【06 エマージェンシー】
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・【06 エマージェンシー】
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日曜日のある日。
竜神の親子が元気に鍋焼きうどんを食べて帰っていった。
私は鍋焼きうどんが大好きなので、全然、六月でも注文があれば作っている。
ただちょっと熱かったらしく、竜神の親のほうが氷を出現させて、鍋焼きうどんに入れていた。
いや言ってくれれば氷くらい出すのに、とは思った。でもまあ竜神としてはそっちのほうが早いのか。水を操る能力を持っている竜神としては。
ショタヌキのレジ打ちは前よりも早くなっているが、相変わらずイスに座っているので、食い逃げへの防御力はゼロだ。
でも大丈夫、田舎のカフェは性善説だけで成り立っているから。
いつも通り、コーヒーの注文があればコーヒー、オムライスならオムライスと、言われた通りに行動していると、急にハイキングコースのほうから人の叫び声が聞こえてきた。
「店主さぁーん!」
私は何事かと思って急いで裏口のドアを開けて、声がするほうに駆けつけると、カフェの裏口からではなくて、表の道からハイキングコースに入って散歩していたのだろう人がカフェを指差しながら、
「何か煙出てます!」
と言って、すぐさまその指差すほうを見ると、カフェの木造の隙間から白い煙がすごい勢いで出ていて、なんじゃぁこりゃぁー! と思ってしまった。
すぐさまその白い煙に近付くと、匂いは無臭なんだけども、やたら熱くて、どういう種類の何ぃっ?
やたら熱いと言っても四十六度弱くらいで耐えられないほどの熱さではギリギリなくて。これ保険きくかなぁ! と思っていると、急に止んだ。
一体何なんだと思っていると、今度はカフェの入り口のほうから声がしてきて、私はカフェの外からぐるりと回り込んで、入り口のほうへ行くと、なんと白い煙がまた出ていたわけなんだけども、その周りをショタヌキがあわあわしながら、うろうろしていて、心配するお客さんとウケるお客さんの二分に分かれていた。
私がその白い煙に近付くと、また煙は急に消え失せた。
ショタヌキへ、
「祥太くん! どういうことか分かるっ?」
と、つい少しだけ八つ当たりのようなテンションで声を荒らげてしまうと、
「分かんない!」
と泣き声で叫んで、あぁ、今のテンションは怖かったよなぁ、と反省した。
まあとにかく、
「業者呼ぶしかないかもなぁ、すぐに来てくれるかどうか分からんけども。というか日曜日じゃん、業者休みだ」
と会話しているようでしていない声で私がそう言うと、ショタヌキは肩を落として、
「何か怖いなぁ……」
と言った。それは私のハイになってるこの感じが? いや白い煙についてだろう、多分。
一緒にカフェを戻ろうとすると、ショタヌキは何か言いたそうな顔をしていたので、聞いてみることにした。
「どうしたの、祥太くん。何かアイデアがあれば全然喋っていいよ」
「こういうのって、つまりカフェがオナラしているって、ことなんですか? 人間界的に……」
だとしたら何なんだよ、が、まず一つ。
さらに人間界ではカフェがオナラすることは無いわけだが、だとしたら何なんだよ、と聞きたさ過ぎて、
「だとしたら、どうすればいいのかな?」
「こっちもお尻を出して、対決すればいいんじゃないかな……?」
と私を見上げたショタヌキ。
いや、
「そんなお尻振るニンテンドースイッチのゲームみたいなことは無いよ、あとカフェはオナラしない」
とキッパリ答えると、
「じゃあダメかぁ……」
と肩を落とした。
何だコイツ、お尻とかオナラとか好きなのか? 好きなんだろうなぁ、小学一年生くらいなんだろうな、多分。
結局何も掴めず、二人でカフェの中に戻り、急いで注文されていたコーヒーの準備をすると、また裏口のほうから声が聞こえてきて、私がバッと急いで行くと、またさっきと同じ位置から白い煙が出ていて、
「マジでどういうカフェ構造なんだよ!」
と叫んでしまった。祖父から受け継いだ欠陥カフェです、じゃぁないんだよ。
私が近付くと、また止んだ。何これ、私が特殊能力に目覚めたパターン、ワンチャンある?
