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Lamia?  作者: mo56
第1章 放浪にて
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85話 二人きり⑩

 もう誰なのかわからないくらいまでに、ラヒムはグリダの顔をメッタ刺しにしてやると、彼は動かなくなった。

 酒場に新たに死体を作ったラヒムは満足そうに彼から離れると、血糊がベッタリとついた短剣を、近くのテーブルに置いてあった清潔な布切れで拭い取り、短剣を鞘に収めた。

 ユエはラヒムから少し離れた席で彼に対して拍手をしていた。


 「勉強になりました。」


 と彼女は顔に笑みを浮かべている。

 しかし、それとは対照的に、彼女の対の席に座る仲介屋はあいた口が塞がらないようだ。

 彼はなんだかんだ言っても、きっとグリダがラヒムを仕留められると思ったのだろう。

 その為にわざわざ大したことのない腕と言って、ラヒムの油断を少しでも誘おうとしていたのだろう。

 確かに甲冑を着込んだ相手に対し、ラヒムの装備は心もとなかったが、それでも彼は見事に重装甲のグリダを返り討ちにしたのだ。


 「いやぁ・・・驚いた。あんたは本物だ。」

 「あんな奴で俺を仕留められるとでも?」

 「もしかしたらいけるんじゃないかと期待してたんだが、どうやら俺は本当に焼きが回ったらしいな。」


 仲介屋は諦めたように、肩を落として、コップに一杯酒を注いで、また飲み干したが、それ以上飲むことはない。


 「勘弁してくださいよ。仮にも傭兵組合で長いことやっている奴なら皆、彼のような甲冑着込んだ相手にどう対処するべきか心得ていますよ。」


 ラヒムは少し誇らしげに、仲介屋の隣の席に座った。

 仲介屋は観念したようで、力なくラヒムを見ている。


 「まさか、まだ刺客がいるとは言いませんよね?」

 「・・・いないよ。グリダで最後だ。強いて言うなら、奴等をあんたの元へ送り込んだ俺で最後だろうな。」


 仲介屋は怯えているようで、声を震わせながら言った。

 いつラヒムの短剣が素早く鞘から抜かれ、己の喉に突き刺さるかわからない。

 だが、こちらから襲おうとしても、長剣は既に床に投げ捨てていたし、仮に今手元にあったとしても、ラヒム程の手練を倒せる技量は仲介屋になかった。

 

徐々に刺客達の死体が消えていく中、重苦しい空気がしばらく3人のあいだに流れた。

 仲介屋は常に隣のラヒムに神経を尖らせ、怯える目を彼に向けるが、ラヒムは一向に仲介屋に襲いかかる仕草は見せない。


 「俺を・・・殺さないのか?」


 仲介屋は声を震わせながら、恐る恐るラヒムに聞いた。

 既に先ほどの余裕は仲介屋に無く、それは死刑囚がいつ己の死刑執行日を聞く声にひどく似ていた。

 しかし、そんな怯える仲介屋とは対照的にラヒムの声は穏やかな声で


 「あなたをロストさせても、こちらは一文の特にもなりませんよ。それより、先ほどの別口の話を教えてください。そうすればもう酒場を出て行ってログアウトして構いませんよ。」


 そうラヒムが仲介屋を見上げながら言うと、仲介屋は肩を落としながら、ラヒムに対して完全敗北を認めて、先ほどの別口のことを説明してくれた。


 「・・・あぁそれで助かるなら安いもんだ。別口っていうのはこれは騎士共からの依頼で、最近どんな奴でもいいから戦闘経験のある奴を流してくれって話だ。」

 「あのプライド高い騎士が?」

 「あぁ、そうさ。俺だって最初は裏があると思って疑ったんだが、報酬や手当が通常の依頼の何倍の話だったもんだから、俺のお気に入り共は皆騎士の方に流れちまった。」


 仲介屋は疲れたように大きな溜息をついて、少し間を置いて続けた。

 

 「まぁ腕がいいやつら限定だと思ってたんだが、連中は素人とかでも構わないと言って、手当たり次第にゴロツキやら半端な傭兵組合員だとか、挙げ句の果てにはそこらへんの旅人すら持って行きやがった。」

 「一体連中、何を考えてるんですか?」

 「それが分かれば苦労はしねぇよ。」


 そう言うと仲介屋は席を立った。

 思わずラヒムが何処へ行くと引き止めようと、彼の腕を掴むと


 「俺が知っているのはそれだけだ。それ以上は本当に何も知らねぇ。」


 とラヒムの腕を振り払って、仲介屋はゆっくりとこの凄惨な酒場を出ようとゆっくり出口へ歩きだした。

 だが、いきなり仲介屋は立ち止まって、ラヒムに振り向き


 「そういえば、あんた等これから何処へ行くんだ?」

 「・・なんであなたに教えなくちゃいけないのですか?」

 「いや、場所によっては、もしかしたら忠告が必要かもしれない。」

 「忠告?」


 思わずラヒムは彼に聞き返した。

 まさか、また場所を調べてラヒムの元へ刺客を送り込んでくるつもりかと思ったが、その様な狡猾な雰囲気は仲介屋からは全く感じられない。

 逆に今の彼からは、力が全て抜けてしまったかのように、頼りない雰囲気しか感じなかった。


 「そうさ。忠告だ。もしも・・だが、バストロクへ行く予定はあるのかい?」

 「・・・」


 仲介屋の言った言葉に対し、ラヒムは押し黙っていたが、仲介屋はラヒムの沈黙を了解と受け取ったらしく、そのまま力なくチャットを続けた。


 「あそこへ行くなら注意したほうがいい。俺の筋で調べたんだが、集めた連中は明日か明後日にでもバストロクへ集まって何か起こすらしい。・・俺はしばらく姿を消すよ。今頃になって騎士の連中、口封じとばかりに別口の話を斡旋した同業者を始末し始めたらしいからな。」


 それだけ仲介屋はチャット欄に打ち込むと、出口の方へ歩きだした。

 仲介屋の後ろ姿を見ながら、ラヒムは不思議な気持ちで椅子に座っていた。

 彼の言葉を全て信じるというわけでもないが、そんな嘘を彼がラヒムにつく必要性を感じなかった。

 だが、ラヒムの隣で今やっと食事を終えたユエは呑気そうに口元を清潔な布で拭いている。

 

 「そういえばラヒムさん。先程はどうも良い事を教えてもらいありがとうございます。」

 「えっ。あぁ・・・どういたしまして。」

 「代わりに私も良い事をラヒムさんに教えます。」

 「えっ?」


 ユエはそう言って、布切れをテーブルに置くと、素早く腰から戦闘用の鎌を抜き、足取りが重たい仲介屋の背中に投げつけた。

 鎌は投げナイフの様な飛び道具の様に正確な軌道を描くことはなかったが、かろうじて鎌の切っ先が仲介屋の首元へ命中し、深々と突き刺さり、仲介屋は何が起きたのかわからぬまま酒場の床へ突っ伏しすぐに事切れた。


 「姉さんからいつも言われていたんですが、唾つけてきた相手はタダで帰らせてはいけないんですよ。」

 「あぁ・・・ありがとう。」


 ラヒムは誇らしげに無い胸を張るユエに対して、酷く残虐なこのゲームに毒されてしまった彼女を心配しながらも、確かに大事なことだと思った。


 酒場は最終的に二人きりになってしまった。

 


『自分に後ろを向けた相手には容赦なく攻撃をしろ。相手は戦闘が終わったつもりだろうが、俺たちの戦いはこれからなんだぜ』

~傭兵組合所属 騙し討ちのドリー

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