第九十一話 封印を越えて、新たな戦端
〈みらい〉は深淵の門を抜け、再び暗い海域へと戻った。
背後では、中枢球体が静かに光を閉じ、扉を閉ざしていく。
その光景は、まるで「使命を果たせ」と告げるようだった。
◆帰還の安堵
「……出られたのね」
レイリアが胸を撫で下ろす。
居住区では子供たちが歓声を上げていた。
「やったー! 出られた!」「怪物いなくなったんだ!」
その無邪気な声に、艦内の空気は一瞬だけ和らいだ。
だが遼は、安堵の中に鋭い緊張を感じ取っていた。
「ユイ。周囲の状況を確認しろ」
◆待ち構える影
ユイの表情が険しくなる。
「……探知反応あり。数十隻規模の艦隊、方位三十度より接近中」
モニターに映し出されたのは、黒鉄の船体群――グラディオン海軍の主力艦隊だった。
旗艦の艦首には、紋章のように輝く“赤い眼”が刻まれている。
レイリアが息を呑む。
「あれは……“監視者の紋章”。彼ら、本気で来てるわ」
◆敵艦隊の布陣
ユイが淡々と報告を続ける。
「旗艦一隻、巡洋艦級七隻、駆逐艦級二十隻以上。
さらに後方に補給艦と思われる影。完全に“作戦行動”の規模です」
艦内に緊張が走る。
「どうするの……?」
レイリアが遼を見る。
遼は即座に判断した。
「まずは通信だ。彼らが敵意を持っているのは間違いないが、問答無用で撃つわけにはいかない」
◆交信開始
ユイが回線を開く。
ノイズ混じりの画面に現れたのは、グラディオン海軍の将官。
赤い軍装を纏い、鋭い眼光でこちらを睨んでいる。
『未知の艦艇、応答せよ。ここはグラディオン海軍の領域だ。封印区画への侵入を確認した。即刻投降せよ』
艦橋に冷たい声が響く。
レイリアが息を呑むが、遼は一歩も退かず、静かに応答した。
「こちらは〈みらい〉。この世界を守るために、封印を越えた。俺たちに投降の意思はない」
将官の目が細まり、口元に冷笑が浮かぶ。
『守る……? 戯言だ。お前たちが得た力は、我らが手にすべきもの。力なき者に資格はない』
◆迫る戦端
ユイが小声で報告する。
「敵艦、砲門を展開。戦闘態勢に移行しています」
遼は短く頷き、艦橋全員に告げた。
「……来るぞ。封印の試練は越えた。だが本当の戦いは、これからだ」
レイリアが強く頷き、ユイが艦を制御する。
居住区の子供たちも、不安ながら祈るように声を重ねる。
「負けないで……」
深海に轟くエネルギー反応。
無数の砲門が光を帯び、〈みらい〉へと狙いを定める。
遼は息を整え、静かに言い放った。
「全員、配置につけ。――ここからが、本当の未来の戦場だ!」
次の瞬間、光と炎が深海を照らし、〈みらい〉とグラディオン海軍の艦隊戦が幕を開けた。




