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鏡面世界のサザンクロス  作者: 河野 英樹
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勇者

不定期更新です。

身体は素直なもので一晩ぐっすり寝れば快調な様子で起きる事ができた。日はすっかり昇っておりいつもより長く寝ていた事が伺えた。

 

「おはようございます。先輩」

 

 一晩寝たら実は夢だったなんて事はなく、しっかり眼が覚めた様子の白河がいた。本当に夢だったら良かったのに。

 

「おはよう。白河はしっかり眠れたか?」

「はい、私も疲れていた様でぐっすり」

「それは何よりだ」

 

 そんな事を話していると、コンコンと控えめなノックの音がしてきた。

 

「はい」

 

 そう返事をすると、数秒の後。

 

「異邦人殿方おはようございます。入室してもよろしいでしょうか?」

 

 女性の声がしたので、反射的に返事を返してしまった。


「はい、どうぞ」

「失礼致します」

 

 そう言って入ってきたのはクラシカルなメイド服に身を包んだ女性だった。

 

「おはようございます。異邦人殿方、私はあなた方の世話役としてお仕えするエレノアと申します。何か御用があればその一切を取り仕切らせて頂きます。どうぞお見知りを気を」

 

 そう言って綺麗な一礼をしてきたのは、女性にしては背の高い美人系の20代くらいの人だった。

 

「えーと、すみません。お仕えするとは如何言った意味でしょうか?」

 余りにもいきなりだったのでオウム返しにそう言わざるを得なかった。

 

「その言葉通りにございます。異邦人殿方は特殊なお立場になりますので私めが身の回り一切を取り仕切らせていただきます」

 

 いきなりの事でビックリはしたものの、その申し出ははっきり言って渡りに船と言ったものだった。まず、何をするかも如何すればいいかも一切わからないものなのだから。

 

「うわー、凄いメイドさんですよ先輩。秋葉原でしか見た事ないです私!」

 

 自体を理解しているのか分からない呑気な白河の言葉が虚しく響いた。多分お前が思っている様な存在じゃないぞ後輩。

 

「有難いです、正直なところどうすればいいかも分からず困っていたところなので」

 

 そう伝えると。

 

「はい異邦人殿方に此方の世界の事を教えて差し上げるのも、私の役目でございます。どうぞ遠慮なくおっしゃってくださいませ」

 

 助かる。いま居る場所すらわからない状況では非常に助かる。

 

「とりあえず、アルダン様にお会いになりたいのですが、どこに行けばお会いできるでしょうか?」

 

 そう聞くとエレノアさんは片眉を一度ピクリとあげると打てば響く様に返してきた。

 

「はい、勿論ご案内させていただきます、が、その前にお召し物を変えさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 そういえば服の替えなど勿論ないし着替えてもいないものだから、言われて仕舞えば気になってしまう。

 

「そうですね、言われてみれば替えを貸してもらってもよろしいでしょうか?」

「はい、勿論でございます。それと、私めには敬語は必要ありません」

 「後は、異邦人殿方はこれから此方で住まいますのに替えなどと言う必要もございません、全て此方で用意させていただきます」

 

 そう一息に言い切ると深い礼をして恐らくクローゼットの中であろう場所から次々と服を取り出した。

 しかし、敬語は要らないと言っても目上の方に敬語なしで話しかけるとは如何したものか、そんな事で悩んでいると着替えの用意が出来たのか、申し訳なさそうにこう言ってくる。

 

「申し訳ありません、異邦人殿方のと同じ様な服装はございませんのでこの中から選んでいただきたく思います」

 

 そう言ってクローゼットから取り出した服装を次々と目の前に広げていった。

 

「俺はまぁ、着れれば何でも大丈夫なので」

「うわー、色々ありますね、ドレスもありますよ。あっこれなんか良いかも」

 

