全ての始まり
初投稿です。気長に続けていきます。
始めに言っておくが、自分を特別だと思ったことは一度しか無かった。
残暑厳しい10月の中頃夕陽が沈む通学路を後輩の白河 優里と下校をしている時だった。
「センーパーイ、帰りにご飯食べに行きませんか?」
彼女は小柄で小動物を思い浮かべそうな整った顔立ちの後輩で同じ剣道部だ。
我が剣道部は学校が定時制とゆう事もあり部員が2人しかいないのだ。
「いいけど、割り勘な。俺も懐が寂しいし」
部活帰りに小腹を満たすことは珍しくなく、この日もファミレスに寄って帰ろうかと承諾した。
「いいです!いいです!やったー先輩とご飯うーれしーな!」
こんな事で喜んでくれるとは、相変わらずかわいい後輩だ。こんな自分でも慕ってくれている奴は大事にしないとなと思わせるいい奴だ。
帰り途中にあるファミレスに行くと夕方ごろだからかそれなりに人がいるようだった。
「もうちょい遅かったら待ってたかもな」
幸いすぐに案内され席に座れた。
「先輩は何にします?いつも通りハンバーグ?」
大体ここに来る時はハンバーグを頼むため、席に座ってすぐに彼女は注文シートを書き始める。
「ああ、今日もそうしようかな」
注文を頼み、程なくして料理が来てお互いに食べはじめる。部活後という事もあり腹が空いていた俺たちはすぐに食べ終わった。
食後ドリンクバーなどで一休みしていると突然白河が言い始めた。
「県大会、残念でしたね」
俺は面を顰めながら、苦い思い出を思い返す。
「しょうがない、結果は結果だ」
実は8月に県大会があり、2人揃って出場したはいいが俺は初戦敗退、白河は優勝という対照的な結果に終わってしまったのだ。
「そんなことよりお前の優勝の方が大事じゃないか、凄いことだろう」
あまりこの話は続けたく無いので少し強引に話を切った。
「優勝祝いに俺に出来る事なら何でもす「本当ですか!」
食い気味に言われた。
「じゃあ、じゃあ今度デートしてもらえませんか?」
「そんな事ならお安いご用だ、今度の週末でいいか?」
男女2人で出かけるのだからデートといえばデートなのだが、大袈裟な奴だなぁとその時は思っていた。
そろそろ更けてきたし帰ろうかと思っていると
「絶対に絶対に約束ですからね!」
思いの外真剣に言ってくるものだから。
「お、おぅ」
気圧されてしまった。
そんなこんなで夜に片足突っ込もうかというタイミングでファミレスからの帰っている所、狭い道幅の一方通行道路があり後ろから車が迫って来たのだ。
「おい、危ないぞ。」
咄嗟に車道にはみ出していた白河を引き戻した時だった。
ガクン、と足が下に滑り落ちる感覚がした、気づいた時にはもう遅かった。後ろに倒れ込む形で白河を引っ張ってしまった。
これが最初の後悔だった。
パリン、とガラスが割れる音がした。次の瞬間視界が光で溢れ目を開けていられなくなった。
「白河!無事か?」
一応後輩の無事を確認するが。
「何なんですかこれ!」
彼女も判断が付かないらしい、次第に周囲の音が聞こえ始めると漸く目が見え始めた。
初めは酷く驚いた。
「何が起きたっていうんだ」
周りを見渡すと、広いホールのような場所にまるで宝塚のスターのような格好の人だかりが出来ていたのだ。
ここで漸く実感が現実に追いついた。
「白昼夢か何かか?」
驚きから恐れに変わっていく中。
「せ、先輩?何が起きたっていうんですか?」
俺と全く同じ事を言いながら制服のシャツを掴んできた感触に信じがたい事にこの状況は現実だと、理性が訴えている。
そうこうしていると、人だかりの中から恰幅の良い見事な髭を蓄えた男性が声をかけてきた。
「君たちが今回の勇者で間違い無いね?」
威厳のある声だと思うと同時に何を言っているのかさっぱりわからなかった。
勇者?日本語に聞こえているのに理解出来ない。日本人なのか?
