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明日僕らは誰かを殺す  作者: 如月薊


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2/2

番外編〜溺れていく夜〜

 珍しく2人で飲んでいたロンとライトの夜の物語

 酒は飲んでも呑まれるなと最初に言ったのは誰だったか。と目の前で乱れる相棒を眺めながら僕は考えた。

「ロォォンせんぱぁぁい」無造作に乱れた服から露出した肌を真っ赤に染め、普段は光を灯しキリリと光る目はトロンと垂れ涙の膜が艷やかに光り、呂律の回らぬ口は絶えず譫言を垂れ流す。

 一言で言うなら、残念な生物が僕の横でギリギリ形を保っていた。

「なぁ〜せんぱぁい?」

「人の頬を強くつつくな」

「へへへへへへ」

「オイ待て、なんで新しく酒頼んでんだよ」

「ぅえぇ?」

「もう辞めとけ、自分で歩ける内に」

「もぉお、歩けないからぁ、の、むぅぁ」

「あ?」

 普段はここまで飲まないはずなんだが、何がコイツの、ライトのリミッターを外したんだか。今で何杯目かも定かではない。ペースが尋常じゃなく速い。

「マジでもう辞めとけって」酒を取り上げると、焦点の定まらない目が僕を映した。

「いつもはちゃんとセーブしてんだろ。なんで今日はこんな鬱陶しいんだよ」

「だってぇ、センパイ…とぉフタリ、だからぁ」

「2人のたびに酔いつぶれるのはどうにかしろ」

「ぅーん」目を閉じ机に突っ伏したライトからは、寝言のようなうめきしか返ってこなくなった。

「はー」ため息をつきながら、会計のため店員を呼ぶ、時間はもうすぐ夜11時になる頃か、お開きでも何ら不思議ではない時間だ。店員が来るまでにタクシーを手配して、コイツを運べるか?最悪運転手に手伝ってもらうか…時間を確認しつつ頭の中で計画を立て直す。

 僕と2人のときだけ酔いつぶれる相棒。世話させられる身にもなってほしいと思いながら、許されているという小さな優越感はどうしても僕の中に居座ってしまって。

 だからライトから誘われて断れなかったんだ。分かってる。多分ライトは、バディが僕じゃなくてもこうしてつぶれるだろう。僕達が肩を並べてるのはただの偶然、必然じゃない。だからこそ、キレイに見えるんだ。

 ボンヤリとライトから奪った1杯を喉に流し込みながら、あどけない寝顔を眺める。

 ちゃんと生を歩んでいれば僕は見ることのできなかった美しく、愛おしい顔。

「僕なんかに見せないほうがいいよ」

 どうかこの幼子が2度と、川に溺れることがありませんように。夜に押しつぶされずに息ができますように。

 ただ今だけは祈らせてほしい。

 目を閉じ、グラスを煽り一気に飲み干す。息を吐いてからタクシーが店に着いたという連絡を確認し、レジで会計を済ませる。

「さて、この大型犬をどうするか…」

 恵まれた体格の緩みきった体を支えられる程の筋肉は、残念ながらヒョロもやしの僕には備えられていない。

 よし、無理だな。店先のタクシー運転手に事情を説明し、2人で両脇から支え、なんとか店の出入り口まで進む。チラリとライト越しに運転手を見やる、背は僕より少し高いくらい、体型は細いとはお世辞にも言えない、左目に3つ並んだ涙ボクロが特徴的だ。首から下げられた[渡辺]という名札が視界の端で揺れた。

 なんとかライトを後部座席に押し込み、自分もライトの隣に乗り込みながらスマホをいじる。

「お客さん、お2人ともどちらまで?そちらのお兄さんの住所分かります?」

 運転席に戻った運転手が、後部座席を振り返りながら尋ねてきた。

「あぁ、コイツも僕と同じ住所で大丈夫です。場所は…」借りているアパート名を出すと、ある程度土地勘があるらしく、頷きながらエンジンをかける。

「いやぁそれにしてもお連れさん、中々に良い体格してますねぇ。何かスポーツでも?」

「確か高校の頃バスケ部だったはずですよ」

「そりゃ良いですね。若いころに動いとかないと、社会人になったらもう衰えてく一方ですからね」ハハハと笑いながら話を何となく引き伸ばされるがまま、続けていく。飲み屋街の終わりが近づいてくる。あと5メートル。

 真実を話すならライトは高校に行っていない。なんなら義務教育もまともには受けていないはずだ。ただ、どんな状況でも誰かの記憶に残るのは死神としてよろしくはないので、ライトには申し訳ないが、青春を捏造させてもらう。

 人口的な灯りで人を引き留めている飲み屋街を車窓から眺める。人も虫も明るい方に集まる。その灯りが自分にどんな影響を与えるかも知らずに。

  

…テレッテ、テレテレッレッレ〜〜…

タクシーのカーラジオから陽気な音楽が流れてきた。午後11時から始まる芸人のトーク番組だ。

「そろそろかな…」1人呟いたその声に「?お客さん?何か言いました?」運転手がルームミラーで僕を映した、次の瞬間


バキッ!!、バキ!!バキッッッ!、バキャッ!!!!

