131話 今後
「どうしたんだ?」
「あぁ、ほら、バックスさんがロストしたんで、悲しんでるんですよ」
「別に永久にお別れって訳じゃないだろうが、転生作業終えたら、合流してくるんだろ?」
「それが、どうも...彼、別にリアルな知り合いではないですから、連絡先を彼女知らないそうで...戻ってくるかわからないそうです」
そうラヒムは意気消沈しているニッキに代わって、暢気にラヒムに運ばれた珈琲を奪って啜っていた。
「まぁ原型を止めるロストならともかく、綺麗に灰になっちまったからなぁ」
「えぇ、真っ白でしたね」
昨晩の凄惨たる戦闘の途中でロストしたバックスの最後を思い浮かべつつ、卵は店の天井を眺めた。
そして、視線を天井からニッキに移すと、彼女はやはり悲しんでいるのか、大きい背中を僅かに震わせている。
これが、ユエかリビであったなら、まだ話になるが、相手がどうもニッキだと、ギャグにしかならない。
「まぁ、そんな気負うなよ」
卵はそうニッキを慰めようと声をかけたが、彼女は彼の言葉に一切耳を貸さずに
「あのとき...すぐに加勢してればこんな事には...」
そんなような言葉をボソボソと呟いている。
昨晩のバックスがロストした件で、責任を感じているのだろう。だが、彼女の横から、ラヒムが昨晩自分を殴ったことについての件で、言葉をかけると、ニッキはその自責の呟きを、声を張り上げて続ける。
「おい、バックスのことはわかったから、俺を殴ったことは...」
「あのとき!!すぐに加勢してれば!!」
呟きは、既に宣言のような物に変わっていた。
「...まぁ馬鹿は放っておこう。問題は今後の身の振り方だ」
「なんだよ。そんなこと昨晩にちゃちゃっと済ませよ」
「うるせぇ お前が化け物殺した後、すぐにログアウトしたからだろうが」
シシャモが一同を仕切るように、話し出すと、横から卵が不平を言うので、すぐに黙らせた。
ピシャリと言われた卵は、ニッキと同じように、身を縮ませる。
「まぁ、俺たちは本来、そこにいるユエさんと、どっか行っちまったリビさんの護衛でここまで着たわけだが」
「えぇ...」
「まぁ、まず第一に報酬はどうなる?前金は貰ってあるが、成功報酬はまだだ」
「それは...」
シシャモがユエを睨むと、彼女はニッキと卵と同じように下を向いて縮こまってしまった。
「姉の方は、未達成だが、あんただけでも護衛できたんだから、多少は出しても良いと思うがね」
シシャモは腕を組んで、様子を見ている。
「...お金は姉さんが管理してたから...私はそんなに持ってなくて...」
「...つまり、成功報酬は払えない?」
「いぇ...でも姉さんが見つかれば、すぐにでも...」
「フザケるなよ」
ユエがしどろもどろに答えていると、シシャモは苛ついてきたのか、椅子の背もたれに掛けてあった槍に手を伸ばす、それを見てユエは怯えた声を出し、ラヒムがすぐさま横から彼に抑えるように促す。
「シシャモさん。なにもそんな女性から脅すような真似は...」
「黙れよ。お前はそれが本職だろうが」
ラヒムは必死に、彼女を庇おうとしたが、シシャモにそう言われれば元も子もない。
彼はそう言われると、申し訳なさそうに縮こまり、5人のうち3人も意気消沈してしまった。
傍から見れば、異様な光景である。
「まぁいい。別に俺はそこの変な三人組のような生業をしてる訳じゃない。特に今儲け話もねぇし、アンタが姉を見つけてほしいっていうなら、手伝う」
シシャモが変な3人組にため息をつきながらも、そう言いのけると、沈んでいたユエの表情が急に明るくなった。
「本当ですか?!」
「あぁ、そのかわり報酬は上乗せだぞ」
「えぇ、勿論!」
ユエはテーブルから身を乗り出して、嬉しそうな表情をシシャモに向けている。そうされると、シシャモの表情も自然と緩まって、彼は今度は意気消沈しているラヒムを見た。
「おい、チビ」
「ぇ?」
「え じゃない。俺はしばらく、ユエさんに付いてくが、お前も来るだろ?」
「あ...はい、勿論」
「だよな」
ラヒムは少々戸惑った表情であったが、ユエともうしばらく一緒に動けるのが嬉しいらしい。
それに、追い剥ぎ組合に渡す予定である上納金も、まだ手に入れてないのだ。願ったり叶ったりといったところか、嬉しそうである。
「となれば、卵も来るよな?」
「うん?まぁ...いいけどよ」
「よし、これで揃ったな」
卵も少し気を持ち直して顔を上げると、場は一名を除いて和やかなものになった
「...ニッキはいいのか?」
「あの馬鹿は放っておこう...できれば付いてきてほしくない」
専用チャットで、卵が落ち込んでいるニッキを眺めつつ、シシャモに話しかけるが、彼もその件に関しては賛同しかねるようであった。
「戦力にはなるぞ?」
「まぁあの甲冑も引きちぎるような怪力は魅力だがな...それはベルンとかで事足りる」
「まぁな...ん?ミダズ達はどうしたんだ?」
「あぁ、あいつらは別件でバストロクから離れたよ」
「別件?おい、団長に内緒でそういうのは駄目だろ」
「駄目じゃねぇよ。俺はお前が面倒なこと考えるのは大変だからと見越してだな...」
「なんか、馬鹿にされてるような気がする」
「気じゃねぇよ。馬鹿にしてるんだよ」
最後の言葉に卵は思わずシシャモを睨みつけるが、シシャモはどこ吹く風と相手にしなかった。
「まぁ...いいや。それより、リビを見つけるって言ったって、あいつバストロクにいるんじゃないのかよ?」
シシャモの嘲りを我慢しつつ、卵は周辺チャットで一同にわかるように文字を打った。
「いや、ココにはいない」
「何でわかる?」
「お前が来る前に、ユエさんに色々と聞いたんだよ。それによると、既にココ、バストロクにいる形跡が無いらしい」
「形跡がない?」
思わず、卵はシシャモを見返した。
形跡がないとは、どういうことであろうか。
確か昨晩はしきりにユエが、リビはバストロク内にいると言っていたではないか。
「私...てっきり姉さんがバストロクに到着してると勘違いしてて昨晩はあんな風に言ったんだけど、先ほどに姉と一緒に生活してるホームへ戻ったら、どうやら、一度も戻ってきてないようなの...」
「ホーム?」
「えぇ、まぁ商業区にあるんですが、そこで一室借りてて...でも、先ほど行ってみたら、入室履歴が全く無いの」
ユエは少々気まずそうにそう言うと、また視線をテーブルに移した。姉の話題になると、少々辛いようだが、卵はそれを見て、なかなか上手いロールプレイであると、関心するほどであった。
「どこに行ったかの手がかりはないのか?」
「無いことはないですけど...」
「じゃぁ教えてくれよ」
「...直接見た訳じゃないんですが、バストロクにいる知り合いに聞いたら、昨晩に姉さんが、騎士に連れて行かれる姿を見たって...」
「騎士に?」
卵は聞き返すと、シシャモが横から説明してくる
「あぁ、連中、昨晩の襲撃が上手くいかなくて、逃げ出したんだが、傭兵組合やら戦士組合の連中に追撃されねぇように、人質に何人か連れ去ったらしい」
「騎士道もへったくれもねぇな」
「追い剥ぎのお前が言うなよ」
4人は、未だに落ち込んでいるニッキを除いて、ユエから詳しい事情を聞き始めた。




