104話 バストロク炎上⑭
「ちょこまかと・・・うざってぇなぁ・・。」
「離れるなよ・・離れたら奴らの餌食だぜ。」
行政区の狭い路地裏に数人の傭兵が固まっている。
彼らは先程まで行政区の急報を受け、慌てて駆けつけた傭兵たちなのだが、行政区へ繋がる門をくぐった途端に、敵の奇襲を受け、散り散りになってこの路地裏へ逃げ込んできた。
最初は十数人程いたのだが、今は二人しかいない。
飛び道具を得物とする傭兵は、路地裏の入口や出口に不安げに照準を合わせ、近接武器を得物とする傭兵は不安そうな顔をして、得物を静かに構えていた。
「一体あいつら何なんだ?貿易区で殺りあった連中とは腕が違いすぎる・・。」
「わからねぇ・・・何しろバストロクの中央部分を占拠しようとしてる連中だ。それなりの手練だろうよ。」
「ついてねぇ・・久しぶりにログインして・・肩慣らしにはちょうどいいと思ったんだが・・・。」
クロスボウを構えた傭兵の隣から、刃こぼれだらけの長剣を構えた傭兵がため息混じりに話しかけた。
クロスボウを構えた傭兵の顔は顔全体を覆った鉄仮面で分からないが、長剣を構えた傭兵の顔は、革のマスクの隙間から垣間見える肌や突き出た鷲鼻に、様々な刀傷が見られる。
二人共、それなりの腕で今まで死線を抜けてきたが、今回ばかりはどうしようもないかもしれないと、内心焦っていた。
そして、その焦燥感を強くさせるかのように、路地裏の入口から巨大な影が現れ、こちらに近づいてきた。
燃え盛る炎の光の関係で、その入口に現れた者の姿は鮮明に見えない。
だが、巨大な影はどうやら斧を携えているらしく、それを構えてゆっくりとこちらへ近づいてきた。
「・・・おい、誰かこっちに来たぞ。」
「撃つな、味方かもしれねぇ。」
「味方ぁ?そんな奴誰も生き残っちゃいねぇよ。」
長剣の傭兵は相方を止めようとするが、相方は彼の静止の言葉に耳を貸さず、近づいてくる巨大な影に向かって、勢いよく矢を放った。
空を切る鋭い音を立て、矢は巨大な影に突き刺さった。
だが、影はそれに怯むことなくゆっくりとこちらへ近づいてくる。
二人は逃げ出したくなったが、路地裏から脱したとて、その外には騎士共が徘徊しているのだ。
「こっちに来るぞ・・・。」
「嘘だろ・・矢ぁ喰らって・・平気で歩いてきやがる・・。」
クロスボウを携えた傭兵は直様、矢を装填しようと手を動かし、長剣を携えた傭兵はすかさず彼の前に立って、剣を構えた。
「しかしよぉ・・いやに人数が増えちまったな。」
「あ?・・・あぁ・・俺たちも含めて7人か。」
「しかも、知らない顔までいるが、ありゃぁ誰だ?」
「俺だって知らねぇよ。どっちみち知ったって仕方がねぇことさ。ネットだもの。」
火のほとんど消えた商業区にて、騎士の猛攻から生き残った7人は宿場街へ繋がる門をくぐった。
既に商業区を粗方、制圧した傭兵連中が、既に宿場町の方へ移動していたらしく、目の前には先程から大量に目にしてきた光景と同じように、騎士の死体と傭兵達の死体が転がっている。
ただ先程の光景と違うことは、まだ門の周りには増援の為に控えているのか、傭兵たちが何人か門の入口で待機していた。
彼らは卵等の方へ訝しげな目を向けるが、こちらから何もしてこなければ、自分達も関わりはしたくないという手合いのようだった。
そんな連中を尻目に卵等は、まだ若干火の手が残っている宿場街を歩き出した。
しかし、卵にとっては良い獲物が沢山いるであろう行政区の方も気になりはするが、先にリビの安全を確認しなければならない。
わざわざこんな日にログインするとは、運が悪い奴だと卵は心の内で少し悪態をつきながらも、報酬の件もあるのでさほど邪険にもできないと、複雑な心境だった。
それに、先ほどミダズの奴が言った騎士連中についても気になっている。
厄介な存在ではあるだろうが、問題はその一人一人がどの様な装備をしているかだ。
まず、連中の装備している武具は、特注品と考えてもいいだろう。
独特の装飾が施され、しかも性能は折り紙付きだ。
そして、なにより山岳戦専門の連中とミダズは言っていたことを参考にすると、連中の装備は軽く携帯し易いということではないだろうか。
商業区に駆けつける前から剥ぎ取った物品よりも軽くて、尚且つ確実に価値のある代物なら、更に素晴らしい。
そうとなれば自分が背中や腰に付けている、ガチャガチャと喧しい音を立て続ける戦利品は、さほど価値が無いということになるだろう。
しかし、かと言って面倒だからと戦利品を捨てるわけにもいかない。
仮に行政区にたどり着いて、騎士連中と殺りあって戦利品を得られる保証はどこにもないのだ。
その為、卵はこの重たい戦利品を担いだまま移動するのは仕方ないと思っていたのだが、その時ふと、目の前に自分より大量の戦利品を担いでいる、仲間というよりは道連れと呼ぶのにちょうどいい奴がいた。
それはニッキだった。
卵の手に入れた戦利品より、大量に腰に付けたり背負ったりしているが、その戦利品はどれも大量に生産可能な、街の武具屋で二束三文で売られているような代物ばかりだ。
しかも返り血やら錆などで程度は非常に悪く、買い取ってもらうにしろ額は期待できそうにない。
多方、鎧だけを身につけた、即席騎士共を大勢仕留めたのだろう。
彼女はどうやら、力はあるようだが、目は肥えていないらしい。
それを見た卵は、彼女が利用できると考えた。
「なぁ?」
「・・・なんだい?」
先頭に立っている大女に卵が声をかけると、彼女は彼を見下ろす形で振り向いた。
振り返る際に首につけた、それなりの装飾の施された首飾りが煌めいた。
さすがにその首飾りが、高価そうなことまでは理解できるらしい。
卵はミダズ程口が回るわけでもないが、ニッキ程度の奴なら騙せる気がした。
このところ更新に間がだいぶ空いてしまい申し訳ないです。




