第22話:《咆哮の果てに》
「――フィフス・アクセルッ!!」
冬馬の咆哮とともに、赤のオーラが爆ぜるように身体から溢れ出す。
その瞬間、全身の筋肉が悲鳴を上げ、骨が軋み、皮膚が焼けるように熱を帯びた。
(くっ……!想像以上だ……反動が、桁違い……!)
呼吸ひとつするたびに、痛みが波となって押し寄せてくる。
この状態で戦える時間は限られている。短期決戦しかない。
冬馬は大木の陰から飛び出し、赤の閃光となってジャガーノートへと突進した。
巨獣が右前脚を高く振り上げ、爪で冬馬を薙ぎ払おうとする。
冬馬はそれを紙一重で避け、左眼を潰された側――死角へと滑り込む。
溜めに溜めた一撃。赤いオーラが手甲に集中する。
「おおおおあああああっ!!」
叫びとともに、拳がジャガーノートの腹部を貫いた。
筋肉の薄い部位、先程刻んだ傷跡を正確に狙い、拳が皮膚を破り内部へと食い込んでいく。
「グォオォォォォッ!!」
咆哮。巨体がのたうつ。
冬馬は拳を引き抜くと、すかさず連撃を叩き込む。
腹、肋、内臓――狙うのは、硬い外殻ではなく内部の柔らかな部分。
冬馬の身体が、返り血で赤黒く染まっていく。
ジャガーノートが尻尾を振る。
「そんな手……もう二度と喰らうかよ!」
低く身を屈めて躱し、その勢いのまま、地を蹴った。
跳ぶ――!
強化した身体は軽々と空を裂き、ジャガーノートの上をとる。
回転しながら、かかと落としを背骨へと打ち込んだ。
骨が軋み、獣が呻く。
だが――同時に、冬馬の身体にも異常が現れ始めていた。
腕と脚の皮膚に、赤黒い斑点が浮かび、白目は血走り、鼻血が滲む。
毛細血管の限界――フィフス・アクセルの副作用だ。
地面に降り立ち、全身にオーラを張り巡らせる。
(……畳みかける……!)
そう決意した刹那――
視界が揺れ、膝から力が抜けた。
「――しまっ……た……!」
その一瞬の隙を、ジャガーノートは逃さなかった。
怒りに燃える巨躯が、再び牙を剥く。
迫る、刃のような牙。冬馬は咄嗟に叫んだ。
「ファースト・アクセルッ!」
全身に残る気力を振り絞り、間一髪で直撃を避けた。
だが、牙の先が冬馬の脇腹を裂き、鮮血が噴き出す。
吹き飛びながらも態勢を立て直すが、すぐさま――ぶちかまし。
怒れる猛獣の突進。
逃げる暇もない。冬馬はその巨体に巻き込まれ、背後の大木へと叩きつけられた。
「ぐっ……はあっ!!」
骨が砕ける音。口から血が噴き出す。
意識が遠のく。
しかし――その瞬間、彼の脳裏に、雪菜の顔が浮かんだ。
シャロン、シスター、孤児たち、ギルドの仲間たちの姿も。
(……まだ……ここでは死ねない……)
血まみれの冬馬は、震える左手を懐に伸ばす。
そこから取り出したのは、簡易爆薬3つ。
握り締めたまま、獣の顔面めがけて、左ストレートを打ち込んだ。
――だが。
獣もまた、本能でそれを感じ取り、音と匂いで冬馬の左手を噛み砕いた。
「がああああああああッ!!」
骨が砕かれ、筋肉が裂ける。
信じられない激痛に、冬馬の意識が飛びそうになる。
それでも、笑った。
「外は硬くてもな――内側はどうだっ!?」
最後の力を振り絞り、爆薬に気を流し込む――!!
瞬間、左手にオーラを集中してガードする。
(持ちこたえてくれよ……!!)
そして、起爆――!
ドンッッ!!
ジャガーノートの口腔内で爆発が起きた。
目、鼻、耳、口――あらゆる器官から、黒煙と血が噴き出す。
巨獣は、悲鳴すら上げられないまま、痙攣し、地面に崩れ落ちた。
――完全に、絶命。
森が、ようやく静寂を取り戻す。
勝った。だがその代償は、あまりにも大きかった。
冬馬はその場に膝をつき、折れた腕を見下ろす。
「……ったく……なんで、俺の人生はいつもこれだ……」
苦笑する唇から、また血がこぼれた。
視界が滲み、全身の感覚が遠ざかっていく。
それでも、冬馬の意識は消えなかった。
彼の胸の奥には、雪菜の声が、誰よりも鮮明に響いていた。




