【19 境界警備隊】
・
・【19 境界警備隊】
・
あやかしの里って、いっぱいあったんですね。
和装のお客さんこと阿紀良さんこと境界警備隊員からそんな話を聞いた。
本当は聞きたくなかったけども、聞くしかなくなってしまった。
何故なら、ここの地域にある、あやかしの里がピンチだからだ。
とあるあやかしこと日隅が人間と馴れ合っているあやかしの里を正してやると言いながら襲ってきて、一気に壊滅状態に。
お子たちはその毒牙から逃れることはできたけども、大人たちはボロボロになってしまったという話だ。
というわけで怜那と吉四六も今、私の家に住んでいる。
祖父は客人用の布団を用意しておくタイプだったので、そこは全然大丈夫だったわけだけども、怜那も吉四六もショタヌキさえ何だか元気が無い。
和装のお客さんこと阿紀良さんは境界警備隊というものの隊員をしていて、こっちの人間界にまで来ることがあれば闘うということらしい。
要は有事でなきゃ動かないってところだ。だから和装のお客さんこと阿紀良さんこと和装のお客さんはまだ闘っていないらしい(やっぱりオマエはネームドキャラじゃない、和装のお客さんだ)。
和装のお客さんはあやかしの里でエース的存在だからこそ、温存されているというような感じだった。そんなんだったんだ、この常連さん。
「日隅が攻めてくるとしたら、きっとまずこのカフェを狙うでしょう」
と事実なんだろうけども、めっちゃ怖いこと言ってきて震えてしまう。
事実なら何を言ってもいいわけじゃないって、もっと前半に言っておくべきだった。いや対策してほしいって話なんだろうけどもさ。
「とにかく日隅はふざけたことが嫌いで、人間と仲良くすることもふざけたことだそうです」
和装のお客さんはコーヒーを飲みながら、そう言った。
怜那がおそるおそる、
「何か、弱点とかないんですか?」
「弱点というか自分に自信があるみたいで、一撃でも自分に与えれば話は聞いてやると言っているそうです」
何その自信家。モリモリマッチョじゃん。バカみたいな言い方をあえてするとモリモリマッチョじゃん。プロテイン飲んでろ。人間が精製したプロテインでも飲んでろ。
吉四六が呟くように「一撃かぁ」と言うと、ショタヌキがこっちを振り向いて、挙手しながら言った。
「変化で隠れているってどうでしょうか!」
即座に和装のお客さんが、
「それくらいのことはもうやっていますが、ダメでした」
と呆れるように言って、ショタヌキがっくし。
まあやってるだろうなぁ、と思いつつ、私はこう言うことにした。
「ふざけたことが嫌いって何情報?」
和装のお客さんはあくまで淡々と、
「何か自分で言っていたらしいです」
ふざけたことが嫌いって自称か、自称ってちょっと怪しいんだよな、何事も。
自分で自分のことを優しいとか言う元夫は全然優しくないし、結構あくまで人は自称の場合、事象じゃないことが多くて。
「もしかするとふざけたこと好きかもね、そういうことやられると隙を作っちゃう的な」
と私が言うと、何か思い当たった節があるように、和装のお客さんの顔がピンと張りつめてから、こう言った。
「じゃああの時はそういうことか?」
そうアゴに手を当てて、下を向いて何かを考えているようだ。
怜那が伺うように、
「何か、あるんですか?」
和装のお客さんが呼吸を整えてから、
「ちょっとした拍子で軽くお尻に石が当たったあやかしがいたんです。そこで小さく『イテッ、ケッツ』と声を出したら、急に日隅は大笑いして、だいぶ大笑いしてから『ふざけるなぁ!』と叫んだらしいです。大笑いしているのが違和感というか不気味だったので、その時は誰も攻撃しないで待っていたのですが、もしかしたらチャンスだったのかもしれませんね」
するとショタヌキがまた挙手しながら、
「じゃあオナラ! お尻のオバケとオナラで攻撃しましょう!」
とマンキンの顔でそう振り向いて叫んだ。
