【02 ショタヌキ】
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・【02 ショタヌキ】
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ショタヌキだ。
どう見ても人間にしか見えないワイルド風な父親に連れられてやってきたのは、頭にタヌキの耳のようなモノを付けている少年だった。
話によれば、やる気満々で人間界の仕事を手伝ってスキルアップしたいみたいな話だったが、実際のその少年はおどおどと父親の足に隠れて、こちらを申し訳無さそうに伺っていた。
よく見れば瞳も潤んでいて、今にも不安で泣き出しそうだった。ちょっと待て、話が違うぞ。私は子守りのようなことはしたくない。言うてもまだまだ仕事には慣れていなくて、自分のことだけで手いっぱいだからだ。
父親はイケボで喋る。
「うちの祥太はやればできる子ですから。祥太、仕事できるよな?」
そう祥太と呼ばれている、ショタヌキ少年のほうを見ると、その少年はこうべを極限までさげて、唸り声をあげた。
絶対イヤイヤじゃん……こんなあやかしへの慈善事業をしている場合じゃないんだってば。
父親は少し戸惑った表情をしながら、
「人見知りが、あるのでっ」
と後ろ頭を掻きながら笑った。
いやカフェで人見知りは致命的では。
本当に一体何なんだ、この地域は。
ただでさえ私は元々仕事ができないほうなのに、こんなイレギュラーばかりで嫌になる。
父親も少し困った唸り声をあげてから、
「まーーーー、とにかく、祖父の南方さんにはもう連絡してOKもらっていますから」
「えっ、なんて言ってましたか?」
と、どうせ聞いたって、というようなことを反射で聞いてしまうと、父親は、
「OKだぞぃ、って」
と答えて、じゃあもう伝家の宝刀”ぞぃ”を出されたら、やるしかないじゃーん、と思った。私は人の”ぞぃ”を否定できるレベルの人間じゃないので。
どうせ何かこっちが受け入れる感じ出さないと、帰る感じじゃないし。その証拠に父親は一歩もこの場所から動いていない。
対するショタヌキは多動的というか、ちょこまかと手足を動かしている。
父親はショタヌキの頭をポンポンしながら、
「ほら、祥太、挨拶をしなさい」
と言うと、ショタヌキは肩を落として、しょんぼりしながら、
「祥太です……」
とまるで観念したかのようにそう言った。
いやこっちは全然何も圧をかけていないけども。何か私が悪者みたいな雰囲気が流れた。被害妄想かもしれないけども。
ショタ。
ショタって、はっきり脳内で反芻しちゃダメかもしれないけども、ショタ。
ショタとは年齢の低い少年のこと。
特に可愛らしい少年に言う言葉。
そりゃまあ勿論ショタだけども、ショタ過ぎるというか、ショタって仕事できないもんだろ。
ショタの漫画、割と読むほうだけども、ショタはあわあわ言うだけで、何もできないだろ。
まあ挨拶されたからには答えないと、
「卯愛、私は倉持卯愛」
と川島省吾ばりの自己紹介をかましたところで、父親は少し満足げに目で笑ってから、
「では、祥太はやる気満々なのでよろしくお願い致します」
と言ったところで、私のいったれ精神がむくむくと反り立ち始めて、もう言ってしまうことにした。
「やる気満々じゃないですよね、話と違うんですけども」
父親はそれ言うんですかっ、みたいな、驚愕な表情をしている。
でも私は言う。
こういうところだと思う。私が他人と歩幅を合わせることが苦手なところは。
コミュ障とかじゃなくて、つい言ってしまうところ。勿論コミュ障もあるんだけども、それ以上に言ってしまうところがある。
すると父親は急に狼狽しながら、
「ま、まあ、我々はやる気満々なわけですが……」
とオッサンのやる気満々なんて誰へのサービスだよと思いながら、
「カフェは遊びでやっているわけじゃないので。一応祖父の意志を受け継いでやっているわけなんで」
と私はかますことにした。
本当は結構遊び感覚で、祖父が戻ってきたら即バイチャする予定だけども、こういう時はかましてしまえ、と思っている。
何かもらえそうだったから。今こういうこと言ったら、何かもらえそうな気がしたから。
父親はショタヌキと私の顔を交互に見ながら、
「全然、おやつとかあげれば、お金とか要らないので」
何おやつはあげてほしいみたいな、何ここにきて要求してくるなんて、タヌキ過ぎるだろ。
いや、というか、おやつって何か怪しいな、ここちょっと突き詰めていくか。
「ショタ、祥太くんは近くの家から通いですか?」
「聞いていないですか!」
とめっちゃデカい声を出した父親。
額から汗を滲みだして、かなりヤバイという雰囲気を醸し出している。カモシダシテイル・セブンだ。お笑い芸人さんの芸名風に言えば。
慌てる父親のことをほげぇーっとした顔で下から覗き込んでいるショタヌキ。小首を傾げているというか。
父親は急にものすごい速度で頭をさげて、
「すみません! 住み込みです!」
住まないのか住むのか分かりづらい日本語でそう言った父親。
いや、
「住み込みって、祖父の、というか私の家ですか?」
「どっちでもいいですから!」
「いや祖父の家が今、私の家で」
「あの! カフェでも家でもどっちでもいいです!」
カフェに、ショタヌキが寝泊まりする可能性がある……絶対ボヤ騒ぎ起こすだろ、いかんいかん。
絶対私の家に住まわせないといけないヤツじゃん。何これ、私の人生ってエロ同人誌だったん?