疑問符が頭を満たしていると。
「違うのかね?」
さらに問いを重ねてきた。分からず狼狽えていると。
「陛下の問いに答えろ!痴れ者めが!」
今度は人だかりの中から三白眼の爺さんが出てきた。
怒鳴られる訳すら分からずに困っていると、陛下?と呼ばれた人が。
「ヴェレナイズそうカッカするのでは無い、如何やら異邦人どのたちは状況が掴めていない様子、まずは説明からした方が宜しいかの。大司教これへ。」
そう言い終わるが否やまた新たな人物が出てきた。
「はい。異邦人殿、私は大司教のレーヴェと申します。言葉は通じていらっしゃいますか?」
そう言われて漸く意識がはっきりしてきた。
「は、はい。何なんですか、これ?」
それでもまったく状況は理解出来ない。
「それはようございます。今から状況を説明させていただきます」
何とかコミュニケーションは取れそうだ。
「我々はエルムニア王国の者で御座います。異邦人の方々には異世界からこちらの世界にお越し頂きました。理由は魔族による世界侵攻を止める手立てとして召喚いたしました。」
話を止め、こちらを伺うように見やるがさっぱり理解出来ない。とりあえず。
「エルムニア王国って何処ですか?」
「と、言いますと?」
「日本の何処らへんですかね?」
「はて、エルムニア王国はエルムニア王国ですが?」
困った、話が通じそうも無い。
「とりあえず、此処は異世界で、俺達を召喚して、召喚した理由は魔族と戦う為だと?」
正気を疑う様な否、疑って問い返して見るが、レーヴェさんとやらはしきりに頷いている。
はっきり言えば否定したいが、窓辺に案内されて見たのは強いて言うならヨーロッパの片田舎の様な風景だった。
少なくとも日本ではあり得ない光景だったのだ。
「私達、何処にきちゃったんでしょうね?」
まさに絶句という表情をしながら吐き出す様に白河が言った。
「本当に、本当に異世界何ですか?」
念を入れるように尋ねると
「はい、まごう事なき異世界で御座います。」
「帰していただく事はできないのでしょうか?」
「歴史上帰還した異邦人はいらっしゃいません」
「如何いう事ですか!」
とんでもない話が飛び出てきた帰れない!?ふざけた話だ。
「どうもこうも、勇者様達は勇敢に戦いこの地に骨を埋めて来ました。」
「勝手に呼び出しておいて帰れない!?拉致じゃないか!」
「落ち着いて、落ち着いて。我々はあなた方に危害を加える事はありません。」
落ち着いていられるか!と思うものの状況は俺たちに味方してくれない。周りはけばけばしい人だかり、地理も全く分からない。この人の言うことが事実であるかも知る術はないのだ。理性が冷静になれと囁いてくる、祖父さんも言っていた諸行無常とゆう奴だ、なんかズレている気がするけど些細なことだ。
「本当に帰る手段はないんですか?」
「恐らくですが魔王を斃せば帰れる可能性があります。」
レーヴェさんが言うには魔王を斃せば主神エルディリスが現れて世界を救ってくれると言う。神ならば異世界転移ぐらい造作もなかろうと。
「本当にそれぐらいしか無いんですか?」
はんば諦めながら聞いてみると。
「お二人のどちらかが勇者で主神エルディリスの加護があればきっと魔王を撃ち果たせるでしょう。」
答えにならない答えが返って来た、如何しようもない、なんとかするしかないのだ。
恐らく分かりきっている質問をした。
「その勇者というのは、何をすれば良いんですか?」
「それは勿論、魔物と戦い魔族を斃し、魔王を殺すことです」
最悪だそんな事出来っこない、こちとら小動物すら殺した事が無い一般人だぞ。死ににいくようなものだ。どうか間違っているように真摯に祈りながら聞いていく
「その、勇者というのは召喚する対象間違ってたりしませんかね、動物すら殺した事もない一般人なんですが!」
語気が荒くなりながら必死になって聞いてみたが。
