第九十七話 帝国の布告と揺れる海
◆帝都の決断
グラディオン帝都。
漆黒の石造りの広間に、数百の将官と魔導士が列を成していた。
玉座に座る皇帝は、冷徹な眼差しで彼らを見下ろしている。
「旗艦が沈んだ……屈辱だ」
ざわめきが走るが、その声はすぐに消えた。
皇帝は手を掲げ、重々しく布告を下す。
「全海軍に告ぐ。未知の艦“みらい”を最優先の脅威と認定する。
陸軍には沿岸防衛の増強を命じ、魔導研究院には“対旧文明兵器”の実戦投入を許可する」
将官たちが一斉に頭を垂れる。
「ははっ!」
こうして帝国全土を巻き込む“大追撃作戦”が幕を開けた。
◆その知らせ
一方、〈みらい〉艦内。
ユイが淡々と報告を読み上げる。
「帝国の広域通信を傍受しました。内容は……我々の討伐布告です」
艦橋の空気が張り詰める。
「討伐布告……つまり、国を挙げて敵に回るってことか」
遼は静かに言った。
レイリアが眉をひそめる。
「今までは局地戦だったけど、これからは違う。帝国全土を敵に回すのよ」
艦橋にいた子供のひとり――ルナが、不安げに遼を見上げた。
「……わたしたち、どうなるの?」
遼はその瞳を真っ直ぐに見返し、言葉を選んで答えた。
「大丈夫だ。俺たちは逃げない。守るためにここにいるんだ」
その声は、艦内全員の胸に響いた。
◆作戦会議
〈みらい〉は作戦会議を開いた。
ユイがモニターに地図を映し出す。
「帝国艦隊は現在、三方面から展開を開始しています。
北方海域に巡洋艦部隊、西方に補給線、そして東方には新型艦の展開が確認されています」
レイリアが表情を引き締める。
「三正面作戦……完全に包囲するつもりね」
遼は静かに地図を睨みつけた。
「正面から受ければ潰される。だが……一点を突けば道は開ける」
ユイが補足する。
「艦長、東方の新型艦部隊はまだ配備が不完全です。機動力で突破可能です」
「よし……進路は東だ」
遼の決断に、全員が力強く頷いた。
◆温室にて
その夜。
ユイは温室で花に水をやっていた。
リーヴァの小さな芽は、まだ弱々しいが、確かに生きていた。
「……嵐が来る。でも、芽は育つ」
ユイの指先に、土の温かさが残る。
そこへ遼が現れた。
「休まなくていいのか」
「大丈夫です。こうしていると……勇気が出るんです」
遼は芽を見つめ、静かに呟いた。
「人も花も、同じだな。嵐の中でも、希望があれば生きられる」
ユイは小さく微笑んだ。
「ええ。だから、私たちは進みます。艦長と共に」
◆迫る影
その頃、東方海域――。
月光を浴びて進む帝国の新型艦群。その艦首には、禍々しい紋章が輝いていた。
艦の内部で魔導炉が脈動し、兵士たちが血のような赤い甲冑を纏っていた。
「標的は“みらい”。逃がすな」
冷たい声が響き、艦隊は獲物を待ち構える獣のように海を進んでいく。
嵐の前の静寂は、すでに終わりを告げていた。