「え?」運転手の目が見開かれる。僕の後ろのビルの壁に付けられた電飾や看板が重力に流されるまま落ちていくのをルームミラー越しに確認する。よし。

「?、どうかしましたか?」運転手の顔に反応しつつ自然な動作で僕も後ろを振り返る。

「は?」そのまま驚いて言葉も出ない目撃者を演じる。瓦礫は歩行者を押し潰そうと落下していく。

「え?何ですかこれ、ヤバくないです?」

「いや、私も初めてなので、何とも…」

「えぇ、…っあー、とりあえず、タクシー、動かして貰っていいですか?コイツが吐く前には家に着いときたいんで」申し訳ない、でも客として早く帰りたいんだという感情を喉にのせて、申し訳ないという表情をしながら運転手に話しかける。

 ハッと我に返った運転手は「あ、あぁ、すいませんね。」と言いながら運転を再開した。


…ザザッ…ここで速報です。東京都、…市の飲み屋街…で突如ビルに取り付けられた看板などの一部設備の落下事故が起こり…現場は…した。警察によると…この事故で4人が死亡、12人がケガを負いました。今回の件…はビル責任者の管理不十分を指摘する声も…


 家に帰り、ラジオをつけると案の定事故の報道が流れていた。

(4人、確かターゲットは6人だったはず…)

パソコンを起動させ、死神ネットワークにアクセスし、キーワードを打ち込むとすぐに情報があがってきた。

 どうやらターゲットのうち2人は意識不明の重傷で病院に運ばれたらしい。担当者から追記で2日以内に病院内で仕留めるとも書かれていた。

(なら、僕達の仕事もこれで完了かな)2人なら僕達が出る幕もないだろう。

 パソコンを閉じ、ソファに体を沈ませながら息を吐く。すぐ隣で屍となったバディを見やる。

「ヴッ、オェ」顔色は生きてた頃の比にならないほどに青い。

「おーい生きてるか」ペシペシと軽く頬を叩くと体をモゾモゾと動かした。

「元から…し、んでるっ、す…」

「それもそうだ」

「…ぁ?どしたんですか?」口元を手で覆いながらこちらに視線を投げかけてくる。

「いや、大したことじゃない。仕事完了、もう寝ていいよってだけ」

「え?やったぁ…」言うが早いか目が閉じている。

「急な仕事なのに頑張ったな、お疲れ」汗で額に張り付いた髪を整えながら語りかける。もう聞こえてないか。


 つい2日前に、此岸に派遣された同僚から連絡が入ってきた。内容は[人間の動きに変化が生じた。対応を頼みたい]とのこと。

 聞くと、本来その飲み屋街周辺を担当しているタクシー運転手が体調を崩したらしく、代理の運転手で運行しているらしいが、その運転手は4ヶ月後に殺す予定のため、現場の近くにいられるのはよろしくない。客としてタクシーを利用し、時間までに運転手を現場から遠ざけてほしい。

 という内容だった。タクシーは客がいない場合、担当地区をゆっくりと走行してるらしく、たまたま現場に居合わせる可能性も十分にあり得る。代理でなければ死んでもよかったのだが、4ヶ月後と殺す事が決定してる以上死期を早めるわけにはいかない。

 丁度、僕達は仕事も入っていなかったので受けることにしたが、正直骨が折れた。

 タクシーを呼ぶタイミングが被れば、意味がないので、アプリから確実に呼び、顔と名前を確認するまでタクシーに乗り込むわけにもいかないので、連れが酔いつぶれ、1人では動かせないという口実を作るために、ライトには時間までに浴びるほどの酒を飲んでもらうことになったのだが、酒に慣れていないライトには苦行だったらしく後半は目に涙を貯めながら飲んでいた。その甲斐あって、さりげなく顔や背格好、ホクロなどの特徴が一致するか確認できた上、名札の名前も確認する事ができた。

 問題なかったのでそのままタクシーを出してもらい。同時にメッセージを同僚に送り、計画を行っても良いと伝える。

 その後は客として帰路につく。

 つけ焼き刃の計画だったがうまくいって良かった。あのままタクシーが止まっていたら警察に見つかるところだった。一時的とは言え記録が残るのは嫌だ。

 (あー、…疲れた)ライトには強がったが僕も大概限界だったようだ。

(明日は僕が朝ごはんの当番だから、早く…起き、ないと)

 瞼が急激に重くなる。離れていく思考の片隅で明日の朝の計画を立てていく。

(卵、使い切りたいからフレンチトーストがいいかな…牛乳足りるかな…)

 ドサッ、体をソファに投げ出す。柔らかいクッションにつつみ込まれ、意識をゆっくり手放していく。

 

 明日の自分に全部を押し付けて、僕らは深い眠りに溺れていった。


 酒に酔う人の言葉遣いが難しいですね…

改善点、感想、いつでもお待ちしてます。読んでいただけただけで感謝です。

 本当にありがとうございます。

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