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57. エピローグ

夕方。漆紀と彩那は自宅に帰宅していた。

といっても、この日は漆紀の気まぐれで彩那の自宅に来ていた。漆紀が彩那の自宅に来た理由としては、自分の自宅にばかり来られるのは不公平だという至極単純なもの。

彩那の自宅も漆紀の自宅とそれほど変わらない至って一般的な一軒家であった。

「んん~……竜王様が私の家に来るのは、なんだかちょっと恥ずかしいです」

「お前が俺ん家に来た時も俺は同じ気分だったよ。さーて、食材も買って来たし料理……の前に、掃除だな。ちょっと埃っぽいぞ」

彩那はここ最近はずっと漆紀の自宅で寝泊まりしている。彩那の自宅は家族が誰もいないため放置されて埃が少々床に積もっていた。

「じゃあ掃除終えたら料理しますよ! ささ、とっとと片付けましょう!」


漆紀と彩那は掃除を終え、料理を始めていた。漆紀はIHヒーターにフライパンを乗せて、キャベツと豚肉を強火で炒めて回鍋肉を作っていく。

彩那は隣のIHヒーターに鍋を乗せて、スープを作っていく。

「しかし解せねえ……彩那……女子でもエロ本の一つや二つ持ってるもんだと思うんだけどお前の部屋を掃除してもなんもなかったぞ」

「私の部屋でエロ本探してたんですか竜王様は!? ばか! あるわけないじゃないですか! そりゃ女子にも欲求はありますが私は司教家長女ですよ? 聖職者ですよ!? そんなもの……持ってるわけないじゃないですか!」

いつになく攻撃的な反応を示す彩那に一瞬漆紀は気圧されるが、臆さず彩那の言い方から揚げ足を取っていく。

「おい、なんでちょっと言い淀んだ。よし、なんかしらあると見た」

「女子の部屋を物色するなんて、この変態!」

「俺は男女平等で理不尽や不条理が許せねえ性分なんだ。そういう時だけ女の子を主張するヤツの言い分なんか聞かねえからな! 俺の部屋でもエロ本を探したんだ、俺が彩那の部屋でエロ本探したってお互い様だろうがよ!!」

「このぉ! スープ顔面にぶちまけますよ竜王様!!」

「食べ物は粗末にするなよ、それは引くわ。うわぁー……」

「あ、いや……それは言い過ぎましたね。でも、女子にそういうエロ本だのの話は本当にダメですよ? そんなの速攻絶縁ものですからね? 私じゃなきゃ絶対許さないですよ」

「お前以外にこんな話出来る関係の女子いねえよ」

「というか竜王様、フライパン見て手を動かしてください。焦げますよ」

漆紀が彩那からフライパンへと視線を移すと、具材が一か所に止まっており一面だけ焼け焦げかけていた。

「おわっ!? すまねえ! 料理中は余所見厳禁だよな……」

その後は何事もなく漆紀と彩那はそれぞれ調理を終えて料理をテーブルへと運んでいき、食卓を囲む。

漆紀と彩那は箸を持ち、両手で合掌する。

「いただきます」

「いただきます」

大皿に乗せた回鍋肉を漆紀と彩那はそれぞれ小皿に取っていく。

「彩那、今更だけど本当に怒ってないか? 竜理教を潰すってことで、俺が学徒会に協力すること」

「そのことですか? 私も賛成ですよ。本家竜理教は私からしても父と母を奪った敵ですし、なによりも竜王様の敵なんです。それを潰すというのなら、学徒会に協力する理由は充分ですよ」

「ならいいけど。ん、スープ旨いな。何入れたんだよ、俺みたいなバカ舌でも旨味がくっきりわかるぞこれ……コンソメとかか?」

「ふふふ、秘密です。変なものは入れてませんよ? ちゃんとした調味料を入れただけですからね。竜王様も思ったよりちゃんと強火で良い感じに炒めてて美味しいですよ回鍋肉」

