第七十話 深海からの包囲網
深海の闇を突き破るように、ソナーが重低音を響かせた。
ユイの表情が一瞬で険しくなる。
「艦長、異常反応を捕捉。数……四十以上。大規模艦隊です」
「……深海に艦隊だと?」
遼はスクリーンに映し出された無数の光点を睨みつけた。
それは一つひとつが獣のように動き、彼らを取り囲む円陣を描いていた。
◆グラディオン海軍の影
レイリアが息を呑む。
「この紋章……“グラディオン海軍”よ」
遼は眉を寄せた。
「グラディオン……あの大陸西部の覇権国家か」
ユイが補足する。
「彼らは海の覇者を名乗り、深海域を支配下に置いています。かつて影の民と衝突した記録も。……おそらく、遺跡での反応を追ってきたのでしょう」
「つまり、俺たちの存在は完全に露見したってわけか」
遼は短く吐き捨てた。
◆迫る通告
通信が入った。画面に映し出されたのは、黄金の軍服を纏った壮年の提督の姿だった。
『未確認艦――我らグラディオン海軍の領域を侵犯した罪、万死に値する。直ちに停船し、全武装を解除せよ』
遼は通信を遮らずに、冷静に応じた。
「こちらはイージス艦〈みらい〉。我々は侵略の意思はない。航行中に偶然この海域に至っただけだ」
提督は鼻で笑った。
『戯言を。我らの深海に“偶然”など存在せぬ。貴様らが纏う異質な光――影の遺産を手にした証。ならば尚更、ここで葬るのみ』
通信は一方的に切られ、無数の艦影が戦闘態勢を取る。
◆開戦の火蓋
ユイが短く告げる。
「来ます!」
次の瞬間、四方からの魚雷が光の矢のように迫る。
遼は即座に命令を放った。
「全速前進! 迎撃システム、展開!」
〈みらい〉の垂直発射システムが火を噴き、迎撃弾が次々と放たれる。
深海の闇に爆光が瞬き、轟音が艦体を震わせた。
子供たちが居住区で悲鳴を上げる。レイリアは彼らを抱き寄せ、必死に声を張る。
「大丈夫よ! 艦長もユイも必ず守ってくれる!」
◆戦術の選択
ユイが情報を畳みかける。
「敵艦、三層陣形で包囲中! こちらの射線を制限し、圧殺する戦術です!」
「ちっ……数が多すぎる」
遼は歯を食いしばり、冷静に状況を分析した。
「ユイ、外殻同調システムは使えるか?」
「はい。艦長の精神共鳴と連動すれば、〈みらい〉の防御を強化可能です。ただし、負担が――」
「構わん。今は撃ち破るしかない」
◆光と闇の艦
遼が目を閉じると、胸の奥の光が再び燃え上がった。
〈みらい〉の船体が淡い光に包まれ、影の結晶と共鳴する。
装甲表面を流れる光紋が、次々と敵の砲撃を弾き返した。
ユイが驚愕を隠せずに報告する。
「防御効率が二倍に……いえ、三倍に跳ね上がっています!」
遼は静かに命じる。
「全砲門、前方敵艦隊に集中! 突破する!」
◆突破戦
主砲が火を噴き、深海を切り裂く轟音が響く。
光と衝撃の奔流が敵艦隊を直撃し、数隻が大爆発を起こして沈んだ。
しかし、残る艦はすぐに態勢を整え、逆に集中砲火を浴びせてくる。
ユイが歯を食いしばりながら報告する。
「艦長! 包囲を強めています!」
遼は決断を下す。
「なら――海流を利用する。ユイ、海底峡谷のマップを展開!」
スクリーンに映し出されたのは、入り組んだ峡谷の地形。
遼は拳を握りしめた。
「敵を誘い込み、逆に殲滅する!」
◆峡谷の罠
〈みらい〉は急速潜航し、峡谷へと滑り込んだ。
敵艦隊が後を追う。狭隘な地形に押し込まれた瞬間、遼は叫んだ。
「一斉射!」
峡谷の岩壁に反響する轟音と閃光。
敵艦隊は逃げ場を失い、次々と沈んでいく。
爆炎と泡が渦を巻き、深海を赤く染めた。
◆残された影
戦闘が終わり、艦橋には沈黙が訪れた。
ユイが低く報告する。
「……敵艦の八割を撃破。残りは撤退しました」
レイリアが呟く。
「でも……また来る。彼らは引かない」
遼は深く息を吐き、視線を前へ向けた。
「分かってる。だが俺たちも止まれない。守るべきものがある限り」
その声に、ユイも静かに頷いた。
◆迫る新たな波
だが、その直後。
艦内に重々しい警告音が再び鳴り響く。
ユイの瞳が大きく見開かれた。
「艦長……さらに大規模な艦隊反応! 規模は……先ほどの三倍以上!」
遼は一瞬だけ目を閉じ、そして力強く開いた。
「……上等だ。試すなら、全てを懸けて応えてやる」
〈みらい〉の艦首が深海を切り裂き、次なる戦いへと挑んでいった。
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