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雷鳴の武神  作者: ジュリ
第一部 巡り帰りしもの
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第五十五話 戦いのあと

 

 「う、うーん……」


神崎三郎の猛禽類のように凛々しい顔を、秋の日差しが照らす。

眩しそうに目を細めながら、三郎はむくりと身を起こした。


「俺は……お前に負けたようだな」


頭をポリポリと掻きながら、視線の先で鎮座する男の背に語り掛ける。


「……いいや。本来なら俺が()されてれていた。お前の勝ちだ神崎」


クレス・レイオスが無愛想な表情をしているのが、背を向けていても伝わってくる。


「何を言うか、倒れたのは俺であってお前ではない。そんな卑屈になるなよ」


三郎はそう言ってから「ガハハハ」と笑い、軽い身のこなしで立ち上がった。

そして、座り込むクレスの元に歩み寄ると、ゴツゴツとした大きな手を差し伸べた。


「良き戦いであった!」


「ふっ……これじゃあどっちが倒れていたか分からんな」


手を掴んで、クレスが立ち上がった。


「それにしても……やっぱり"神来法術"は隙が大き過ぎたようだな」


三郎が言った。


「しんらいほうじゅつ?もしや、あの変身の事か?」


三郎に対し、クレスが訝しげに尋ねる。

そんな変身と言う言葉を聞いて、三郎が可笑しそうに笑った。


「はははっ!確かに変身と言われてもおかしく無いなあれは。しかし、変身の方は神来法術による物ではない。

その後の詠唱、"雷神"によるものだ」


――神来法術(しんらいほうじゅつ)。神崎家相伝の秘術で、祖先である神の力を完全に解放し、魔術に上乗せする事ができる。

しかし、法術の真言を唱えてもすぐに力が解放される訳でもなく、少しの間()()()()()が必要になる。


「加えて"雷神"の方も発動に時間の掛かる魔術故……

 中々反省点の多い戦いだったわい」


自嘲的に三郎が笑った。

それにつられて、クレスもまた微笑みを浮かべた。


「根っからの戦士だなお前は……今回は望ましい結果に終わらなかったが、万全の機会にてまた戦おう」


そう言って、クレスは三郎に背を向け歩き出す。

しかし三郎は戦友との別れがなんだか惜しくなっていた。


「どこへ行く?」


思わずそう投げ掛けた。

それにクレスが振り向く。


「取り敢えず服だ。それを取りに行ってから武器も回収する」


格闘祭が始まった時は、そのルールに従い指定のトランクスのみを履いて試合を開始した。

故に、今二人は服を着ていないし、武器も地下倉庫に預けたままだ。

 それを思い出した三郎は、妙に肌寒さを感じた。

そんな彼に対して、クレスが問い掛ける。


「お前は今からどうするんだ?神崎」


クレスもまた、戦友との別れが惜しくなっていた。

口数は少ない方だが、ぎこちなく言葉を投げていた。


「うむ。俺も一旦、友人に預けた服を取りに参る。少々肌寒いからな」


「そうか」


三郎の答えに対して頷いたクレスは再び背を向ける。

これ以上会話が続きそうには無かった。

しかし無駄なお喋りは無粋であると、三郎は思い至った。

そして、クレスも同じ考えだった。


「また()ろうぞ、クレス」


三郎が戦友の背中に別れの挨拶を投げる。

クレスは背を向けたまま、ただ拳を掲げてそれに応えた。

 今日の晴天のような清々しい笑顔を、彼らは浮かべていた。




 ――グラディウス郊外 南方――


「どうやら終わったみたいだな」


リラックスした様子で瓦礫に腰掛け、三郎から預かった衣服を放ると、ジャック・レインは煙草に火をつけた。

それに対して、ローラ・アンジュとマリー・ミシュレの二人は呆然とした様子で円形闘技場が建っていた方をただ見つめていた。


「500年を超える歴史を持つ都市が、数刻も立たないうちに崩壊したのか……」


ローラが独りごちた。

円形闘技場のみならず、グラディウスは大部分が灰燼と化し、町を囲む城壁も殆どが砕けて崩壊していた。

 この時トルミアの女騎士の脳裏によぎったのは、祖国の王都ヴェネットの情景。

ヴェネットもグラディウスと似た造りをした500年の歴史を持つ大都市だ。


(神崎三郎は危険すぎる……!トルミアから遠ざけるべきだ)