 並べられた服は中々に壮観だった。Tシャツの様なものから式典などで着る様なタキシードの様なものまで様々だった。一般的な感性から言って突飛な服装は見当たらないので特に気にせずエレノアさんに任せようと思う。

どれにしようか目移りしてる白河を他所にエレノアさんに話しかける。

 

「すいません、此方の様式が分からないもので、エレノアさんに決めてもらっても良いでしょうか」

「はい、勿論大丈夫でございます。しかしながら重ねてお願いしますが、私めに敬語は不要でございます。どうぞ気楽にお申し付けくださいませ」

「そう言われても敬語は、元いた世界からの癖の様なものなので」

 

 そう言うと、エレノアさんは片眉をまた一度ピクリとあげると。

 

「畏まりましてございます。ですがどうか遠慮なく、何かあれば申し付けくださいませ」

 

 そう渋々と言った雰囲気で申し付けてくる。しまったな、今のところ頼りに出来る人からの印象は悪くしたくない。郷に入っては郷に従えとしとけば良かったか。

 

「決めましたこのワンピースにします」

 

 そう言って、こちらの思いなどつゆとも知らない感じで白河は着替えを決めたようだ。

 

「先輩、着替えるので先にシャワールームで着替えててください」

 

 俺は追い出されるようにシャワールームに叩き込まれた。

 

「お着替えの手伝いは入りますでしょうか? 」

「いや、大丈夫です。1人でできます」

 

 この歳になって着替えの手伝いなどと、恥ずかしいにも程がある。エレノアさんから着替えを受け取るとシャワールームで着替えはじめる。幸いにも服の様式は変わったところもなくすんなり着替え終わった。

 

「おーい、出ても良いか?」

「もうちょっと待ってください。女の子は男と違って時間かかる物なんです!」

 

 そうこまっしゃくれた言葉を返され、辟易としながら10分ほど待った後だろうか、外から。

 

「もういいですよ、先輩」

「まちくたびれたぞ、着替えるだけでどれだけ時間かかるんだ」

 

 そこには、軽いながらもしっかりメイクまで施した白河がいた。正直言って驚いた可愛い奴だとは思っていたが、ここまで変わるとは、そこら辺のアイドルなんかよりも充分可愛い。

 

「驚いた、随分可愛くなったじゃないか白河」

「か、可愛いって……もうそんな素直に言われたら、揶揄えないじゃないですか」

 

 そんな事考えてたのか油断ならん奴めしかし、頬を染めながらうつ向き気味に此方をチラチラと見てくる白河は本当に可愛いかった。

 

「あの、よろしいでしょうか? 」

 

 その一言でハッと気づいた。何をやってるんで俺たちは。

 

「国王陛下の元へ案内させて頂きます」

「は、はい。お願いします」

 

 動揺が抜けきらず吃った俺の後ろで白河が微笑んだ。


 広い廊下をエレノアさんの案内の元歩いていると少しずつすれ違う人が多くなっていき、5分ほど歩き続けた時には人波と言えるほど人の出入りが激しい扉の所についた。

 

「ここにアルダン様が?」

「はい」

 

 そう言うとエレノアさんは人波をズカズカと掻き分けて進んで行く。呆気に取られながらも置いてかれぬ様に後ろからついて行くと。

 

「おお、メイド長がくると言う事は異邦人殿方の事かな」

 

 果たして人波を掻き分けた先にアルダン様はいたが、何だか凄く忙しそうだ。国王陛下だと言っていたから実際に忙しいのだろう。エレノアさんの少し後ろに所在なく立っていると、声を掛けられた。

 

「おお、異邦人殿方じゃないか。調子はどうかね、昨日は良く眠れたかね。」

「はい、お陰様でぐっすりと。ところで勇者の件なのですが」

 

 そう言うと周囲の音がピタリと止んだ。何事かと思えば、周囲の視線を感じ取った全員に注視されている。

 

「ここでは落ち着いて話しができん様だからな、少し場所を移そうか」

 