お互いに料理を認め合うと、数秒程沈黙してお互いに料理の賞味を楽しむ。

そこから先に言葉を発するために口を開いたのは彩那だった。

「竜王様、これからですね」

「ああ。これから竜理教と戦う……学徒会の力も込みだけど、心強くはある。あいつら学徒会って学生運動とかの粘着質とかに関しては一級品だからな」

学徒会の負の面ともなる学生運動の際の粘着質さを漆紀が口に出すと、彩那は思わず苦笑いを浮かべて場の空気を和らげようとする。

「あはは、それはまあ。でも、あの会長さんは異例の会長ですよ。歴代会長と比べてもかなり若い……とはいえ若いだけで、彼の行動の節々には幼さは決してなかったですから」

「思想やそれにかける実力は本物ってことか……あんな柔らかい物腰でリーダー性はめっちゃあるってのか。人は見かけによらないなぁ」

「まあ、司教家という人を纏める家の長女から見た人物評です。私の評価が全てではないですから、そこは要注意ですよ竜王様」

「ああ。しかし、最近色々ありすぎたなぁ……烏丸のクズ発覚と大爆発。んで今日は学徒会会長と対面だ。今年に入ってから俺の人生揺さぶられまくりだ……正直疲れてきてる」

この場では口に出さなかったが、今年に入って漆紀は暴走族と暴力団とも戦い、佐渡では父・宗一も失っている。あまりに人生が大きく激動していると言えよう。

「お疲れなのはわかります。でも、私がいますから……もっと安心してください」

「そりゃ信頼してるよ。それでも……俺は、俺自身を信じられねえんだ」

自信のない面持ちで漆紀は彩那から視線を逸らして斜め下を見る。

「……では竜王様、提案があります」

そう言うと彩那は席から立ち上がって冷蔵庫の方へと向かう。冷蔵庫から何かを取り出すと、食器棚からコップを二つ取り出してからテーブルに戻って来る。

彩那がテーブルにコップと一つの缶を置いた。

「おい、それは……」

彩那は意を決して漆紀に切り出した。

「母が生前に冷蔵庫に入れていたノンアルコールビールです。ある意味母の遺品となります……これを飲みましょう。先日の大爆発で死んでしまった生徒達の弔い酒も兼ねてです。そしてコレで誓うのです」

「ノンアルとはいえ未成年でビール飲むの提案するとか……お前ほんとに聖職者かよ」

「失礼な! 私はいたいけな子供から痛ましい老人まで人の道を説くことだって出来るれっきとした聖職者で竜脈の巫女ですよ! この修道服に賭けたっていいです!」

彩那が自身の胸元の生地を摘まんで引っ張りながら漆紀にそう主張する。

「で、なにを誓うんだよ」

漆紀が問いただすと彩那は崩した笑顔で「決まってるでしょう」と言葉を続けた。


「竜理教を滅ぼすと」


竜理教を滅ぼすこと、それを誓おうと彩那は提案した。

漆紀にはこれから避けたり逃げたりする理由などなかった。彩那の目を見て決意や強い眼差しを受け取ると、とても目を逸らして逃げる気にはなれなかった。

「わかった、やろう。お前の母の遺品なんだ、逃げるワケにはいかない。俺が注ごう」

漆紀はノンアルコールビールの缶のプルタブを開けて、二つのコップに注いでいく。

「これは俺と彩那……二人だけの誓いの儀式だ。竜理教を潰す……誓うよ」

漆紀はノンアルコールビールを注いだコップを一つ持って斜め上方に掲げる。

「私も誓います。両親を奪った竜理教を許しはしません。必ず討ち滅ぼします」

彩那も漆紀と同じくらいの高さで斜め上方にコップを掲げる。

漆紀と彩那は、何の段取りもしていないのにも関わらず同じタイミングでコップを下げて、そのノンアルコールビールを口元に運んで飲んでいく。

お互いに飲み干すと、テーブルにコップを置いて見つめ合う。

「これからですね、竜王様」

「ああ。これから、俺達で竜理教を潰すぞ」

二人とも仄かに笑み、心の内の決意を確かに感じて前を向き合った。

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