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戦闘前 1

いよいよ遠征の日だ。

昨日あった都合の悪い事件は極力思い出さないよう気をつけながら、特務艦隊の旗艦スミスに皆で乗り込む。


スミスは、アレックスが今回の遠征の旗艦にと推薦してくれた艦だ。

アレックスの同期(同じ時期に製造された同シリーズの重巡洋艦)で気心がしれているらしい。前の戦いでこちらをかばってくれて負傷した艦だ。


転送時に感じる異常感覚が終了すると、スミスの艦橋が現れる。


『司令官、当艦に搭乗頂き光栄です』


スミスの実年齢はアレックスと同じはずなんだけど、アレックスより若い20代後半位の男の声だ。


スミス、面倒かけるけどよろしくね。


艦橋内部は、アレックスと同じく殺風景だ。


今回は全周に情報表示用のスクリーンをつけてもらってある。

やはり脳内に画像を出されるより外部スクリーンの方が、俺にはやりやすい。

部屋の中央に回転式の椅子が人数分おいてあるのは同じだ。


その他、スミスの内部には乗員4人の為に個室をあつらえて、最低限度の家具を設置してある。


今回の行程を以下にまとめておく。

===

1.ドックを出発して、冥王星軌道外側のワープ可能領域までゆっくり進む(亜光速)-20時間程度を予定

2.ワープで500光年を跳躍し、敵惑星のある太陽系の外側に到着・鈴木さん達の防衛艦隊と合流-2日間程度

3.目的の惑星サルガスを目指して、敵太陽系内を侵攻(亜光速で移動)

敵が向かってくる場合は排除-3日間程度

4.降伏勧告に応じない場合、陸上部隊にてサルガスに上陸。敵中枢を破壊。-3日間程度

===



戦力については以下のとおり


===

我が特務艦隊:戦艦1ジュピター、重巡5隻(旗艦スミス含む)、駆逐艦2隻

ケプラー防衛艦隊(鈴木さん達):巡洋戦艦1隻、重巡5隻(但し両方共に前世代型)


敵方予想戦力:艦隊規模=重巡数十隻規模を予測、地上戦力=不明

===


鈴木さん達の艦隊は旧型であり、主力は当然ながらうちの艦隊になる。その中でも特に戦艦ジュピターの破壊力に頼った変則的な艦隊だ。


出港を命令すると、しばらく俺にやる事はない。


エリは事務仕事ばかりで鈍ってしまった戦闘の感覚を取り戻すために、戦闘訓練を始める。


具体的には、スミスに一部屋を用意してもらい、サキに無効化フィールドを展開してもらった上で、攻撃の訓練を行っている。

まあ、俺達の世界でいったら格闘技の練習試合みたいなもんだろう。


エリの能力は発動の為の遅延時間無しで、光のマジックミサイルのようなものを複数同時に発生させると言う内容だ。

出現した矢は、目標を自動追尾して攻撃可能。

また1つの矢の持つ攻撃力は、エリ達の世界の重戦車の主砲に相当する。


無茶苦茶強力な攻撃力と感じるが、エリから言わせれば自己防衛の為に必要な最低限だそうだ。

多分、サキの攻撃能力と比較してるからそう感じてるだけのような気がする。


サキ自体の攻撃力は、重巡の主砲の威力と同程度と聞いている。だが見せてはもらえなかった。

自身の攻撃自体を無力化は出来ないし、そんなものを艦内でぶっぱなしたらスミスが沈んでしまう。しょうがない。


彼女サキのことだから、練習出来なくても大丈夫だろう。


暇をしていると、ジュピターから声を掛けられる。

彼女ジュピターの本体である戦艦の内部にも人間の居住用区画が用意されていて、乗員の運動不足解消の為に使える、艦首から艦尾まで続く細いトンネルがあるそうだ。


ランニングとか散歩とかが出来るらしい。

でも細いチューブが1キロ以上か。申し訳ないけど、ちょっと単調じゃないか?


『細いチューブといっても、自然の風景とかを周りに3次元投影出来るんですよ。

そよ風を吹かせたり、気候の調整も出来るんです』


おお、それはいいね。流石さすがは大型の戦艦だ。

皆で利用させてもらおう。


スミスとジュピター本体とは数十キロ位しか離れていないし、コストの消費もそれほど激しくないから転送を使って移動だ。


じゃあ、皆も誘って来るね。

と断ってサキ&エリを呼びに行こうとすると、困ったように


『チューブの中は狭いので、最初は私とご一緒しません? 駄目ですか?』


いや、駄目じゃないです。


でも本当のところは、二人で話すならサキを誘いたかった。

下心とかじゃなくて、昨日から彼女がどうも不機嫌なように感じて、話をしたかったのだ。


しかし、そんな事をジュピターに言える筈もなく、人間形態の彼女ジュピターと共に転送を開始してもらう。


移動用チューブの開始点に実体化する。


俺は目を見張った。地上に間違って転送されたんじゃないのか?


木立の中を真っ直ぐな道が続いている。

時間は夜に近い夕方らしく、木の合間から見える空は残照を浴びている。

じっと見ていると、そよ風が心地よい。


『どうです?凄いでしょ? 月軌道から地球を観測してた時によさそうな場所のデータを保存しておいたんです。データが荒い箇所は、見栄えが良くなるように計算で補完しましたけど』


うん。凄い。とても安らぐよ。


歩き始めると、ジュピターが腕を組んでくる。

『サキさんといつも腕を組んで歩いてるじゃないですか。私羨ましかったんです』


自分の理想の外見を持った女性に、密着されるってのは男としてはいい気分だ

でも。恋愛に関してどこまで理解してるかわからない相手ジュピターの無知を突くってのは色々駄目なんじゃないかと思う。恐らくジュピターは、子供並みの理解なんじゃないだろうか。


密着してくる腕を外して、手を握りなおす。

俺の事を褒めていいぞ。もの凄い意志力だろ。自分でも意外だ。


手を握って歩きながら、いろいろ話す。


どうもジュピターはサキの事をライバル視しているようだ。

仕事に支障をきたすほどではないようだけど。

戦闘の専門家同士としての意地もあるのかも知れない。


しかしそもそも分野が全く違うし、いくらサキがコスト大量消費型の強力な地上戦力と言ったって、惑星を破壊しかねない戦艦にかなうわけがない。


その事をジュピターに言って、ちょっとぶっきらぼうに見える事もあるけど、優しい女性だよと付け加えたら、


『そんな戦闘力とかにこだわっている訳ではありません』


とむくれられてしまった。


俺には女性の仲を取り持つとかは無理らしい。


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