 アルダン様がそう言ってくれて助かった。この状況では酷く落ち着かない。それから部屋を出てまた5分ほど歩くと今度は人通りが全く無い場所に辿り着いた。

 

「ここは余の寝室でな、他に人はおらんから好きに寛いでくれて良いぞ」

 

 そんな事を言われても国王陛下の寝室なんて入った事など一度も無いし、調度品なども俺たちがいた部屋よりずっと高そうに見える。こんな場所でリラックスなんてできそうも無い。

 

「ふっふ、少しからかいすぎたか。まぁ、適当にそこのソファーにでも座ったらどうかね」

 

 からかうのもやめて欲しい、そう言うのは白河だけで充分だ。そう思いながらもソファーに座ると、体が沈んでいったビックリしたが高級なソファーとはこう言う物なのか座り心地がとても良いなど思っていると。

 

「さて、会いにきてくれたと言う事は勇者になる決心が決まったのかな?」

「……はい、俺が勇者です」

 

 言った。言ってしまった、もう取り返しはつかない。後悔はしていないが、これから如何なるのかと恐れは依然としてある。しかしこうするより他は無かった、可愛い後輩を戦場に送るなどはもっての外なのだから。

 

「ほう、それはそれは、……事実かな?」

 

 アルダン様が此方を真剣な眼差しで見つめて来る。嘘や誤魔化しなど見透かしてしまいそうな視線に慄きながらそれでも、しっかりと見据えてこう言い放った。

 

「……事実です、俺が勇者です」

「そうか、いやすまんすまん、疑う様な事を言ってしまった。ありがとう、これでひと安心だ。」

 

 そう言って背もたれに身を預けると、アルダン様は安堵の息をもらした。しかし、まだこれで終わりでは無い。俺にとって一番大事な事がまだ残っている。

 

「白河、済まないが少し席を外してもらえないか?」

「えっ、何でですか?」

 

 此方を見上げる白河の目には不安の色が伺えた。しょうがない。この後の事に胃をいためながらも口にした。

 

「そうか、では、話し終わるまで静かにしてもらえるか?」

「当たり前じゃないですか。そんな子供じゃあるまいし」

 

 そう言うと白河は少し憤慨したかの様に頬をふくらました。

 

「それなら良いんだ。アルダン様、雇用条件のお願いがあります」

「ほう、雇用条件とな。ある程度なら衣食住の確保、それ以上に何が必要かね。金か、地位か、名誉か?」

 

 そんなことを聞かれるが、金はある程度あったほうが良いが、今すぐ必要では無いし、地位なんて勇者というだけでも精一杯なのに、これ以上の責任なんてもっての他。

名誉に至っては、実績のない人間に与えられる名誉なんてたかが知れてるし必要がない。俺が望むのは一つだけだ。

 

「こいつを、白河を保護してください。お願いします」

 

 深々と頭を下げて真摯にお願いする。これしか方法が浮かんでこなかった。白河を戦場に出さない様にする為には。

 

「ほう、保護と言うと?詳しく聞かせて貰おうじゃないか?」

「白河を戦場に出さない。白河の生活を俺と同じ程度保障する。白河を危険から守る。以上の事を約束してください。」

「しかし、異邦人は戦場においてそれなりの戦力になる。それを遊ばせておくのはなぁ」

 

 そう言いながら、俺達を値踏みするかの様に見遣る。此処が正念場だ。

 

「白河が戦場にいた場合、俺は気になって戦闘に集中出来ないかも知れません。せっかく手に入れた勇者をそんなことで失うかもしれない。そんなことお断りですよね?」

 

 勇者が貴重だとか、推測にしか過ぎないが要するにハッタリだ。しかしこれ以上方法は思いつかなかった。

 

「たしかにのう、勇者が手に入るなら安い物かもしれん」

 

 よし、通った。

 

