強くなりたい
朝食を終えてから俺は軽くウォーミングアップを済ませて、我が家の裏手にある訓練場で待機する。
「待たせたのレオン」
「ガーブ先生」
しばらく待っていると、俺の剣の師匠であるガーブ先生がやってきた。
筋骨隆々で体格も大きく、髭が異様に似合う40代くらいの見た目のこの人はーーーしかし、こう見えてすでに70歳を越えているというまさかの真実。そして、すでに引退をしているが、この国の騎士団で最強だった人でもある。
そんな人に、剣を教わっている理由は・・・まあ、父上の交流の広さによるものが大きい。
「それじゃあ・・・今日もよろしくお願いします」
「ほほ・・・よかろう」
俺はそう挨拶をしてからガーブ先生に訓練をつけてもらう。
「ふっ!」
ギン!と音を立てていた俺の一撃をガーブ先生は軽く受け止める。
「ほほ・・・今のはよかったぞ」
「ありがとうございま・・・す!」
余裕でそう言ってくるガーブ先生に俺は身体を静めて手首を回転させて一撃加えようとするがガーブ先生はそれを予測していたかのように簡単に避けてしまう。
しかし、俺も避けられることは想定内だったのでそのまま距離をとってすぐに剣を構えて一息つく。
「ふむ・・・来ないならこちから行こうかの」
しかし流石ガーブ先生ーーー俺が一息ついてる間に一息で間合いを詰めてきて物凄い勢いで一撃を加えてくる。
普通の人間では見切れないそれを俺はかろうじて捉えてギリギリで回避して、ガーブ先生に反撃を試みるが・・・
「甘い!」
「ぐっ・・・!」
ガーブ先生の蹴りが俺の胴体に入りおもいっきり後方へと吹き飛ばされる。体格差と力の差が大きいので今の一撃はかなりのダメージになり俺は持ち直すのに数瞬時間を要してしまい結果ーーー
「ほほ・・・まだやるかの?」
「参りました・・・」
ガーブ先生の剣の切っ先が俺の喉の近くに置かれた。
俺は両手を上げて降参のポーズをとる。
本日4度目の負けだ。4回の立ち会いの全て全敗。本当に化け物じみた実力の爺さんに俺はため息ついて続きをお願いした。
「ふむ・・・動きは大分良くなってきているの」
休憩になってからガーブ先生がそう言ってくれるが・・・
「まだまだです。先生の動きが見えても対処が出来ないと意味がないので・・・」
「なに、ワシとお前では体格差と経験差が大きいからの。それを加味すれば十分過ぎるほどの実力じゃよ」
「ありがとうございます」
とはいえ、素直に喜べないところではある。
ガーブ先生に剣を習ってからだいぶたつが・・・いまだに俺はこの人に一撃加えることもできない。
もっと頑張らないとな・・・
「レオン様。お疲れ様です」
そんなことを考えているといつの間にかアリスが現れて座り込んでいる俺の顔を濡れたタオルで拭いてくれる。
汗ばんでる顔に濡れたタオルの心地よい感触を味わっているとどこから取り出したのか水の入ったカップを用意して待機していたアリスーーー俺はそれを自然に受けとると一息で飲んで落ち着いた。
「ありがとうアリス」
「いえ・・・本日はこれで終わりですか?」
俺はそのアリスの問いにチラリと先生の方を見ると・・・先生は頷いて答えた。
「そうじゃの。今日はこれで終いにしようかの」
「わかりました。ではお着替えを用意してお待ちしてますね」
そう言ってからさっさか屋敷の中に入っていくアリスーーー本当にメイドっぽくなったなーと思っていると何やらガーブ先生がニヤニヤしていた。
「モテモテじゃの~」
「おちょくってるんですか先生?」
「なに・・・強い男の特権みたいなものじゃからな。素直な感想じゃよ」
「強いって・・・俺はそんなに強くありませんよ」
まだまだ足りなすぎる・・・そんなことを考えているとガーブ先生は苦笑気味に答えた。
「お主はまだ6才じゃろ?焦ることはない・・・何よりその年でこれだけの実力を持っておる者などそうそういないからの。おそらく現役の騎士団の連中よりも今のお主の方が強いじゃろうしーーーもっと胸をはれ少年よ」
「・・・ありがとうございます」
実感はないが・・・そうなら嬉しいと思いつつも、引退してるのにそれ以上の実力のこの人に若干の恐怖を抱いてしまうのは仕方ないだろう。
「そういえば・・・国王陛下に明日謁見に行くそうじゃな」
そんなことを考えているとガーブ先生がそんなことを聞いてきた。
「父上に伺ったんですか?」
「うむ。まあ、お主の場合色々と特別じゃからの。いずれは陛下に目をつけられるとは思っていたらの」
先生は俺が男なのに魔法を使えることも・・・アリスとリリアを拾った時のことも知っているので特に驚いた様子はなかった。
そういえば・・・
「先生。陛下はどういう方なんですか?」
「なんじゃ、会ったことないのか?」
「あるにはあるんですが・・・なにぶん一瞬だったのであまりお話も出来ずに軽い挨拶しかできませんでした」
「ふむ・・・まあ、陛下は一言で言えばーーー面白い人じゃよ」
「面白い?」
不思議に思って聞き返すとガーブ先生は「ほほ・・・」と笑ってから言った。
「まあ、明日会えるんじゃし、色々話してみればいいじゃろう。ワシからはあまり言えることはないしの」
「そうですか・・・」
色々気になるが・・・まあ、直に会えばわかるだろうと俺はそこで思考を止めて先生にお礼を言ってから屋敷に戻った。




