22話 森の入り口
道中の道は馬車がぎりぎり通れるほどの幅しかなく、時に道を踏み外し落ちるプレイヤーもしばしばいると卵は警告しようとしたが、このゲームでしっかりと歩き慣れている二人には無用の事だと考え直しやめた。
「森が見えるな」
そうシシャモが疲れた顔で漏らした、槍をずっと担いで歩くのも疲れるものでやはり移動は馬車の方が良いと愚痴をこぼしていた。
「バストロクに続く奴ですよね」
「あぁ」
いい加減小突かれた痛みも消えいつもの調子良さが徐々に戻ってきたラヒムが卵に振り向いて聞いてくる。
「俺達が居た森とかと同じように追い剥ぎとかもでるんですかね?」
「あぁ出るぜ」
同じ追い剥ぎであるのに不安になるのはラヒムが元傭兵組合に所属していたせいでもあるが、この森に至ってはそんなことなど些細なことで
「でも卵さんは顔広いですから 大丈夫ですよね?」
と卵に旅路の安全を全面的に委ねるラヒムは不安そうに聞くが、残念ながら卵はそれに対し首を横に振って否定した。
それを見て直様ラヒムは狼狽える。
無理もない、今までだってたまに自分らの縄張りである森に他の追い剥ぎ組合所属の奴が張っていても、何度も所属のしていることを明かして避けてきたのだ。
それを否定されるのは彼にとっては初めてのことであろうから、
顔を不安に一杯にさせ何故なのか聞いてくる。
答えてはやるが長い文を打つのは面倒臭いなと井出は思ったが、できる限り素早くタイプすることにした。
「俺の顔は別にそこまで広いって訳じゃない。
それはラヒム お前の思い違いだ。あくまで俺のことを知っているのは本部に居る奴らと俺らが居た森に少数いるほかの同業者だけだよ。
だからあの森にいる連中に俺を知っている奴はいないだろうし、いたとしても見逃しはしないだろうな。
おい、いちいち 何故なのか だなんて文は打つなよ?返答するのも面倒くさいんだ。
長いが我慢しろよ。 でだ・・・森にいる連中ってのは追い剥ぎ同然の俺等と同じ愚図だけれども、正確には追い剥ぎではない。いや、やっていることは追い剥ぎなんだが、連中は組合に所属していない非正規の追い剥ぎだ。
しかも自分らを騎士とかに対抗するロビンフッド気取りでいやがるんだ。
しかもやることもさほど騎士とも変わらない。
追い剥ぎ組合と名前が被るのも面倒だし森賊って呼んだ方が手っ取り早い、それであの森にはそういう連中がゴロゴロいる。
だが、待ち伏せに関しては俺らより上手い方だろうな。
俺らみたいにすぐ傍らの茂みに隠れるなんてことはしない、あいつらは木の上に何時間でも待っているんだ。蜘蛛みたいなやつらさ」
そこまで打ち終えていい加減疲れたのでそこでチャット欄にその打った文章を表示させると、ラヒムはさっきよりも顔を不安でいっぱいにさせたが何も聞かなくなった。
森賊ってものがいつ出来たのかは詳しいことは知らないが、大体何故できたかは予想できる。当初のうちは騎士の略奪などに本気で対抗しようとした、元は平凡なキャラの集まりだったのであろう。
そんな経緯があって作られた森賊ができたのは騎士の動きが盛んになっていた4年程前だろう、騎士に対して恨みやら野望を抱くものが大勢いることは集落の連中を見たのだからラヒムには簡単に理解できるだろう。
そして騎士ってものがこちらの数が多ければ勝てるってものではないということもよく知っているだろう。
そして、それは4年前も同じことで当初の森賊には大勢のメンバーがいたそうだが、勢いに任せた戦略に統制のしっかり取れて尚且つ実力も確かな騎士共に足並みが乱れきっているような奴らが挑んでどうなるかは火を見るより明らかだったのだが、当初の森賊達にはそれが理解できなかった。
