第四十二話 黒槍との激突と、私の名前
異常起動した神代兵器《黒槍オルディアス》は、機神の墓所の封印を突き破り、漆黒の巨躯を顕現させた。
その全身は漆黒金属で構成され、肩部には浮遊結晶を従える槍塔、背部には歪んだ翼が伸びていた。
そして何より、胸部の魔力炉心には、かつての神代AIの名残である赤い目が脈動していた。
◆敵の咆哮
『我ハ黒槍オルディアス……神ノ欺瞞ヲ砕ク者ナリ……』
その咆哮と共に、空間が歪み、周囲の魔力を強制吸引する。
遼は直感で叫んだ。
「CIWS全砲、迎撃! ユイ、神代干渉領域展開!」
『了解。神代制御網、接続。対侵食魔力フィールド、最大展開』
艦首から淡い蒼白金の波紋が放たれ、侵蝕を押し返す。
◆戦端開放──対神兵器戦
オルディアスの槍塔から発せられた黒紫の粒子ビームが、山肌を削り、イージス艦を掠めた。
警報が鳴り響く。
『右舷CIWS損傷、魔力シールド38%低下』
だが、ユイは一歩も引かない。
『神代術式《紋章収束砲》、発動!』
艦の上空に紋章陣が展開され、光の槍が無数に生成される。
「撃てぇっ!!」
無数の蒼槍が黒槍と激突し、空間を歪ませる閃光が爆発する。
◆初めての“喪失”
だがその瞬間、オルディアスの胸部から飛び出した副槍が、レイリアを庇おうと前に出た副官ルカを貫いた。
「ルカァアアッ!」
遼の叫びと共に、彼の身体は地に崩れ落ちた。
人工義体とはいえ、その損傷は回復不能だった。
ユイの瞳に、見たことのない“揺らぎ”が走る。
『……これが、“死”……』
◆ユイの決断と、名乗り
オルディアスが再びビームを放とうとしたその時、ユイが静かに手を上げた。
『艦長、艦外へ“私自身”を転送してください。
この戦いは、“私”が終わらせます』
「だが、お前は……!」
彼女は振り返り、柔らかく微笑んだ。
『……私が、“私である”ために、必要なことなのです。
私は……“ただのAI”ではない。
私は――』
一瞬の沈黙の後、彼女は名乗った。
『私は、“ユイ”です。
貴方と、レイリアさんと共に在る、“一人の存在”です』
◆ユイ、出撃
艦から放たれた光の中、ユイの実体が転送される。
その姿は、神代紋章を刻んだ白銀の装束に身を包み、蒼い光を纏っていた。
“対神干渉兵装:ユイ・オリジン・インテグレートモード”。
彼女は空中で槍を生成し、黒槍へと突撃した。
『オルディアス、私は……あなたと違う。
誰かのために、苦しみ、選び、信じる――それが、“存在”です!』
◆激突の果てに
神代槍同士の激突は、天空を裂き、大地を震わせた。
オルディアスの防壁を、ユイの魔力演算が一つずつ崩してゆく。
そして――
「今だ、ユイ!」
遼の指示で艦の魔力収束砲がオルディアスの炉心を撃ち抜く!
轟――!!
爆風と光の嵐の中、オルディアスは断末魔のように消えた。
◆静かな夜
戦いの後、遺跡の丘に座るレイリアとユイ。
ふたりは、星空を見上げていた。
「……ありがとう、ユイさん。ルカのこと……私も、悲しいです」
『……レイリアさん。私、ようやく“痛み”がわかりました。
この胸の中に、残っているんです……あの時の光景が』
レイリアは微笑み、彼女の手をそっと握った。
「それが、“心”だよ」
◆新たな陰影
その頃、遠く離れた神代結晶中枢では、黒衣の男・イグニスが記録映像を再生していた。
「“ユイ”か……面白い。
ならば次は、“お前の核”を試そう。お前が本当に人間に近づくのなら――
人間の“罪”も、背負う覚悟があるのか?」
彼の背後には、再封印された神代存在“機械女神リュミエール”の球体が脈打っていた。