「ありませんね、儀式は正しく行われましたお二人のどちらかが勇者です」
けんもほろろだった。
「ゔぉっほん、異邦人殿達に於いては状況を理解して頂けたかな?」
大きな咳払いをしながら陛下という事は国王だという事だろうか。その人物が話しかけて来た。
正直未だに信じられない話だが、それはそれとして聞いておかなければならないことがある。
「お聞きしてよろしいでしょうか?」
「何かな?」
「俺達が勇者じゃないと主張し続けた場合にはどうなりますか?」
「ふむ、……勇者でなくても異邦人は貴重な戦力になり得る、戦場に兵士としてたってもらう事になるな」
「結局は戦力にされる訳ですね」
「我が国としてもあまり余裕がある状況ではないのでな」
「正直俺が勇者なんてあり
言おうとして気がついた俺が否定してしまったら白河に矛先が向く、それだけは防がなければいけなかった。
得たかもしれないですが」
「ふむ……勇者だと認めるのだな?」
不味い正直勇者なんて絶対なれないが否定する訳にはいかない。
「一晩時間をいただく事はできませんか?」
結局のところ出来たのは先延ばしだけだった。
「貴様!この後に及んで無礼を重ねるか!!」
三白眼の爺さんがもの凄い形相で睨みつけてくるが、引く訳にはいけない、他の人の目のない所で白河と相談出来る時間が必要なのだ。
「ヴェレナイズ、よい。一晩で良いのだな。」
実情はもっと欲しいが周りの視線がヴェレナイズという爺さんが怒鳴るたび厳しくなっていく、これ以上は怖い。
「はい」
「ではこれにて、勇者召喚の儀閉廷とする一同礼!」
その声と同時に何十人もの人間が一斉にこちらに向かい頭を下げて来たのだ。びっくりして思わず後ろを見ると今まで気が付かなかったが表面の割れた手鏡がおいてあったのだ。恐らく礼をしているのは鏡に向かってなのだろうと推測出来た。怒鳴り散らしていた三白眼の爺さんまで真摯に礼をしているのだ。きっと俺にではないはずだ。
その証拠に未だに呆けている白河を引き摺りながら横にズレても礼は変わる事はなかった。一礼が終わると陛下がこちらにやって来て。
「そういえば自己紹介もまだやっていなかったな、予はアルダン・エルムニア・セリア国王である。しかしながら異邦人殿は少々特殊な立場の存在であるからして特別に尊称なくアルダンと呼んで構わんぞ?」
色々と気掛かりな所はあるが正直立っているので精一杯だった俺は迂闊にも。
「分かりました、アルダン様と呼ばせて頂きます」
安請け合いしてしまった。背後で殺意にも似た感情を耐えながらホールから出ていく三白眼の爺さんに気付かずに。
その後俺達はレーヴェに案内役の騎士然とした格好の人を紹介された。
「異邦人殿方こちらが案内のチックでございます」
「ご紹介に預かりまして光栄でございます。近衛騎士のチックと申します。今夜の寝室まで案内をさせて頂きます」
紹介された人は真面目そうな人だった。兎に角今は衝撃的な事が多すぎて疲れ果てていたので、少し急かす様に案内を頼んだ。
「すいません、よろしくお願いします。」
「異邦人殿方こちらが今夜の部屋でございます」
たどり着いた部屋の扉は緻密な細工がされた美しいものだった。
「なんかすごいとこ来ちゃいましたね」
漸く意識がはっきりとしたのかわからないが白河がそんな呑気な感想を漏らす。
「俺の部屋に案内してもらえますか?」
流石に男女同室は不味かろうとチックさんに話しかけると。
「え、先輩別の部屋で寝るんですか?」
不思議そうにそう聞いて来た。
「寝室は一つでも二つでも問題ないそうなので」
そう彼が告げるが流石にこれは不味いので。
「そうはいうが、俺だって男だぞ何かあったら如何するんだ」
そう、脅しを込めて強めにいうが。
「大丈夫です。先輩がそんな事しない事ちゃんとわかっていますから」
なんて全幅の信頼しているように言うもんだから。