お尻とかオナラとか、やっぱショタヌキはショタヌキなんだ、基本はあの頃のままなんだと思ったわけだけども、
「試してみる価値はあるかもね」
と私は頷き、その後の作戦も思い浮かんだので言うと、和装のお客さんも怜那も吉四六も「イケるかもしれない」となったわけだけども、当然お尻のオバケに変身することはもうショタヌキしかいなくて。
私はそのことに失念していて、あの作戦を言っていたので、やっぱりショタヌキに危険な仕事はさせられないと思ったんだけども、ショタヌキの瞳は既に燃えていた。
多分言ってもダメなんだろうな、と思ったし、他の三人もこの作戦に賭けるような面持ちをしていたので、もうやるしかないんだと思った。
せめて誰もケガしないように、と願った。
その後、吉四六の風に声を乗せて、あやかしの里と人間界の境界線で相まみえることになった。
あやかしの里で闘うとマジっぽ過ぎて、向こうも本気でお子でも潰そうとしてくるのでは、と思い、あやかしの里外で闘うことにした。勿論私のアイデアだ。
あやかしの里で挑むと何か他にもあやかしが潜んでいそうだし。あくまで目の前のお子だけということを強調したくて。
こっちが指定した時刻の五分前に来たので、真面目なヤツだということが分かった。人間でも難しい五分前行動を行なうとは、やるなっ。
日隅と言われるあやかしは三メートルの赤鬼だった。普通にデカ過ぎる。白いタンクトップが若干ダサい。
九月中旬は段々日が落ちるのが早くなり、夕暮れに差し掛かっている。
そんな陽の光よりも赤い、紅葉くらいの濃い赤であるその赤鬼、日隅はこう言った。
「何だそっちは。境界警備隊員とお子様三人、そして人間? ふざけてやがるなぁ」
和装のお客さんがこう言った。
「ここで貴方に挑むのはこのお子様三人だ。まさかお子様三人に反撃はしないよな! かわすだけだよなぁ!」
日隅は軽く鼻で笑ってから、
「当然だ。お子様三人の攻撃なぞ、かわすだけだ。オマエらが攻撃を外しまくって疲れて倒れたところをバカにしてやるよ。で、そっちの人間は何なんだ」
そう睨んできた日隅。デカ怖ぇ、と思いつつも、できるだけ威勢よく、
「あっ人間です!」
と言うと、急に日隅は咳き込んで、何か笑っていることをごまかしているようだった。
いやコイツ、多分ゲラだぞ、というか”あっ”という言葉で笑うってかなり敏感なほうだ。
笑いは緊張と緩和だ、とにかく緊張を作り出して一気に責めたてる!
「祥太くん、吉四六、怜那、三人の連携を見せてやるんだ……でも、ケガだけはしないで。それだけは約束だから」
吉四六がいつもよりイケボで、
「あぁ、絶対無事で戻ってきます……」
ショタヌキは元気に、
「うん!」
と声をあげて、怜那は黙って頷いた。
怜那の緊張している表情が特に良いなぁ、と思ったけども、怜那の緊張はマジだろうな、そこがいい。
和装のお客さんも作戦を理解しているので、場を緊張させる。
「もうオマエたちに懸かっているんだ。頼む……」
そう頭をさげて、雰囲気十分。
場の空気は張りつめている。
「いくよ!」
とショタヌキが声を掛けてから、ショタヌキが戦闘変化の術!
三メートルくらいのデッカイお尻と二本足だけの生物に変化した!(人生ゲームのツーケー星人みたいな感じ)
その刹那、日隅という赤鬼は大笑いし始めた。
チャンス! 畳みかけろ!
吉四六が手をかざし、風と匂いでオナラを出現し、さらに怜那が熱蒸気を発生させて、アツアツのオナラを再現して、日隅に飛ばす!
「ぐはぁぁああああああああ! アツアツのオナラだぁぁぁああああああああああああああああああああ!」
とデカいあやかしにもアツアツのオナラという概念あるんだ、と思いつつ、目を瞑ったところで、これでも喰らえ!
怜那が大きな氷柱を作り出し、それを吉四六が風で勢いをつけて、日隅目掛けて飛ばす!
クリーンヒットっていうか! しっかり肩口に刺さって赤鬼の肌より濃い鮮血が飛び出した! ちょいグロテスク!
「はぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!」
と日隅が声をあげたところで吉四六が叫んだ。
「本当は心臓を撃ち抜けたぞ! 手加減してやったんだからな!」
日隅はその場にひざまずき、
「まさか……こんなふざけたことに……」
と言ったが、完全に負けを認めたような顔をしていた。
和装のお客さんが、
「話し合いをするまでもないな」
と言ったんだけども、私は叫んだ。
「話し合いしましょう! 明日カフェに来てください! 場所くらい知ってますよね!」
すると日隅は、
「俺はもう負けたんだ、こんなお子様に手加減されて……今更話し合いもないだろう……」
「いいや! 話し合いするんです! 負けたんだから従ってください!」
日隅はこっちをまた睨んだものの、和装のお客さんが「おい!」とその表情を制すと、また観念した表情に戻り、
「分かった……」
と答えた。
私とお子三人はそのままカフェに戻って、身支度してから、私の家へ帰っていった。
その日の夜は四人で野田ゲーmakerを使って、ずっと総当たり戦をやっていた。
大勢でのゲームって面白いっすよね。
次の日、なんとぶち抜いたはずの肩口を完全に治した日隅が裏口から入ってきた。天井の関係で常にちょい腰屈みで軽くダサい。
これ見よがしに今日もタンクトップなわけだが、その肩口は治っているものの跡はあって、跡形もなくとか言わせてくれよ、簡単な描写で済まさせてくれよ、と思った。
イスに座らせたところで、今日はL字のカウンターではなく、日隅と対面して座っている和装のお客さんが、
「人間の素晴らしさを教えてやる。もう二度とそんな考えにならないようにな」
と言うと、日隅はプイッと顔を背けた。
怜那がカレーとコーヒーを盆に乗せて、持っていき、
「これでも喰らえカレーです」
と言いながら置いた。よっしゃ、私の英才教育完璧。
「阿紀良さんもこれでも喰らえです」
と怜那は言って、私の英才教育完璧過ぎるな、と思った。
日隅は警戒しているが、構わず和装のお客さんが食べ始めて、それに釣られるように日隅も食べ始めた。
和装のお客さんがふとこう言った。
「こんなうまいもん、あやかしの世界には無いだろ」
「無いなぁ」
と呟くように答えた日隅。
無いんかい、カレー。寂し過ぎるだろ。
和装のお客さんは言う。
「人間とあやかしが仲良くしたところで、まずアンチ連中には害無いぞ」
すると日隅は不満があるような顔で黙った。
和装のお客さんは吹き出して笑った。
どういうことだろう? と思っていると、和装のお客さんがこう言った。
「でもそれは逆恨みだぞ。そういうオマエのようなヤツはいつもこう言うんだ。俺の友達が人間にとられたって。それはオマエがつまんないヤツなだけだろ」
日隅は耳まで真っ赤にして恥ずかしそうに俯いた。
そっか、そういうことなのか、と何か、やっと納得した。
何であやかしの中にそういうアンチがいるか理解できなかったけども、それならまあ理解できる。
というか、
「女々しいですね」
とつい声を出してしまうと、和装のお客さんは大笑いして、ショタヌキにもウケた、が、怜那と吉四六は少し罰が悪そうに顔を見合わせた。
そのことに気付いた和装のお客さんが、
「やっぱりそうだよなぁ、怜那も吉四六も祥太がいなくなって寂しかったんだろ」
怜那は慌てながら、
「そんなハッキリ言わないでよ!」
と言い、吉四六は自嘲気味に笑った。
じゃあさ、と思って、
「全員で仲良くすればいいんじゃないんですか?」
と言うと、和装のお客さんはさらに爆笑して、
「言いますねぇ~」
と私のほうを見てきた。
いやでも、実際そうじゃん、と対する私はキョトンとしてしまった。
少し黙っていた日隅が口を開いた。
「もういいよ、分かったよ。全部正論だ。だから人間は嫌いなんだ」
すると和装のお客さんが、
「でもオマエが爆笑して隙を作った作戦は、この人間が、卯愛さんが考えたんだよ。話合うんじゃない? 実は」
いやこんな赤鬼と話が合われても困るけども、と思っていると、日隅はハハッとかすれた笑い声をあげてから、
「まあ人間だろうよ、こんなバカなことを考えるのは」
「何それ、四分の三はディスってるじゃん」
と私が言うと、また日隅は笑って、コイツ、私がツボじゃん、可愛いのかよ、と思っていると、
「本当におもしれぇ女だな」
と窓のほうを見ながら日隅が呟き、こんな少女漫画ねぇよ、と思った。
そこからこの日隅はこの地域のあやかしの里で罪滅ぼしの仕事をするようになり、一ヶ月に一回、カフェで食事をしに来るようになった。
あれから、アンチ勢が来ることもなく、知らないあやかしが来たとしても本当にカフェを楽しみに来るだけで、私は毎回心の中で”めっちゃこれでも喰らえ”と思いながら、お出しするだけになった。
今日も相変わらず、いつもの感じ。
怜那と吉四六も無事、あやかしの里から通えるようになった時は、ショタヌキが寂しがっていたけども、すぐにまた二人の生活に慣れた。
そう、二人の生活。
私がまた誰か他人と同居するなんて思ってもいなかった。
まあ相手がショタだけども、それでも何だか進歩というかそんな感じで。
楽しくカフェを切り盛りしている時にふと思ったことがあるんだ。
祖父の湯治、長っ、ってね。
(了)




