記録06 タンデム・タキオン・エスケープ
仲間たちと一緒に船に乗っているような感覚で船の中や宇宙空間の旅を楽しんでいただけたらうれしいです。
ヴェルヴェット号の艦橋には、クルーが全員集まっていた。中央のホログラムテーブルに投影された星図の上で、シェーネが腕を組みながら険しい表情をしている。
「未完成のアークをどうするか、だな」
ジャックの言葉に、シェーネが煙草を指で転がしながら頷く。
「部分的に市場に流れてることは確かね。これを完成に近づけるには、追加のデータか、それを知っている人物が必要でしょうね」
「だが、それを探すにはリスクがあるぜ」
バードマンが、星図を睨みながら言う。
「アークを餌にして動けば、危険が倍増する。場所を間違えれば、一気に袋のネズミだ」
「どこが適しているかしら?」
「安全に行くなら商業都市だな。ただ、そっちに行くと俺たちみたいなのは目立つ。アウトローが集まる都市なら情報は手に入りやすいが、それこそ敵の巣窟ってわけだ」
「燃料と物資の補充も必要じゃ……」
DDがホログラムを操作しながら言う。
「それとな、最近妙にアーク関連の噂が活発になっておるじゃろ。ワシらの手に負えん相手が動いていてもおかしくはなかろうて…」
「まー、どこに行ってもリスクはあるってことだよね」
シークレットが言いながら、戦闘艇の調整を続ける。
「だったら、迎撃戦になる前提で準備しておけばいいだけだし。ウチはいつでもやれるよ」
と、チカラコブを見せつける。
「皆さん、それよりも問題はヴェルヴェット号のタキオンブースターが完全じゃないことです」
アイが冷静に分析を続ける。
「うむ」
オダコンが静かにうなずく。
「そうだな。アイ君の言う通りだ。ここに来る前にタキオンブースターが一度故障しててな…まずはそれなりの設備があるドックで修理したいところだ」
ジークフリードが腕を組んで同調する。
「そうですね。ジャンプは可能ですが、短距離限定です。それ以上の負荷をかければオーバーヒートする可能性が高いですよ」
「チッ……」
バードマンが舌打ちした。
「ってことは、万が一の時は腕次第ってことね……」
シェーネは煙草の先端を磨り潰して火を消した。
この瞬間、警報が鳴り響いた。
《未確認艦影、接近中》
「何だ?」
「ルードゥス宇宙警察か!」
バードマンがレーダーを見て顔をしかめる。
「妙に手際がいいな……どうしたんだ、今日は?」
「このタイミングで警察なんてね……」
シェーネが呟く。
「ふむ、慌てるでない……薬物事件の捜査か何かじゃろうか?」
DDが星図を操作し、別のデータを確認する。
「最近、ルードゥス周辺でやけに取り締まりが増えてたようじゃからの。たまたまじゃろう。それにここは取引にもってこいの場所であるからして……」
「つまり、明確な敵じゃないが、足止めされたら面倒ってことか。確かに『アーク』やら、このバカ医者がもってる実験体はあまり見られたくないものだな」
バードマンがジャックをクチバシで指し、揶揄うように突っ込みを入れる。
《スピーカーからノイズ混じりの声が響く——こちらルードゥス警察船。そこの船、応答せよ。識別番号を提示、無駄な動きをするな》
警察線より無線にて警告が入る。
「無視しよう」
ケイが呟いた。
「バカか!応答しなかったら追われるぞ!」
バードマンが反論する。
「どのみち逃げるしかないだろ?」
ケイは淡々と言う。
《スピーカーから再び無機質な声が流れる——応答なし、これより臨検に入る》
警察船が速度を上げる。
「ほらな」
ケイが眉を上げる。
「え~っ面倒くさっ!どうするキャプテン!?」