「分かりました、分かったよ。同じ部屋で寝よう」
そう告げると白河の喜びようは良いもので腕を上げて喜んでいた。だがしかし、微かにその腕が震えてる事に気づき、こんな状況では離れるのも怖いが同室も少し恐れているのだろうと思った。
「では、私は此処で寝ずの番をするので安心してお眠りください」
そうチックさんが言い、扉のすぐ横に立ち直立不動の様子を見せるので、安心して部屋の中に入ると。
「うわー、高級ホテルみたい!」
「そうだな」
呆けた感想しか出なかった。驚きすぎて言葉が出てこなかったのだ。しょうがないだろう、俺の人生で初めてのことばかりなのだから。テレビこそ無いが広くて高そうな調度品ばかりかシャワールームまである事に驚きを隠せない確かに高級なホテルに来たみたいだが、心中ではより一層、今まで生きて来た人生との乖離が生じていた。正直言って倒れ込む様に寝てしまいたいが、これだけは言っておかなければならない。
「白河、俺は明日アルダン様に俺が勇者であると言おうと思う。」
口にしただけでプレッシャーに押し潰されそうになりながら、そう口にした。
「……はい?」
コテンと首を傾げ此方を見上げていたが、じわじわと脳が理解をし始めたのかすぐに此方を睨みつけてきた。
「何言ってるんですか……おかしいでしょう!先輩が勇者な訳ありません!頭おかしくなちゃったんですか!?」
頭おかしくなったは酷いと思うんだ。しかし、引く訳にはいかないそうしなければ白河が勇者という事になってしまう。
「大丈夫だこっちにきた時、実は俺が勇者だと聞こえてきたんだ」
嘘をついて納得させようとするが、未だにふんまんやるかたないと言った様子で捲し立ててくる。
「絶対嘘ですよねそれ!先輩が勇者な訳ありません!私より弱いのに!」
さっきからグサグサ刺してくるなこの後輩。しかしながら此処で引く訳にはいかないのだ。
「本当だとも、俺がお前に嘘ついた事があるか?」
ない様な気がしないでもないが、無理矢理にでも押し通す!
「……死んじゃうかもしれないんですよ、危険なんですよ。」
ポツリとこぼす様に白河が呟く。
「例えば、逃げたりとか……もしかしたらドッキリかも知れないですし!」
そう言い募ってくるが、白河も此処までで充分理解しているだろう。
「意識ははっきりしていたし大掛かりなセットでも無い、それにそんな時間はなかったのはお前も分かっているだろう。それに逃げる当てなどどこにも無いだろう。」
無理無茶無謀ははっきり分かっている、分かっていてもそれしか無いのだから。白河を勇者になどさせてはならない。
「大丈夫だ、危なくなったら逃げるさ。逃げ足には自信がある。それにデートの約束があるしな死なないよ。」
後半はただの思いつきだったのだが、白河には充分な効果があった様で、食いつく様に喋り出した。
「本当ですね!約束ですからね!デートも逃げる事も!一つでも破ったら針千本ですからね!」
「わかったわかった、約束な。必ず守るよ。」
この時俺は、この約束の事を軽く考えていた。
「でも、話が本当だとしたら私も異邦人って奴で戦場に出されるんじゃ無いですかね。」
「その事については考えがある。心配するな。」
キョトンとしてこっちを見ているが考えを言う気にはなれない。言ったら絶対反対するのが目に見えてるからだ。
「それよりも早く寝よう、もう疲れちまったよ。」
「シャワーくらい浴びてくださいね、私先に入りますから。覗かないで下さいね。」
「はいはい、さっさと行ってこい。」
反応するのも億劫に投げやりな返事を返すと小悪魔めいた笑顔でシャワールームに消えていった。
「こんな事、俺1人で充分だ」
消え入りそうな声でそう呟くのが精一杯だった。未だに言ってしまった事に恐れはあるが、覚悟は決まった。
こうして異世界初日の激動の日は終わっていった。
感想などありましたら是非よろしくお願いします。