【09 僕はできます、できますから】
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・【09 僕はできます、できますから】
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「うちの子にスポーツの喜びを与えたいんです」
一瞬エロいことの暗喩かなと思ったけども全然違った。普通に文面通りだった。
相談の内容としては、自分の子にスポーツができたらどんなに素晴らしいか教えたいけども、どうしたらいいですか、という話だった。
私はめっちゃインドア派なので、スポーツなんて教えなくてもいいけどなぁ、と思っているわけだけども、怜那と吉四六は何かノリノリでアイデアを出しまくっている。
あれから怜那と吉四六がほぼ毎日手伝いにきてくれる。吉四六は普通に包丁が使えて、食材の切り分けとかも任している。
怜那のホールの切り盛りが本当に好評で、そういうファンもちゃんと増えている。思い付きの思惑通りだ。
前よりも栄えているので、当然バイト代もしっかり出せる。
のに、前より忙しくない、めっちゃ良い循環になってしまっている。
唯一ショタヌキのレジ打ちが忙しくなっているけども、ショタヌキはレジ打ちにやり甲斐を感じているみたいだから、まあいいだろう。
あと、あやかしと人間が仲良くしていると云々はとりあえず凍結にしている。考えないようにしている。
さてさて、スポーツの喜びか、今のところ怜那と吉四六のアイデアは相談者の秘孔を突いていない。
どれも「う~ん」や「あ~」程度だ。とにかく運動させるみたいなアイデアが横行している。
それがダメで相談しに来ているんだろうし。ここは私が言ってやるしかないな、と思って、
「やっぱりスポーツができるようになった世界を体験させることが一番だと思います」
すると相談者が、
「マタニティ体験みたいなことですか? お腹に重りを付けて男性に動いてもらうみたいな」
即座に怜那が、
「でも不自由にすることはできたとしても、より動けるようにすることなんてできないんじゃないのかなぁ?」
とちょっと甘ったるい声で、自分は可愛いほうですよ含みで言うと、吉四六が、
「ドーピング?」
と真剣な面持ちで言い、誰がドーピングコンソメスープかよ、と思っているとショタヌキが、
「お尻をアツアツの棒で叩いたら、勢いが出て運動神経が良くなるんじゃないですか!」
とこっちを振り向きながら言ったところで、怜那がショタヌキのほうに手をかざして、何だろうと思っていると、急にショタヌキが、
「熱い!」
と言いながら前のめりに倒れそうになって、なんとかレジに腕を置いて、そのまま倒れないようにした。
すると怜那が、
「熱湯がお尻についたところで倒れそうになるだけじゃん、それともこっから運動神経良くなる感じ?」
とへらへら笑い、ショタヌキはしょぼんとしてしまった、けども、それは全然グッジョブだと思った。
ショタヌキの案はカス過ぎるので。
そもそも私が案を言う直前だったんだよ、私は吉四六のほうを見ながら、
「吉四六ってキツネのあやかしだから風を出現させられるんでしょ?」
「うん、俺は風と匂いだね」
「この際、匂いはどうでもいいとして、風で追い風を作ったり、下から巻き起こる風でジャンプ力を少しだけ上げたりすることはできる?」
すると吉四六が目を見開きながら、
「そういうことか! それならできるぞ!」
と言いながらガッツポーズをして、ぽっちゃりマッチョが自分の腕の太さを見せつけていた。六月下旬ならもう当然のことだけども半袖です、って顔で。
というわけでトントン拍子で、相談者のお子を呼び、裏山(丘)に行って、運動神経が良い人の世界を見せることにした。
私は窓を開けて、中から外の様子を伺っている。
怜那がレジ前のイスをどかして、レジに立ち、相談者とそのお子と吉四六とショタヌキが裏口近くのスペースに立っている。
梅雨も終わったこの時期は地面に草が生い茂っている。シロツメクサの綿毛のような花が咲かっている。そのシロツメクサよりも若干背の高いムラサキツメクサも生えていて、色のコントラストが心を躍らせる。
ショタヌキは少し手持ちぶたさそうに、ヒメジオンの茎を時折さわさわ触れつつ、
「僕は何をすればいいんですか?」
と小首を傾げたので、私が言ってあげることにした。
「そのお子と運動バトルをしてあげて!」
するとショタヌキが気合いを入れたような顔をしてから、
「戦闘変化、今できるかなっ!」
と言ったので、私は慌てて言うことにした。
「戦闘変化はしなくていいよ! 素の祥太くんでいいから!」
ショタヌキはなおも頭上に疑問符を浮かべているが、本当にそのままでいいんだ。
そう、通常時のショタヌキは基本的に全然できない。それを利用するというわけだ。
運動ができる戦闘変化をされたらダメじゃないか、ダメなヤツのままでいき、お子に自信をつけさせる、これが作戦だ。
案の定、お子は運動能力が吉四六の風によりアップして、ショタヌキにシャトルランとか立ち幅跳びとかで勝って、ンキャンキャ喜んでいる。
するとショタヌキが、
「僕はできます、今から戦闘変化できます」
と言ったので、それはすぐに止めた。せっかく良い調子なのに、急にショタヌキが勝ち始めたらダメでしょ。
ショタヌキは本気でお子と闘っている。だからこそ何故戦闘変化を使っちゃダメなのか理解していないようだ。
でもダメだよ、あと理解しろよ、そろそろ。
少年の本気、じゃぁないんだよ。
結局お子に負けまくったショタヌキは、最後に「うぐぅ」と半べそかいて終わった。
相談者とお子と吉四六だけ裏口からカフェに戻ってきた。
ショタヌキはクールダウンしているようにハイキングコースをうろうろ歩き、いや早く帰ってきてレジやれよ、とは思った。
まあいいか、私はお子へスペシャルドリンクを出した。
ミルクセーキ、一瞬下ネタゴリラが作った料理と思いきや、ちゃんとした甘い飲み物だ。
牛乳に砂糖に卵に隠し味のバニラエッセンスという、ほぼ材料がプリンの飲み物。だから普通にプリンの味がする飲み物だ。
名前で損している。令和ロマンくらい名前で損している料理だ(昔の魔人無骨のほうがカッコ良かったよね、魔人無骨の二連覇って言いたかったよね)。
運動後のお子は清々しいって顔でミルクセーキを飲み、美味しさに浸っていた。ほっぺがほっこりしていて可愛い。
結局、お子はこれからスポーツをやってみるということになり、相談者の目標は達成した。
でも最後に「お子が嫌がったら、無理させないように」と釘を刺しておいた。インドア派はこれ言わないとダメなんじゃぁ。
ショタヌキも戻ってきたところで、ミルクセーキをあげた。
するとショタヌキはしみじみと、
「甘くて美味しい……」
と言って、ミルクセーキのCM不可避じゃん、と思った。
でもショタにミルクセーキのCMなんて、界隈がざわつくかなとも思ったけども、そんな界隈は無いことを思い出し、事無きを得た。