白い煙を止める能力【ストップ! ホワイトスモーク】を……いや、良くない煙の啓発ポスターかよ、警視庁が作ったポスターかよ。
そんなことを思っていると、また入口のほうで声がして、今度はカフェの中を突っ切って、コーヒーを注文したお客さんに会釈しながら入口へ行くと、またさっきと同じ場所から白い煙が出ているわ、また先に到着していたショタヌキがあわあわしているは、で。
ショタヌキは入り口付近のレジのイスに座っているので、若干私よりも早く現地到着しているが、何かができるわけではない。
私のような【ストップ! ひばりくん】があれば……いやこんな能力名じゃなかったけども。
というか、能力、能力、ははん、そういうことか、動機は分からんが、そういうことだろう……否、動機はもしかしたら……あんま、まだ確定じゃないことは深く考えずにまずはこの白い煙の処理からだ。
よしよし、入口付近の白い煙も私が近付くと止まる。なるほどね。
私はすぐにカフェの中を突っ切ってから、さっきまで白い煙が出ていた裏口のほうの近くに”材”を立てかけておくことにした。
木材でもプラスチック材でもない、ただの材だ、でも、
「さすがに白い煙騒動は終わりだろうからぁ! ここに祖父が残した大切な材を少し立てかけておくかぁ! カフェの中には置けないもんなぁ!」
と妙にデカい声で、そう、ママタルトの檜原さんくらいの放つ声で、何の変哲もない材を立てかけた。
私はカフェに戻り、なんとかコーヒーをこれでも喰らえして、一息ついていると、またハイキングコースから声が。
行ってみると、さっきと同じ箇所からまた白い煙が。
「おぉぉおおおおおおおおおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぃぃいいいいいいいいいいいいいいいい!」
と銀魂腐女子ばりのデカい声をあげながら、その白い煙に近付くと、また止んで。
銀魂腐女子なんて言葉を令和に思い浮かべるとは、と思っていると、また入り口のほうから声がしたので、材に優しく触れながら、
「祖父の材、行ってくるよ」
と声を掛けてから、入口に直行すると、また白い煙が出ていた。
ショタヌキはいないので、笑っている人はいなくて、みんな心配しているご様子だった。
私が煙に近付くと、すぐにまた止んで、もう、本当に面倒だなぁ、と思いながらカフェの中に戻ると、中のお客さんたちもざわざわし始めていて、
「卯愛ちゃん、大丈夫?」
「全然注文はあとからでいいから」
「コーヒーは今日いいから、冷蔵庫にある麦茶でいいよ」
と声を掛けてくれる。
いやでも、
「そろそろ終わる予定なので」
と私が言うと、常連さんたちはどうしてだろうと小首を傾げつつも、でも少し安心してくださったような表情を各々した。
本当に、そろそろ終わればいいけども、と思っていると、またハイキングコースから声がして、急いでそちらへ向かうと、また白い煙がぁぁああああ!
「あぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
私の断末魔に似た叫び声がハイキングコースに響き渡る。朝からメンゴね。
「祖父から受け継いだ大切な材がぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
するとカフェの裏口からどんどん、いや昔話風に言えば、どんどこどんどこと常連さんたちが出てきて、
「卯愛ちゃん! どうしたんだ!」
「卯愛ちゃん!」
「おっちゃんの子!」
おっちゃんの子ではないけども、孫だけども、みんなやって来てくれた。
私は泣き声で、
「私の大切な材がカフェから出た熱い煙のせいで溶けてしまっているぅぅうううううううううううううううううううううううううううううう!」
そう、なんと近くに立てかけていた材が熱によって若干溶けてしまっていたのだ。
「卯愛ちゃん……」
「おっちゃんの材……」
おっちゃんの材って何だよ、と心の中でツッコミをしていると、聞き慣れない声が話し掛けてきた。
「あの……すみません……」
高校生くらいの女子の声だろうか。
その声と重なるように、中学生くらいの男子の声で、
「それは、あの……」
と言ってきた。
顔をあげると、そこにはダウ90000の吉原怜那さんくらい挑戦的な顔をしている女子高生くらいの子と、田舎のガキ大将のような体格をした、ぽっちゃりマッチョ感のある男子中学生くらいの子が申し訳無さそうに立っていた。
明らかに一緒にカフェから出てきた常連さんではない。私は少し低い声で、
「誰ですか?」
と凄みを利かせると、その二人はビクンと体を波打たたせてから、男子中学生のほうが、
「すみません……俺のイタズラです……」
即座に女子高生のほうも、
「いやアタシがやろうと言い出してぇ……」
と言った刹那、常連さんの中でも、どう見ても武闘派の、褐色の男性が叫んだ。
「テメェ、おっちゃんのざ、材? おっちゃんの大切な材を溶かしやがってよぉ?」
合ってる。おっちゃんの材って言葉、何って話だよね。
褐色の男性にビビり散らかしている二人に、和装のお客さんが、
「もしかすると竜神の子とキツネの子?」
と言うと、その既に極限までしぼんでいる二人はコクリと頷いた。
和装のお客さんは落ち着いた、冷静な声で、
「あやかしが人間界に犯罪目的で来るということは処罰の対象になることはご存知ですよね?」
と笑った。
その二人はさっきのショタヌキばりに慌てながら、
「あの、いや……祥太にイタズラしに来ただけって言うかぁ……何かぁ、人間と仲良くやっちゃってるところが気に食わなくてぇ……」
じゃあ動機ってつまり、あの、人間とあやかしが仲良くしていることが気に食わない強火アンチ勢ってこと?