シークレットがパネルを小突く。
「バード、あなた、逃げ道を確保しなさい!」
シェーネは鋭い口調で指示を出す。
「あ~わかってる!航路再計算中!よしっ、この時間帯、ジャスト1分後にクストーの裏に出るんだ。クストーの闇とスーリヤの陽光が丁度交わる座標を目指せっ。そこにルートがあるぜ!」
バードマンがクチバシを高らかと鳴らして鼓舞する。
「クストーの裏を抜けたら、デブリ帯で奴らを撒く!自動制御を頼りにしてる間に、こっちはスーリヤの陽光に隠れて消えるんだ。鈍い警察共を騙してやろうぜ~!」
楽し気に息巻くバードマン。
「ジーク、砲塔を準備!最悪のケースに備えて!」
「おお!」
ジークフリードが即座に武器システムを起動。
「オダコン、相手のレーダー探知を阻害しな!」
「うむ…。レーダー妨害フィールドを展開する」
オダコンが制御盤を操作し、敵の追尾システムを撹乱。
「で、デブリ帯を抜けた後だが、そっからどうする!?仲間を呼ばれちゃ流石にたまらねえぜ。手段は?!」
バードマンが大きな声で指示を仰ぐ。
「皆様、タンデム飛行はどうでしょうか?」
アイが即答した。
「はっ?」
皆の目が点になる。
「アマデウスの小型ブースターをヴェルヴェット号に同期させ、タキオンジャンプを実行するってことか」
ケイがアイの提案を即理解しアマデウスへ向かう。
「アイ、オレがアマデウスをこの船に同期する。お前はこの船をアマデウスの4次元軸に合わせるんだ」
「わかりました」
「これ成功したら伝説じゃん?」
シークレットがやや興奮気味に前のめりになる。
「はぁ!?バ~カ!!そんなのやったやつ聞いたことねぇぞ!…あ~くそ!成功すんだろうなぁ!?」
バードマンが再び叫ぶ。
「成功率、19%です」
「低っっっ!!!」
それを聴いて皆の瞳孔が大きく開いた。
「他に選択肢はないの?」
シークレットが問うも…沈黙のアイ。
「……クソッ、なんでウチの船はいつもこうなの!」
「ボロ船だからだろー?」
ジャックがシェーネをみて皮肉交じりに応える。
「お前ら!あと10秒で陽光の交錯点だっ。何でもいい!早くしろっ!」
「飛ぶぞ」
ケイが機内アナウンスで告げる。
「待て待て待て!!!!」
「カウント開始…」
「3…」
「マジかよぉぉぉ!!」
「2…」
「死にたくねぇぇぇぇ!!」
「1、飛ぶぞ」
「だから飛ぶなあああああ!!!」
「諦めろ。それしかな――…」
空間が歪み、ヴェルヴェット号とアマデウスが光の帯に包まれた。
一瞬の静寂。次の瞬間、全員の身体が超光速次元の乱流に引っ張られる。
「うぎゃあああああ!!」
「おえええええええ!!!」
「……」
「あー…?成功……したか?」
ヴェルヴェット号は静かに宇宙空間に漂っていた。
「……生きてる?」
「たぶんな……」
「もう二度とやらねぇ……」
「次はもっと遠くまで飛べるな」
ジャンプ後何事も無かったように艦橋にもどるケイはぼそっとそう言った。
「お前は黙れ!!!!」
バードマンが深いため息をついた。
「……なあ、お前」
「ん?」
「薬でもやってんのか!?」
「……」
「……なに涼しい顔してんだあああああ!!!!」
「くそっ!どこいった?」
その頃、警察船の艦長がホログラムテーブルを激しく踏みつけた。レーダー探知するも数多のデブリに妨げられ、抜けた先ではスーリヤの強烈な陽光が視界を遮る。
ヴェルヴェット号は光の残滓すらなく忽然とその姿を消していた。そして、彼らは次なる目的地へと進む。
ドッグファイトシーンを……と思いましたがもう少し先の楽しみに。
海賊らしく大立ち回りをしてみたい。
ちょっとやってみましたw