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明日僕らは誰かを殺す  作者: 如月薊


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紫煙の先はあの世

 この物語は死後の世界で働く「元」人間達の物語。「生」と「死」が交わる場所で働く彼らは、今日もどこかで仕事をしているのかも知れない


 月が雲のベールを薄く纏う深夜二時、僕達は、人一人いない病院の廊下を歩いていた。

「先輩〜、今回の俺達のターゲットって何号室でしたっけ?」

「二◯五号室」隣で呑気に頭の後ろで腕組みしてる男を軽く見上げながら答える。ふと見上げた頭は思ったより遠く、ひょこひょこと揺れる癖毛がどこかたのしげだ。不服にも上背があるうえに、距離が近いため首元を見るのが限界だった。

「え〜なんすかぁ?俺の項なんて見ちゃって〜」僕の視線に気づいたのか、からかいを混ぜた声で言ってきた。

「あ?お前のスッカラカンな頭を嘆いてたんだよ」

「ひっどぉ」と軽口を叩きながら廊下を進む。

 誰もいない明かりもついていない廊下は永遠に続いているのではと疑いたくなる程に不気味だ。院内マップによるとそろそろのはずだが…。

「あ、ココじゃないっすか」二◯五号室、竹田裕貴様、書類と同じであることを確認し、静かに病室に入っていく。

 ベッドの上に横たわり、浅く長い呼吸を繰り返していた。ピッ、ピッ、と彼の心臓が動いていることを証明する機械だけが、静寂を等分し続けている。

 もう長くはないと思われているのだろう。生気もなく、意識もない。医療で繋がれた彼の体は、ゆっくりと、でも確実に死を引き寄せているのが見ただけでも感じられた。

「こいつか」ライトが彼を見下ろしながら言う。感情が感じられない、冷たい声。廊下では楽しげだったのにな。

 やはり彼にとって病院は、病室は嫌な場所なのだろう。

「あぁ、僕がやろうか?」ライトの顔を覗き込みながら聞く。

「いんや、俺がやります」ロンは下がってて

 そう言ってすぐ、ライトの右手が彼の胸元に伸びていく。心臓があると思われる所に右手を当て、ライトが軽く息を吐く。その瞬間、微かに竹田さんの身体が震えた。

 ぴーーーーーーーーーーーーーーーーー。

機会が異常を検知し叫んだ。

 竹田さんの心臓が止まったのだ。

「よし」そう言ったライトの右手には薄っすらと光る、ホタルの群れのような物がのっていた。

「終わったなら出るぞ」遠くから複数人の足跡が聞こえてくる。竹田さんの容体の変化がバレたのだ。

「え〜、ゆっくり行きましょうよ〜。どうせバレないんですし」口角が戻った顔で言う。

「早く帰って寝たいんだよ」

「あーね、昨日夜更かししてましたもんね」

「本が面白かったのが悪い」

「横暴っすねぇ」はははっ、と笑いながら言う。楽しそうだな。

 ガラガラガラッ、病室の扉がノックされずに勢いよく開いた。社会人としてノックはしろよ。

「竹田さん心肺停止!電気ショックかけるぞ!!」医者と思われる白衣を身に包んだ三十代半ばと思われる男が看護師に指示を飛ばしている。走ってきたからか顔には汗が浮かび、眉の寄せられた表情は焦りを全面に出している。無駄なことを。