本当にいるんだ、そういうヤツ……と若干私は絶句していると、おっちゃんの材こと、溶けた材こと、ショタヌキが元の姿に戻り、
「怜那と吉四六がどうして僕の邪魔ぉぉおおお!」
と声をあげた。女子高生のほう、本当に怜那なんだ、いや本当にとか無いけども。
私は自分が仕掛けた通りなので、溶けた材がショタヌキになっても驚きはしないけども、常連さんたちもイタズラしに来たというあやかし二人組もデカい声でビックリ声を発した。
そんなところでネタバラシ、材はショタヌキで、入口のほうへ行ってる間に溶けた材に変化してもらっていただけでしたー、つって。
怜那と言われていたほうが、
「まさかショタヌキに一杯食わされるとは……」
本当にショタヌキで合っていたのかよ、そこはもう本当にショタヌキなんだ。
するとショタヌキが、
「ショタヌキって言うなぁ!」
と怒り声をあげて、言っちゃダメではあるんだと思った。これからも心の中で留めておくしかないかぁ。残念とげんなりの融合体、ざんなり。
常連さんの一人が、
「それにしても卯愛ちゃんは何で分かったんだ、というかどういうことなんだ」
と言って、あぁ、あやかし側のネタバラシがまだだったなぁ、と思って、多分合ってると思って私が言うことにした。
「竜神は水の冷暖を操り、キツネは風と匂いを操る、つまりその二つを合わせて、熱い白い煙を出していたんだと思うんだけど、どう?」
怜那は、
「全てその通りです……私が熱めの煙を出して、で、吉四六がそれを風で勢いよく吹き出しているようにして……」
と悔しそうに言って、私にはザブングル加藤さんの”悔しいです”に聞こえた。
それにしてもぽっちゃりマッチョの吉四六のほうがキツネのあやかしだなんて、キツネのあやかしって太ってていいんだ、キツネが太るなんてマルちゃん赤いきつねのマスコットが食べ過ぎてふっくらしている時以来だよ。
いやそんなことはどうでも良くて、
「まあ何だ、あやかしと人間が仲良くしていることが気に食わないというあやかしアンチ野郎どもだったってわけね」
と私が言うと、怜那がモジモジしながら、
「アタシはそれよりもぉ……単純にショタヌ……祥太をイジっているというかぁ……面白でというかぁ……」
と言って、どうやらそういうアンチというよりは主語がショタヌキだったらしい。
なら言い方はこっちに変えるか、
「祥太くんの邪魔をしに来たってわけね、バカじゃないの、ユーモアがおもんないね、スベってるし、イタイと思う、つーかダサい」
この怜那と吉四六がどんな言葉を嫌がるのか分からないので、とりあえずいろいろ言ってみると、怜那も吉四六も肩を落として、どれが嫌がったか分かんないけども悪口がヒットして良かった、と胸をなで下ろした。こんな胸のなで下ろし、世界初だろうけども。
和装のお客さんが、
「上に連絡しますね」
と言ったところで怜那が、
「初犯だから!」
と叫び、それはやった側が言うヤツじゃないだろと思っていると、和装のお客さんが大笑いしながら、
「自ら初犯と言う! これは参った! 連絡しないであげましょう!」
と明らかに嫌味っぽいイントネーションで言って、キツネのあやかしっぽいなぁ、と思った(和装のお客さんがキツネのあやかしだということは分かっている)。
怜那は屈辱という表情をしていて、吉四六はその言葉を額面通り受け取って、安堵しているようだったが、和装のお客さんが、
「ただ吉四六、オマエはキツネの恥さらしだから、連絡しとくからな」
という身内への厳しさを出し、吉四六はガーンと口を開いた。
まあこんな感じで、この事件は幕を閉じたわけだけども、ショタヌキってもしかするとあやかし界で舐められていた?
だからこそのこういうカフェでの仕事ということなのかな? うん、多分そうだと思う。あやかし界で舐められているからこそ、人間界での仕事なんだ。あやかし界で仕事はできない状態だったんだ。
でもその結果、今回は違ったみたいだけども、そういうアンチから目を付けられるみたいな状況にもなっていないか? さらに目を付けられるというか。まあ少なくてもショタヌキの父親はそういうアンチじゃなかったからこそ、その側面が抜け落ちた状態で、ショタヌキを人間界に連れてきたのだろうなぁ。
とにかく私もショタヌキも襲撃されませんように! 今回の件は主語がショタヌキだったからギリ大丈夫だったけども!(本当に大丈夫かぁ?)




