第八十三話 封印の門を越えて
深淵に停泊する〈みらい〉。
外界の暗闇は、まるで息を潜めた巨大な獣のようだった。
――その闇の中に、無数の光点。
細長い無人潜航機群が律動するように動き、一定のパターンで回遊していた。
まるで“門番”のように、奥の封印区画を護っている。
◆艦橋の緊張
「……思った以上に密集してるな」
遼はモニターを見ながら、眉を寄せた。
ルナが隣でタブレットを操作し、解析データを重ねる。
「全部で四十七機。動きは規則的だけど、時間ごとにルートが微妙に変わってる」
「完全ランダムじゃないな。パターンを持ってる」
遼の言葉に、ユイが頷く。
「旧文明の自律兵器は“予測可能な変動”を設計思想に組み込む傾向があります。突破ルートは算出可能です」
◆ルート選択
艦橋に、ユイが立体マップを展開した。
複雑に交差する敵機の航路が網のように広がり、その隙間に細い“抜け道”が点滅している。
「次の四分三十秒後、この領域に一瞬だけ死角が生じます。そこを通過すれば、封印ゲート直前まで無抵抗で到達できます」
レイリアが息を呑む。
「でも、四分半って……タイミングを一度でも間違えたら?」
「敵群のセンサーに捕捉され、即座に包囲されます」
沈黙。艦橋を緊張が包む。
遼は口を開いた。
「……やるしかない。〈みらい〉の存在理由を証明するためにも」
◆突破開始
時間は刻一刻と過ぎ、ユイのカウントが始まった。
「――10、9、8……」
艦内の全員が息を呑む。
「3、2、1……今です!」
〈みらい〉は滑るように前進した。
水流を抑え、ソナー反射を最小限に抑えるフィールドが展開される。
巨大な船体が、まるで魚影のように暗闇を縫って進む。
◆緊張の通過
すぐ横を、無人潜航機が掠めて通る。
鋭利な艦首が、もし一メートルでもズレれば衝突する距離。
「接触まで残り0.8メートル……」
ユイの声が冷ややかに響く。
艦内の子供たちは防護区画で祈るように手を組んでいた。
温室の花も、まるで震えるように揺れている。
遼は額に汗を滲ませながらも、視線を逸らさなかった。
「……あと少しだ。持ちこたえろ」
◆不意の乱流
突然、深海の地形が崩落し、乱流が発生した。
〈みらい〉の船体がわずかに流され、回避ルートを外れかける。
「くっ……!」
レイリアが叫び、ユイが即座に制御に入る。
「フィールド出力を120%に! 艦長、許可を!」
「やれ!」
エネルギーが奔流し、船体を包むフィールドが強烈に輝く。
乱流を押し返し、再び正しいルートに戻る。
だが、その閃光を一機の潜航機が感知した。
「……反応あり! 一機、こちらに接近中!」
ルナの報告に、艦橋の全員が息を呑んだ。
◆選択
遼は一瞬で決断した。
「迎撃はするな。ノイズを撒いてセンサーを誤魔化せ」
「了解!」
ユイの指先が舞い、艦底から無数の音響デコイが射出される。
無人機が一瞬ためらい、進路を変える。
その隙に、〈みらい〉は影のようにゲート前へ滑り込んだ。
◆封印の門
やがて、巨大な構造物が視界に現れた。
青白い光に照らされる円形の門――封印区画のゲートだ。
その中心は光の膜で閉ざされ、外界と完全に隔絶されていた。
「……これが」
レイリアが息を呑む。
「旧文明が封じた、兵器の眠る扉」
遼は深く息をつき、静かに告げた。
「ここからが本番だ。覚悟はいいか?」
ユイが頷く。
「艦長の命令を――待っています」
その時、封印門の奥から、低いうねりのような振動が響いた。
まるで、眠りから目覚めた巨獣の息遣いのように――