そのおかげでちょうど4年前に峠道と同じような戦いが規模をとても大きくして行われ、見事に峠の時よりも酷い多数のロストするユーザーを出し敗北した。
ロストした大半のユーザーは己の愚かさをそこで理解して転生したあとも二度と森賊に入ろうとはしなかったが、一部のロストをしても愚かさに気付くことができなかった馬鹿が続けているのが現在の森賊の実態だった。
しかし、馬鹿とは言え 今卵の文にあった通り森賊の連中は待ち伏せに関しては遥かに追い剥ぎ組合の専門家達を凌駕していた。
その為、森賊が縄張りとしている森に入るものは騎士ですらも苦戦する。
しかも 奴らに話は中々通用しない、長い森の中でプレイしていたことにより動かしているユーザーは廃人寸前の奴までチラホラいると聞いている。
あくまで架空の世界でそこまで憎しみが募るものかと思うと軽い恐怖を覚えた。
きっと現実とゲームが区別していないというのはきっとそういうことなのかもしれない。
「面倒な奴らだよな」
「あぁ」
疲れた声さらにひどくしてシシャモが呟くが、
それに応えた卵も疲れた声だった。
果たして先に行ってしまったリビ達が森賊のことについて知っているだろうか。多分知らないだろうと井出は考えていた。
待ち伏せが厄介な点を考えれば騎士よりも面倒な連中であるし、
森賊のことを騙すつもり言わなかったのならば、騎士のことだって言わないだろう。
そんな多分森賊の存在を知らない彼女らが、
森を抜けられるのかはわからない。
できれば途中で襲われてロストしていれば、
彼女らの身ぐるみを剥げるかもしれないとも考えた。
森賊は重たい戦利品は極力持ちたがらない奴らで、
森の中にいる時間が長いため、
必要最低限の戦利品しか持たないようにしているのだ。
換金するのは半年に1回ぐらいしかしないと、以前森賊崩れの追い剥ぎ仲間に聞いたことを卵は思い出していた。
となればきっと上手くすれば多量の銀貨袋などを、
手に入れられるかもしれない。
ラヒムの献上金にしても大分余るかもしれないと思った。
そう思えば森賊に出会う危険よりもその戦利品の可能性に賭ける方が良いと考えた。
「けど場合によっては俺等の助けになるかもしれないぜ」
「運がよければな」
卵が少し明るい調子で言ったが、卵の言いたいことがシシャモにはわかっていても悲観的な回答だった。皮肉屋でもシシャモの方が卵より多少現実主義者でもあった。
「森の中で槍を振り回すのはごめんだな」
疲れ顔で担いだ槍に少し目をやって彼は言った。
きっと森の中に入れば道も今より狭くなるだろうし、木々も所狭しに生えて槍は振ればつかえてそんな使い物にはならないだろう。そうなればリーチの短いラヒムの短剣や卵のピックが物を言うことになる。クロスボウは先に相手をこちらから見つけて先手を打たなければ効果も無いだろうし、普段の追い剥ぎ稼業と違って自分らが森に入る場合にはこれは無用の長物だった。
そんな疲れた声に卵の希望的観測も消え失せてしまい、峠道が終わりバストロクへと続く森の入口が見えてくると、まるでそれが不気味な魔界のようなおぞましい世界への入口のようにも見えてくる。
深緑に彩られた森の中に森賊などがどれだけ潜んでいるのだろう。
先手を取られ襲われたらきっとどうしようもないと気を引き締め、
三人は森の中にゆっくりと消えていった。
昔見たロビンフッドの映画(題名は忘れました)は今でも忘れられません。
特に忘れられないシーンを挙げるとすれば、待ち伏せをしているシーンでしょう。
いつ相手が来るのか待ち構えるのはとても緊張します。
その緊張が時間が経つにつれ興奮か恐怖に変わるのは人によって大分差があるんじゃないかと思いますね。
自分は数分ですぐ怖くなる質ですね、どうも肝っ玉が小さいんです。