トルミア王の命によって、三郎を監視しているローラは、かの男と関わるべきではないと王に進言する決意をした。


「ローラさん……あいつら本当に人間なんですかね?」


マリーもまた、人の域を超越した戦いを目の当たりにして衝撃を受けていた。


「さあ、どうだろう……でも関わるべきじゃ無い。下手をすれば簡単に国が滅ぶだろうな」


ローラが厳しい表情でマリーに答えた。そして、ふとジャックの方に目を向けた。


「やけにリラックスしてるな」


煙草を咥えるジャックに呆れた様子で声を掛ける。

ジャックは「ふぅ」と煙を吐いた後、ニヒルな笑みを浮かべる。


「リラックスってよりか、何だか虚しくてな。あんなに見応えあって刺激的な余興はもう終わっちまった」


それを聞いてローラは、自分はやはりジャックの事が嫌いなのだと再確認した。

不謹慎にも、ジャックはさっきまでの状況を楽しんでいた。


(しかし、どっちが勝ったんだ?)


そして何より、ジャックが今気になっているのは戦いの勝敗である。

三郎が勝ったのか、クレスが勝ったのか。正直どっちが勝っていてもおかしくはない。

 そんな事を考えながら煙草を吸っていたジャックだったが、遠くから手を振ってこちらに向かってくる人影に気づく。


「ん?あれって……」


ジャックが目を凝らす。ローラとマリーもそれに倣って人影の方に目を向けた。


「……神崎だ。やはり生きていたか」

「なんかやたらと元気そうですね……」


鋼の肉体を露わにして、瓦礫の中を闊歩する大男。

紛う事なく、神崎三郎だった。


「おーい!服返してくれー!あと()()!!」


大声を響かせながら、手を振る三郎。

何とも面白いその状況に思わず笑みを溢しながら、ジャックは友を迎えた。




 ――グラディウス郊外 北方――


三郎がジャック達と合流した頃――グラディウス郊外にある小高い丘の上で、メリセント達は戦いによって崩壊した町の様子を見ていた。


「なんて事なの……」


メリセントが声を震わせる。

 かつて繁栄を誇った帝国の歴史を今に伝える都市は、無惨にも瓦礫の山と化していた。たった二人の人間によって。


「……お、お祖父様を探しに行かなきゃ……!」


惨憺たる光景を見る中で、メリセントは大切な人の顔を思い浮かべた。

結界を張っていたマテウスが無事だとは言い切れない。

しかし、無事を信じて彼を探すしかないのだ。

 メリセントは我を忘れて駆け出した。

そんな彼女を追いかけたのは学友のジェイドとジェフリーだった。


「お、おい待てよメリセント!俺たちも手伝う!」

「メリセント!一人じゃ危険だ!」


二人の声が届いているのか分からない。メリセントはただ必死に丘を駆け下って行った。

そんな少年少女の様子を傍から見ていたのはエルガイア王国の主従だった。


「放っておくのですか?」


女騎士ライラが王太子バルカに尋ねる。

バルカは三人の背中を見送った後、ライラの方に顔を向けた。


「君はそっちの方が嬉しいんだろ?」


ライラの嫉妬心を見透かした、悪戯っぽい笑顔だった。

ライラは顔を赤くした。普段は厳格な騎士もこの男の前では乙女になってしまう。


「そうですけど……私の気持ちじゃなくて、バルカ様の計画に支障は出ないんですか?メリセントの身に何かあったら……」


「まあ大丈夫だろう、街には()()()()()()()()。何よりアゼルニアの王子にはメリセントともっと仲良くなって貰わないとね」


「……?アゼルニアの王子って、あの双子ですよね?それが計画と何か関係が?」


突如としてバルカが口にしたアゼルニアの王子という言葉にライラは首を傾げた。

そんな彼女に、バルカは自身の描く計画を告げる。


「私の王位継承権を守る事と、その先にあるアゼルニア侵攻。両方を円滑に進める為の伏線だよ」


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