第八十六話 光と影の兵たち
深海の空洞を埋め尽くすように、無数の人影が現れた。
それらは光の粒子と黒い影の残滓から形作られ、鎧を纏った戦士のような姿をしている。
剣や槍を手にし、静かに、しかし確実に〈みらい〉を取り囲んでいった。
◆不気味な静寂
「……これが、古代の兵士……?」
レイリアの声が震える。
ユイはデータ解析を続けながら答えた。
「実体はありません。物質ではなく、記録情報の投影体。
ですが、干渉力は高く――実際に艦体を損傷させることが可能です」
その言葉を裏付けるように、一体の兵士が槍を振り下ろす。
瞬間、〈みらい〉のシールドに青い火花が散った。
「直撃! 装甲に損傷はないけど……実体に近いわ!」
◆試練の意図
遼は冷静に兵士たちを見渡し、低く呟いた。
「……これはただの攻撃じゃない。“試し”だ」
ユイが彼を見た。
「艦長の推測と同じです。古代文明は、遺構を開く者に“資格”を試す仕組みを残していた。
光と影の兵たちは、その審判者です」
「つまり……戦わなければ先へ進めない」
遼の声に、艦橋が緊張に包まれる。
◆迎撃開始
遼は短く命じた。
「主砲は使うな。ここで遺構を破壊するわけにはいかない。副砲とCIWSで迎撃だ!」
ユイが即座に操作を開始する。
艦体の側面から自動迎撃砲が展開し、光弾を放つ。
無数の閃光が走り、迫りくる兵士たちを次々と霧散させた。
だが、敵は無尽蔵に湧き出してくる。
「数が……減らない!」
ルナが悲鳴を上げた。
◆意志の力
その時、ユイが顔を上げた。
「艦長! 通常兵器では無限に湧く兵士を押し切れません。
必要なのは――“意思”による干渉です!」
「意思……?」
「艦長の心と艦の制御を同調させれば、光と影の兵に“未来の意志”を示せます!」
遼は深く息を吸い、決断した。
「やるしかないな。ユイ、俺を艦と繋げろ」
「了解!」
◆共鳴
次の瞬間、遼の意識は艦と重なった。
視界が広がり、〈みらい〉の全センサーが彼の五感と直結する。
無数の兵士の動きが手に取るように分かり、同時に――心に囁きが届いた。
――『汝、何を求める』
――『力か、栄光か、それとも支配か』
遼は即座に叫んだ。
「違う! 俺が求めるのは、“守るための力”だ!」
その意志が艦を通じて光となり、周囲に奔った。
突如として、光と影の兵の半数が霧散する。
◆突破口
レイリアが息を呑んだ。
「……兵が消えていく!」
ユイが解析する。
「艦長の意志に共鳴した兵は、“試練を認めた”のです。
残る敵も、意志を示すことで突破可能!」
遼は汗を拭いもせず、叫んだ。
「全員、信じろ! 〈みらい〉は俺たちの未来だ! 道を開け!」
その叫びと共に、光がさらに広がり、残る兵士たちが次々と霧散していった。
◆静寂の後
やがて光の兵士たちはすべて消え去り、空洞には静寂が戻った。
ただし、その奥にある中枢球体は、なおも不気味に光を脈打っている。
ユイが報告する。
「試練は……第一段階を突破しました。ですが、中枢はまだ完全には開かれていません」
レイリアが唇を噛む。
「まだ……続くのね」
遼は頷き、前を見据えた。
「いいさ。何度でも示してやる。俺たちが進むのは、破壊でも支配でもない……未来のためだ」
〈みらい〉はさらに奥深く、中枢球体へと向けて進み始めた。