お母さんのこと恋しくなってお風呂に乱入してくるヤツじゃん。アッパーの練習しようかな。
「まあそうですね、私の家ということになりますね」
「有難いです!」
やっぱりそっちとしても、私の家のほうが良かったってヤツじゃねぇか。
何なんだよ、はっきりそう言えよ、段々腹立ってきたな、何がタヌキのあやかしだよ、ただのワイルドオジサンじゃねぇかよ。
ハロウィンでタヌキの耳をつけているショタじゃん、いい加減にしろよ。
私は溜息をついてから、
「私は何の得があるんですか」
とちょっとキツめに言ってしまうと、父親はおそるおそる、伺うように、
「快諾、してくれないんですか……?」
「だってやる気どう見ても無いじゃないですか」
ショタヌキをまた見た父親。
対するショタヌキは目線を逸らした。
すると父親がショタヌキへ、
「ちゃんとやるって昨日の夜までは言っていただろ! 一人前になるって意気込んでいただろ!」
ショタヌキは甘ったるい声で、
「で、でぇもぉ……」
と言って俯いた。
何だよもう、そういうことはマジで家でしてきてくれよ。マジだよ?
イヤイヤと体を振るショタヌキに父親は急に真顔になって、
「よしっ、帰る。ちゃんとするように」
と言って、自分のズボンを掴むショタヌキから離れて、ドアへ向かって歩き出した。
「ま! 待ってぇ!」
と叫んだショタヌキには振り返らず、そのまま出て行こうとすると、ショタヌキがてこてこと走り出して、また父親のズボンを掴んだ。
すると父親は強めに足を動かして、ショタヌキは後ろに吹き飛んだ。まあ尻もち程度だけども。
でも案の定、ショタヌキはその場でわんわん泣き始めて、父親はどうするかなと思っていると、そのまま帰ってしまい、泣くショタヌキと二人きりになってしまった。
育児放棄おつ、過ぎんだろ。
ショタヌキはお尻をついた状態で泣き叫ぶので、仕方なく、余った缶詰コーンをミキサーに掛けて、牛乳と調味料を合わせて、簡易的なコーンポタージュを作って、マグカップに入れて、軽くレンチンした。
「これ飲んで落ち着きなよ」
と言ってショタヌキの隣でしゃがむと、ショタヌキはこっちを見てから、プイッと首を逆方向に向けた。
「あんま雇い主がイラつくようなことしないほうがいいよ」
と私は状況をはっきり言うと、ショタヌキはしょげるように、がくんと首を落とした。肩の位置はそのままだった。肩を落としたって描写させてくれ。
「コーンポタージュ飲める? 何かタヌキが食べちゃいけない食品とかある?」
「基本あやかしだから大丈夫……」
と言いながらマグカップを手に取った。
その手は、もふもふな手ではなくて、普通に人間の手で、ただしめっちゃ手汗をかいていたので、逆にというか共感できたので良かった。
手汗、かくよなぁ。
コーンポタージュをふーふーしてから、飲み始めたショタヌキ。
ショタだけどもキンタマはデカいのかなとか思っていると、あっという間に飲み干したショタヌキは、
「美味しい……」
とこっちを向いて微笑んだ。
ショタ過ぎんだろ、と思いつつ、私は立ち上がり、
「軽く掃除してから家に戻るから。イスのアルコール消毒くらいはできる?」
「できる」
と小さな声で呟いたショタヌキに、私はスプレータイプのアルコールを渡し、私はモップで床の掃除をし始めた。
仕事しつつもショタヌキの行動も見ないといけなくなった。急にマルチタスクだ。
案の定、ショタヌキはアルコールを出し過ぎて、自分の顔にも飛沫が飛んできたみたいで、えずきだした。
「ヤだぁ」
と声を出している。また泣き出しそうだ。こんなことで? 自分がやった行動なのに。
するとショタヌキはその後に嫌そうにこう喋り出した。
「お母さんの匂いみたぁい……」
お母さん酒豪なんだ、あとあんまお母さんに懐いている感じじゃない。これならエロ同人誌じゃないかもしれない。全年齢向けかもしれない。
私はショタヌキへ、
「そんなシュッシュしなくていいから、一,二回でいいからね」
「どっちぃ……」
あーーーーーーーーーーーーーーーーーー、面倒だなぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
適当に言った回数に突っかかってくるの面倒だなぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー、って、棒で思った。
ただそれを情感たっぷりの棒読みで言うのは可哀想なので、
「二回でいいよ」
とお姉さんみたいに笑顔でこう言うと、
「はーい」
と返事して、その後はまあ問題無く、って感じ。
ショタヌキの身長的に、テーブルはちょっと大変そうな位置にある。
ショタヌキの鼻の位置にテーブルがある感じかな。ということはホールの仕事はほぼできないということだ。
イスに座って調理することがメインになる感じがするが、どう見ても包丁は使えそうにないので、何だあれか? マッシュポテトの率を増やすか? 相葉マナブくんじゃねぇんだぞ。
それかピンポイントゲスト時代の大久保佳代子さん。ピンポイント過ぎないか。バレーボールのピンチサーバーか。全部同じことを思ってしまっている。
まあいいか、のちのち考えるか。
「新しいおうちに行こう」
という離婚したてのシングルマザーのようなセリフを私は吐いて、カフェの鍵を閉めて、手を繋いで帰ることにした。
手を繋がないと、何か思いもよらぬ方向へ走り出しそうだから。
手汗じっとりで、正直大人の手汗だったけども、まあショタヌキだし、と思ってそんな嫌じゃなかった。




