闖入者
◆
『司令官。地球から司令官宛に暗号通信だ。知り合いだと言っている。受けるか?』
俺は、当たり前だが“今度地球防衛艦隊の司令官になった。わーい。凄いだろー”とか言って他に情報を漏らした事は無い。知り合いだって?
『映像通信だ。大事なことだと向こうは言っている。』
正面スクリーンに繋いでください。とアレックスに頼む。
「やっほー。元気してた? 今日の概論のテスト、サボったでしょ。留年しても知らないよ。」
画面に写ったのは、友人の鈴木さん。ショートヘアの黒髪に気の強そうな瞳。きっぷのよい快活な美人さんだ。同じ大学の経済学部の学生で同学年。
いや実は、今も友人なのかどうかはちょっと微妙だ。数ヶ月前に3度ほどデートをして3度めのデートの帰りに、当方は大破・炎上・轟沈している。要はフラれたって事だ。
サキが俺の思考を読んだらしく、横目でちらっと俺を見る。
『君が司令官になったんだね。おめでとう。
お姉さん、調査不足で今回逃した魚は大きいよ。反省反省。』
反射的に挨拶を返そうとしてしまったが、現在はそういう状況じゃない。
「なんで、ここに連絡を? あなたは一体何者だったんですか?」
いや、鈴木さんって事は知ってるが。
まさかとは思うけど、敵??
『恋人に、その言い方は失礼でしょ。
助けてあげようか?と言おうとしてるのに。』
いや、恋人じゃないし。フッたよね?!
彼女は口調を改める。
『“光輝ある孤立”艦隊所属 地球防衛艦隊 司令官閣下。 私はケプラー186f国防軍より派遣された調査員です。現在ケプラー186f派遣の臨時大使としてお話させて頂いているとご理解ください。 ご存知でしょうが現地では“鈴木”と呼ばれています。』
調査員って要はスパイまがいって事か。
俺は何も喋ってないぞ。デートしたの普通の大学生の時だし。
調査能力自体に関しては優秀と認めざるえない。
『端的に申し上げます。当惑星ケプラー186fを貴艦隊の保護下にいれていただきたい。了承いただけば、当方は地球の危機である、現状を打破するために協力の用意があります。』
ちょーっと待った。
エリに脳内で尋ねる。“光輝ある孤立”艦隊って何? 保護下ってどういう意味?
視覚内にエリからの答が投影される。
質問1に対する答:“光輝ある孤立”艦隊とは要は、“本部のお偉方”管轄下にある私達のような艦隊を、外からは一般にそう呼ぶって事です。
質問2に対する答:“保護下におく”とは、現地司令官の裁量で、配備されている艦艇を使用して地球以外の他の惑星の防衛を引き受けると言うことです。
我々の本部は、他との同盟を正式には認めません。
各司令官が個人的に他(今の場合地球以外)を守るのは司令官の裁量範囲として、お目こぼしされています。
エリよりの補足:デートですって! ハニートラップにそんな簡単に引っかからないでください。情けない。
サキよりの補足:不謹慎にもほどがある! 後で詳しく説明して欲しい。
いや。デートって言っても司令官になる前ですし。あ、でも司令官候補って知ってて近づいたのかも。は~。やだなあ人間不信になるなあ。
とりあえず今はお仕事しますです。ハイ。
「協力の用意があると仰いましたが、具体的に何をしてもらえるんですか?」
俺は尋ねた。
『金星の大気圏内に重巡3、軽巡2を以前から待機させています。敵の巡洋戦艦を不意打ち出来ると思います。当方の艦艇は前世代のもので人工知性体を載せてはおりません。使い捨てて構いません。』
俺はちょっと引っかかった。
「地球人としてお尋ねしますが、なんで重巡と軽巡が金星の雲の下で待機してるんでしょうか? 今、以前からと仰いましたが。」
ちょっと固まる彼女。
エリからの情報が視覚内部に表示される。
エリからの補足:大勢力(例えば我々の艦隊)とか来なくて隙が出たら、自分達で地球を軍事力で領土に組み入れようとしてたとかの可能性が高いですね。
性悪ですね。(にっこり)
鈴木さんが喋り始める。
『えと、その。そうだ。地球を陰ながら防衛してたとか?うん。どう?』
いや俺に聞かれても。
『あーわかったわよ。“地球人としてお尋ねする”とか、わざとらしく尋ねるとか性格悪すぎ。フッて正解よね。うん。』
あ、キレた。エリさん当たってましたね。
『だいたい文明レベル5+で製造の最新型正規戦艦3隻、巡洋戦艦2隻とか、ちゃんと配備されちゃえば無敵でしょ? 幸運は私達と分け合いなさいよ。 助けてよ。あなたの艦隊で、うちの星(ケプラー186f)を守るくらい余裕でしょ。』
突然、視覚内にフラッシュした文字がズームで表示される。アレックスからだ。
“増援の為に地球に向かっていた、巡洋戦艦1隻の推進装置が停止した。
非常用速度に機関が耐えきらずの強制停止だ。短時間での修理は不可能。”
サキがあきらかに動揺している。マズイ。
サキ。交渉中だ。鈴木に動揺を悟られるな。交渉で足元を見られるぞ。
サキはあわてて顔を無表情に戻す。
鈴木さんに、俺は話かける。
「要望は理解しました。我々の防衛義務は地球が最優先であり装備に関しても、鈴木さんが思っているほど余裕がある訳ではありません。
しかしながら、もしそちらの戦力で、敵の巡洋戦艦の少なくとも2隻の足止めをしてもらえれば、私個人の責任において可能な限りの協力をお約束致します。」
『保護下にはいりたいなら、先に成果を出せって事ね。』
「端的に言えば、そうです。その際は、出来るだけの協力は約束させて頂きます。」
あくまで、“出来る限り”だ。
鈴木さんは、うつ向いてちょっと考えたが答えた。
『分かった。それでいい。』