 ライトと二人なんとなく病室を出るタイミングを逃し、そのまま病室に留まり徒労に終わる医療行為を見届けることにする。

「無駄なのに頑張りますねぇ」

「それで金貰ってるからな」

「立派に職務を遂行ってやつっすね!」

医者も看護師も誰一人として僕らに気づかない。透明人間二人は息を潜めることもせず、二人並んで窓際に立って月光を浴びている。

 その後もしばらく医者達は竹田さんを救おうとしていたが、ダメだと気づいたのか、静かに医者が首を振った。

「午前二時二十三分、竹田裕貴さんの死亡を確認しました。」腕時計を確認しながら医者が疲れた声音で事務的に言う。死に慣れてる人の疲れた声だった。

「竹田さんのご家族に連絡してきます」若い看護師が病室を走って出ていった。

 それを合図に、僕たちも病室から出ることにした。疲れた顔をしている人たちの間スレスレを通るが誰も目を向けない。当たり前か。

 病室を後にし、廊下をしばらく進むとライトが「にーーっ!」と変な声を出しながら、体を伸ばした。

「仕事おーっわり!」晴れ晴れとした顔だ。

「お疲れ」ライトの手にはまだ光の塊が乗ったままだ。

「ソレ、そろそろ閉まっといたほうがいいだろ」ライトの手元を指さしながら言う。

「あ、忘れてた」いそいそとホルマリン漬けでも入れそうな円柱の容器に光をそっと入れる。たった21グラムを入れるための小さな筒に光は落ちていく。

 光、僕たちは魂と読んでるそれは、まだ状況が分からないとでも言いたげに微かに点滅している。

「てかもうすぐ朝じゃないっすか!朝ごはん何食います?」

「まず寝かせてくれ、朝飯は要らん」

「不健康な先輩を想う俺の熱い想いが報われませぇん」眉を下げながら嘆く。

「うるせ」胸ポケットから煙草の箱を取り出し一本くわえて、火をつける。

 病院の廊下に似つかわしくない紫煙が細く続いていく。

「あー、病院で吸ってる!」クラスメイトの不正を見つけた小学生男子のように、指をさしてくる。お前は何歳だ、もう二十歳過ぎてんだろ。

「バレねぇよ、僕たち二人とも存在してないんだから」

「理由になってないっすよ。常識的にダメ!」

 聞き流しながら紫煙を吐く。月の光に照らされて少し神秘的に見えなくもない。ぼぉっと紫煙を目で追いながら思考が回っていく。


 「死神」命を刈る生と死の管理人。

 死んだ後の僕達に付けられた肩書であり、今の職業。

 人間は考える葦と誰かが言うほどに、人は脳を駆使し、命そのものに影響するまでの力を手に入れた。怪我を癒して、病気を防ぎ、天寿を全うできるようになった。

 すごいことだと思う。が、それをよく思わない存在もいた。それが神様と呼ばれている存在だ。

 神様は考えた。どうすれば人間は自分たちの思い通りに死んでくれるのかと、だが、神達の出した答えはシンプルだった。

 「死なないのなら殺せばいい。」

 単純だ。そうして生まれた地位こそ僕達、死神だ。

 ただ、神様はめんどくさがった、「人間の始末は人間につけさせればいい。」そうして、条件を満たして死んだものを死神とすることになったらしい。

 死んで良かったとは思わないが、死んでからもそれなりに楽しくやれていると思う。死ぬ前まで一人だったのに、今は隣に人がいる。それだけで何かが報われた気がする。

 きっと今晩もライトと借りているアパートに帰り、風呂に入って、眠りにつくのだろう。今の生活は死ななければ手にはいらなかったと考えると、なんとも皮肉だな。


 「…い、おーい、先輩〜?」ふと気づくとライトが僕の目の前で手をヒラヒラと振っていた。煙草の熱さが唇を軽く炙る。随分と長く物思いにふけっていたようだ。

「また沈んでましたよ?煙草、そろそろ危なくないっすか?」僕の方が身長が低いからライトは膝を曲げて僕の顔を覗き込んでいる。

「あぁ、悪い」煙草を携帯灰皿の中で潰しながら答える。いつの間にか病院の出入り口まで来ていた。

「いいですけど、久々の此岸で疲れたんじゃないっすか?風呂、先に入っていいっすから今日は寝てください!明日の朝には彼岸に帰んなきゃですし」

「そうする。アリガト」こういう気遣いをされるたびに、生きていればモテただろうなと考えてしまう。

 僕達が偽物の生を歩いているのは誰かに死を与えるため。分かっている。

 次また生を得るときには誰かを必ず殺すことになるのか。いや、今は考えずに月の下でモテるはずだった奴と二人、影を連れずに仮初めの家に帰るか。


 どうかこの生活が一日でも、一時間でも長く続いてくれる事を神に願いながら、僕は、僕達は歩いていった。

 

 まったり続ける予定です。

一個一個の話は短めで予定しています。暇人が適当に書いてる話なのでダメだし、アンチコメント大歓迎です。

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