「しかし、この約束をすると言う事は、君が勇者としてそれ相応の戦果を上げなければいかん。その事は承知しているかね?」

 

 上げて落とされた気分だ。確かに、条件を出すならそれに見合う価値を示さないとならない。

 

「はい、承知しています」

 

 ええい、毒を食わらば皿までだ。勢いではあるが頷いて承諾する。正直なところ、今は正面のアルダン様より隣の白河が怖い。俯いていて表情が分からないからだ。

 

「わかった。その条件であれば認めよう。宜しく頼むぞ勇者殿」

「それと、聞いているとは思うが部屋はそのまま君たちの部屋として使って良い。給金も出すからその範囲では好きに使って良い」

 

 ありがたい限りだが、隣から冷気を、冷気を感じる。

 

「分かりました。細かい所はまた後程、今日は一旦これで失礼します」

 

 そう言って、アルダン様の反応を待たず足早に白河の手を掴んで退室した。

 

「……私に、何もせずのうのうと、生活していろって、言う事ですか?」

 

 部屋から出た途端に白河が喋り出す。淡々と話す様子はむしろ恐ろしかった。

 

「そうは言ってない。白河にはやって欲しい事があるんだ」

「……なんですか?」

 

 未だ怒り冷めやらず、といった様子で白河が言う。

 

「仲間を作って欲しいんだ」

「仲間」

 

 ポカンといった様子でオウム返しに白河が吐き出した。

 

「そう、仲間だ。俺たちの状況は非常危うい。だから、俺が勇者やっている間に白河には、信用出来る仲間を作って欲しいんだ。これはお前にしか出来ない事なんだ」

「私にしか出来ない」

 

 一気に言い募って、勢いで押し切れ。頼む通じてくれ。

 

「そう、そうですか……分かりました。先輩が戦場に出てる間に仲間を作ります。作りますとも、どーんと任せてください!」

 

 後輩が単純で助かった。兎も角これで考古の憂い無く戦う事ができる。ひと段落だ。

 

「よろしいでしょうか?」

 

 いきなり声を掛けられてビックリした。振り返るとそこにはエレノアさんがいた。

 

「い、いつからそこに居たんですか?」

「つい先程でございます」

 

 本当か?全く気配を感じられないのだ、兎も角聞かれて不味い話でも無かったし、良しとしよう。

 

「お話が終わりましたのなら、お部屋をご案内いたします、何分この王城は広い物で」

 

 そう言い終わるが否や、静かに歩き出す。少し慌てながら着いて行く。

 

「勇者になられたそうで」

 

 エレノアさんが歩きながら話しかけて来る。本当にどこから聞いていたのやら。

 

「はい、俺が勇者でした。」

 

 そう言うと。エレノアさんは振り返ると深々と一礼をした。

 

「王国民として、感謝を。勇者様におかれましては、重大なご決断をされた勇気に尊崇を。」

「……いえ、自分が勇者だったのを思い出しただけですから」

 

 咄嗟にこう言えた自分が少し誇らしく思えた。そうだ、自分は今から勇者なのだ。そんなことをしている間に部屋の前に戻ってきた。

 

「勇者様、この後の事は通達あるまで待機していただきます。何かご要望があればこのベルをならして頂ければ直ぐに飛んで参りますので。」

 

 ベルが渡される。待機といっても如何したものか。

 

「食事などはどうすれば良いのでしょうか?」

 

 そう困惑気味に尋ねると。

 

「お食事は1日に三度朝食昼食夕食がございます。それぞれの時間ごとにお部屋に運ばせていただきます。」

「他にも疑問があればなんでもおっしゃってください」

「なら、身体を動かせる場所はありませんか?」

 

 これから勇者として戦うのであれば戦う術は早く身につけておきたい。

 

「それでしたら適任者がおりますので、後でこの部屋を訪れるようこと付けして参ります」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

 そう言ってエレノアさんは下がっていき、部屋の中に俺たちは入って行くのだった。

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