちが使ったものと同じものです。ただ、数が違いすぎます」
「それだけ、私たちを本気で狙っているということですわね。プラティナ様、私から離れないで下さいませ」
「は、はい!」
この場に渦巻く魔力を感じ取っている二人。ペシエラは険しい表情を浮かべ、アイリスは怯えた表情を浮かべている。
プラティナも不安がる中、目の前の空間が歪み始める。魔物が出現する合図である。
「これは、去年と同じ時限式の召喚術のようですね。今年は一体誰がこんなことを……」
「ですけれど、去年と同じということは、大量に魔物が出てくるということです。わたくしたち学園の生徒を無差別に殺すつもりなのでしょうか」
「まったく……。うまくいかないからって、王国の主要人物の信用を下げに来ましたわね」
空間が歪んでいく中、三人はその歪みを眺めながら、口々に話している。
「どうなさいますか、ペシエラ様」
「今のわたくしでしたら、発動する前に潰すことも可能ですわ。ですけれど、これだけ強大な魔力が集まっている以上、潰してしまえばどのような影響が出るか分かりません。魔物が出てくるまで様子を見ましょう」
アイリスの問い掛けに答えながら、ペシエラは剣を構える。その答えを受けて、アイリスもスカートの中から短剣を取り出している。
アイリス用に仕立て直した制服は、スカートのポケットから太もものガーターベルトに手が届くようになっている。なので、あたかもポケットの中にしまい込んでいたように見えるようになっている。
「まったく、今回のことでアクアマリン子爵様の信用の失墜は免れません。パープリアの手のものが、子爵様の周りに紛れ込んでいるのは確実のようですわね」
ペシエラが苦々しい表情を浮かべると当時に、ものすごい衝撃が辺り一帯に走る。
歪みに耐えきれなくなり、空中に大きな亀裂が走ったのだ。そこから次々と魔物が姿を見せ始める。
が、次の瞬間、出現した魔物たちはその場に崩れ落ちてしまった。まるで鋭い刃物で切られたかのような、実にきれいな断面を見せている。
「ひっ!」
あまりにも凄惨な光景にプラティナは叫んでしまう。
それにしても、一体何が起きたのだろうか。
よく見てみると、ペシエラが右手に握っている剣から、何か液体のようなものが垂れているではないか。
そう、魔物が出現した瞬間、ペシエラの一閃が炸裂したのだ。あの一瞬で、かなりの数を斬り捨てるとは、まったくもって規格外すぎるというものである。
「出てくるタイミングが分かっていれば、そこに攻撃を合わせるだけ。実に簡単な対処ですわよ」
ペシエラはものすごく頭り前のようなことを言っているが、誰がこんなことをそう簡単にこなせるというのだろうか。相変わらずのでたらめ具合である。
だが、空間の亀裂は開いたままである。どうにかしてこれを閉じなければならないのだが、亀裂からはまだ膨大な魔力が感じられるために、ペシエラはまだ無理だと判断しているようだ。
そうしている間に、亀裂からは次の魔物たちが姿を見せている。
去年と完全に同じであるならば、空中に魔物を呼び出す空間を作り出すための魔法陣がどこかにあるはずだ。
「ガァアアッ!」
「ちっ、後ろからも?!」
魔法陣を探そうとするペシエラだったが、死角から別の魔物に襲われてしまう。
「きゃあっ!」
狙われたのはプラティナだ。
しかし、アイリスがすぐさま対処したために、プラティナは無傷である。
「ペシエラ様、どうやら囲まれています」
冷静になったアイリスから告げられると、ペシエラは周りを改めて確認してみる。
なんと、アイリスが言った通りに、ペシエラたちの周囲から多くの魔物が姿を見せたのだ。
「あの空間の亀裂は、カモフラージュなのね。なんて姑息な……!」
完全に包囲をされてしまったペシエラたち。この間も、亀裂からは魔物たちが出現している。
増え続ける魔物たちを前に、さすがのペシエラも焦りの色を見せるのであった。




