第八十五話 眠りし遺構、囁く声
〈みらい〉は、封印の門を越えた。
青白い光が艦体を包み込み、やがて静かな闇の奥へと溶け込んでいく。
――そこは、異世界の深海とも、地底とも異なる空間だった。
◆遺構の内部
艦橋のスクリーンに映し出されたのは、巨大な洞窟のような構造体。
壁面には無数の紋様が走り、青白い結晶が脈打つように光っている。
それはまるで、空間そのものが心臓の鼓動で動いているかのようだった。
「……ここは、一体……」
レイリアの声は震えていた。
ユイが静かに解析を進める。
「反応検出。外殻は未知の合金。内部には生体組織に類似する成分を含み……“生きている建造物”です」
子供たちが艦内モニターに映る光景を見て、ざわめいた。
「お城みたい……でも、怖い」
「壁が動いてる……」
遼は無言で前方を見つめた。
確かに壁は脈打ち、かすかに呻きのような音を発している。
◆囁く声
その時、不意に――艦橋に“声”が流れ込んだ。
――『ようこそ、後継者たちよ』
耳ではなく、意識に直接届く声。
艦内全員が凍り付いた。
ユイの表情が険しくなる。
「精神干渉、再び……。ですが、先ほどの“門”とは違います。これは……内部からの呼びかけです」
遼が低く呟いた。
「俺たちを歓迎している……? それとも、試しているのか」
◆内部構造への侵入
〈みらい〉は緩やかに進み、巨大な空洞の中心部へ到達した。
そこには直径数百メートルにも及ぶ球体構造が浮遊していた。
表面は黒い結晶で覆われ、ところどころに亀裂が走り、内部から淡い光が漏れている。
ユイが緊張した声で告げる。
「反応特定……。あの球体が、この遺構の“中枢”です。莫大なエネルギーを保持しています」
レイリアが息を呑む。
「まるで……星の心臓みたい」
その瞬間、球体から光の線が迸り、〈みらい〉を貫いた。
艦内が激しく揺れ、警報が鳴り響く。
「艦長! 強制リンクを仕掛けられています!」
ユイの声に、遼は舌打ちした。
◆古代の記憶
視界が一瞬、白く染まる。
遼の意識に、膨大な映像が流れ込んできた。
――荒れ果てた大地。
――燃え上がる空。
――数多の艦隊が相争い、やがて滅びゆく世界。
その中心で、同じ〈みらい〉に酷似した艦影が炎に沈む姿。
――『繰り返すな。お前たちは選ばれし者。
この遺構を継ぐか、それとも滅びを継ぐか』
遼は必死に意識を取り戻した。
「……っ、これは……警告か」
◆覚醒の予兆
ユイが声を荒げた。
「艦長、球体の活動が急激に上昇しています! 臨界点に到達すれば、この空間ごと崩壊します!」
レイリアが叫ぶ。
「遼! どうするの!?」
遼は深く息を吸い、艦橋全員に向けて告げた。
「……後戻りはできない。俺たちは、この“遺構の意志”と向き合うしかない」
その時、球体の亀裂から光が溢れ、形を持ち始めた。
無数の影が浮かび上がり、やがて艦を取り囲むように姿を変える――。
それは、人でも機械でもない。
古代の戦士たちの“残滓”が、光と影の兵となって蘇ったのだった。




