103話 バストロク炎上⑬
結局、難航した報酬交渉は、ニッキ等を巻き込みつつ20分ほど繰り広げられ、結果として、数の暴力に負けたシシャモが、ミダズに5千円ほどを支払うこととなり、ミダズ自身も交渉に協力してくれた、ニッキ等にゲーム内の通貨ではあるが、騎士をロストさせたことによる受給されるであろう、傭兵組合からの報酬を分け与えると言うことになった。
「終わったか?」
「あぁ・・・畜生。なんだか知らないが、大勢寄ってたかりやがって、金の亡者め・・・。」
「流石の副団長でも駄目みたいだな。」
「俺だって何も口が上手いわけじゃないよ。」
中々大きい金額を毟り取られてしまい、項垂れているシシャモに卵が歩み寄った。
金さえ要求してこなければ、ゲームにしろ現実にしろ柳沢は良い奴なのだが、どうにも3年前に初めて会った時から、金には汚い奴で、親睦会と称し、団員でファミレスで飲み食いした時も柳沢だけ頑なに会計を断ったのを覚えている。
「まぁ・・・柳沢にかかれば、ケツの毛も毟られちまうわな。」
「今月厳しいのによぉ・・・。」
「じゃぁ最初から金の話なんか、あいつにするなよ・・・。」
半ば呆れながらもシシャモの肩をたたいて、卵は彼を励ましながら、報酬の件で半ばお祭り状態となっている連中に話しかけた。
「・・・あぁ、悪いんだがぁ・・、ミダズ。ちょっといいか?」
「あっなんすか!団長!」
「お前、さっき川・・・いや、ベルンの奴はどうした?一緒にいるんじゃないのか?」
「団長ぉ・・・俺がいつもあいつと一緒に行動してると思ってるんすか?まぁ、確かにつるんでる時は多いですがね。確かさっき連絡したときは、えぇと・・・あぁ、ちょうど反対側の行政区の方にいるってチャット寄越しましたぜ。」
そうミダズはチャット欄の過去ログを確認しながら、卵に告げた。
今更ではあるが、バストロクは構成上幾つかの地区を円形にまとめた構造をしており、先ほど卵等が入った門のある地区が住宅地区であり、その西側が商業地区となっていて、そして、その商業地区の北側が宿場街となっており、その宿場街の東側に行政地区がある。
行政区とはその名のとおり、大都市バストロクを管理するキャラが集う地区であり、詳しいことはしらないが、バストロク内にある組合のそれぞれの組合長が収めているらしい。
「なんでまた、行政区なんかに?あそこじゃあ店も少ないだろ。」
「えぇ、確かに品物持っていくにはあそこは店もすくないっすけど、あいつの目的は別っすよ。」
「別?」
「はい、行政区の方に騎士の新手が現れたそうで、今俺らがいる商業地区もそこそこ厄介でしたが、行政区の方が若干、騎士の連中強いそうですよ。それのせいで、上の連中が先ほど組合員にチャットを飛ばしましてね。お陰で騎士ロストさせても、地区によっては同じ人数でも報酬に雲泥の差がつくって話っす。」
ミダズはとても残念そうに言って、他の連中と一緒に騎士をロストさせたから、自分の報酬がさらに減ってしまうと嘆いた。
しかし、そうは言ってもシシャモから5千円貰えるのだから、彼は大分儲けたのではないかと、卵は内心思ったが、どうやら金に汚い柳沢にとっては、ゲーム内の通貨も現実の金も同等に大事らしい。
「なんでも、さっきの騎士が鳳凰騎士団の副団長でしたっけ?取り巻きは雑魚でしたが、行政区の方に現れた連中は正式団員だそうで、相当傭兵連中苦戦してるそうっすよ。既に切り込み隊は全滅したそうっす。」
「鳳凰騎士団?」
「えぇ・・・奴のチャット文見てなかったんすか?」
卵の言葉に、ミダズは呆れたように溜息をついた。
しかし、『鳳凰騎士団』などと言う騎士団など、卵が騎士にいたときには聞いた事の無い名だった。
そう卵が小首を傾げていると、それを見てミダズがまたため息をついて、親切に説明を始めてくれた。
しかし、仮にも団員が団長にああも小馬鹿にしたような溜息をつくのは、少々癪に障るが、この場は我慢することにした。
「鳳凰騎士団ってのは、団長や俺らが本部をぶっ潰した大分後・・・まぁ最近に創設された騎士団でして、山岳地方の戦闘に特化した連中を集めた集団だそうっす。副団長は先ほどのように訳のわからねぇ事をしましたが、ベルンの話だと他の連中は比較的軽装で機動性を重んじる装備だそうっすよ。すばしこいそうですから、注意しろとのことっす。」
「・・・なんで山岳戦専門の奴らが、バストロクみてぇな平地の都市に送られてるんだ?」
「さぁ?それはわからないっすけど、どうやら山岳の騎士団連中もある程度、市街戦の経験を積んだ方がいいとの実戦訓練じゃないすかね。」
「じゃぁ・・・最近、寄せ集められた連中は・・予備役代りか。」
「つまりそういうことじゃねぇっすかね。」
ミダズの言う事には、バストロクに送られた騎士連中は、その鳳凰騎士団と最近大量に徴収させられた予備役替わりの連中らしい。
傭兵組合から高待遇なためにそっちに移った連中も大分いたらしく、先日まで共に戦っていた仲間が今は敵となって出くわす場面も多いらしい。
だが、その程度のことで、怯む傭兵連中でもなく、現に先程は嬉々として元戦友の首を掲げていたわけである。
「傭兵だけじゃなくて、旅人やら、ゴロツキやらなんでもありですが、でも結局、そんな中途半端な連中に得物持たせたってそんな大したものにはならないっすよ。問題は正式な騎士共の方っす。」
「・・・手練か?」
「勿論。騎士崩壊後に集まった連中ですからね。士気も実力もそこら辺に死体で転がってる、中途半端な即席騎士なんかより、段違いっすよ。」
それを聞いて、卵の中に久しぶりとも言える、強い戦闘興奮が高ぶってくるのを感じた。
どこぞの漫画の様に、強者を求める気持ちなど卵にはないのだが、ここのところ自分は戦闘に関して全く役に立っていない気持ちが強く、今晩はそれを払拭するいい機会だと思ったのだ。
「・・・あぁ・・ところで、なんでバックスの奴が倒れてるんだ?」
しかし、その戦闘興奮は、報酬の件で小躍りしているニッキ等の後ろでピクピク震えて路上に倒れているバックスを見た途端に吹き飛んだ。
そして、ラヒムのことが再び卵の中で思い出されることは、今晩中一度もなかった。




