最終話 公国を襲う天災編その5 そして……
「……なんでこーなった」
調子いいことを言った過去の自分を殴りたいぜ……
オレは魔導棺桶……イレーネが言うには救世の魔導スペースシップ、アポロディーテ13……の座席(処刑台ともいう)に納まりながら、猛烈に後悔していた。
「あはははは、先生に言いくるめられましたね……」
「結局アタシまで……」
安全対策を見直したらしいが、オレには窓にガラスが嵌められたこと、座席にクッションが付いたことしか違いが分からない。
「くそ、イレーネめ……覚えてろよ」
外には見送りの奴らが大勢集まっており、イレーネの演説が続いている。
「……諸君! 公国歴史上最大の危機ともいえる今回の国難に、この数週間、不安に思い、絶望に沈んだこともあったかもしれない。 だが! 希望の矢はついに完成したのだ」
「見るがいい! わが身の危険を顧みず、困難に立ち向かう彼女たちがここにいることを!」
「誇るがいい! 勇気ある彼女たちと同じ時代を生きることを!」
「そして祈ろうじゃないか。 彼女たちが我らの大願を果たしてくれることを!」
「歴史が彼女たちに脚光を浴びせる事が無くとも」
「彼女たちの運命がどのような道をたどろうとも」
「我らは彼女たちの献身を決して忘れないであろう!」
「……ねえリリ、なんか遠回しにコイツら帰ってこれませんって言ってる気がしない?」
「奇遇だな……オレも同じことを思っていたぞ」
「……(ピキピキ)」
自分に酔っているのか、好き勝手なことを言うイレーネにだんだん腹が立ってくるオレ達。
サナなんて、無言で青筋を立てているじゃないか。
だが、この期に及んでオレ達にできることは何もない。
イレーネの演説は続く。
「……旅立つ彼女たちに女神の加護があらんことを」
「皆様! 必ず帰ってきてください!」
「点火!」
オレ達の無事を祈る人々の歓声が聞こえる。
イレーネが発射スイッチを押し込んだのが見えた。
その瞬間、爆発的な加速とGがオレ達の身体を押さえつける。
……そして、オレ達は星になった。
*** ***
……1時間後……
オレ達は魔導ロケットに乗り、地上百数十キロ……星界の海へと到達していた。
背後には青い星が見える……ふむ、凄い光景だな!
オレ達の世界はこうなっていたのか……始祖竜の神々でも見たことないであろう光景に心が躍る。
「リリ様……本当に飛ぶとは思いませんでしたね……」
まったくだ……正直爆発に備えて防御陣を準備していたぞ。
「……一万……二千年後かぁ」
「? フィノちゃん……なにそれ?」
「ん……魔導通信端末で見た異世界の動画配信サービスが面白かったから」
「ふーん……今度わたしにも教えてね」
サナとフィノは気楽そうにしているが、ここまで来たなら隕石を迎撃できないと格好がつかないだろう。
オレの予想では、破壊するためのチャンスは一瞬……早すぎても遅すぎてもだめだ。
オレは、正面に見えている隕石の光を睨みつける。
少しずつ……ほんの少しずつだが、光が大きくなってくる。
「行くぞ! サナ、迎撃の準備だ……出し惜しみは無しだぜ!」
オレはドラゴンとして、持てるすべての力を解放した!
ドンッ!
金色のドラゴン・オーラがオレを包む!
オレの後ろではサナが回復魔法をスタンバイしている。
現時点では最強の布陣だ……オレは慎重に”ドラゴン・ブレス”のエネルギーを練り上げ、タイミングを見極める。
極限まで引き延ばされた竜の視界が、隕石を捉える……あと……5・4・3・2・1……ここだっ!
ブアアアアアァァアアッ!!
オレ渾身のドラゴン・ブレスが、スパークを伴いながら一直線に巨大隕石に向かって伸び……
スドオオオオォォォォンンッ!
直撃!!
大爆発を起こす隕石!
「リリ様! やりましたね!」
思わずサナが歓声を上げる。
「……いや!」
「まだ残ってる!」
抜群の視力を持つフィノが叫ぶ!
もうもうと立ち上る爆炎の中から、ボロボロになった隕石が姿を現す。
大幅に質量は減じているようだが……やはり星界ではオレのブレスも100パーセントの威力が出ないのか……。
くそっ! 相対速度を考えると、もう一撃は間に合わない……やるしか、ないか……躊躇している時間はない!
「……フィノ、サナを頼む」
「リリ様!? 何をっ!?」
ばっ!
オレはサナの制止を振り切り、魔導ロケットのハッチを開けると、星界空間に飛び出す。
使えるかどうか、試したことは無いが……
オオオオオオンンッッ!
雄叫びと共に、膨大な魔力がオレの身体に集積され……徐々に体が変容していく。
ほっそりとした腕は丸太のような竜の腕に。
すらりとした脚は頑丈な後ろ足と巨大な尻尾に。
愛らしい顔は、黄金の瞳が光る竜の頭に。
オレの身体は本来の姿……グレイト・ドラゴンのモノに戻っていた。
とはいえ、この形態でいられるのはおそらく数分間……それであのデカブツを止められるのか……いざ、勝負だ!
ガシイイインンッッ!
オレは、全身にオーラを纏いつつ隕石と相対速度を合わせ、全身を使って隕石の侵攻を抑え込む。
軌道さえ、逸らせれば……ドラゴンで隕石を押すんだよっ……!
「すごい……リリが……ドラゴンになって隕石を押している」
「リリ様……そんなに無理をしては……!」
くそっ……もう少し……あと少しで軌道が……。
全力で隕石を押すオレの力で、少しずつ軌道が変わっているのを感じるが……マズい……時間が足らない。
……オレの愛人たちはそこにいるし、まあ……いいかなと一瞬思ってしまったが。
オレのファンクラブの女の子たちが大勢いる世界だ。 守らねばらるまい!
ウオオオオオオンンッッ!
身体の奥底に残った、最後の力を振り絞り……その時、黄金色の光が、星界を明るく照らした……。
……
…………
……………………
……………………なんだ? この暖かい光は?
……
…………
……………………様!
…………………………リリ様!
「リリ様! もう、無茶しすぎですっ!!」
……うあ、涙に濡れたサナの顔が目の前に見えた。
この光は……サナの回復魔法か?
「サナ……お前…………どうして?」
よく見ると、サナの足首には細長いロープが結び付けてあり……魔導ロケットまで伸びている。
「フィノちゃんにここまでぶん投げてもらったんですっ! まったく、自己犠牲とか、リリ様には似合わないですよ!」
ふっ……オレの女たちのために、思わず無茶してしまったぜ……!
そうだな……まだ俺のファンになるべき女の子たちは大勢いるし、愛人たちを置いて居なくなるのはあり得ないな!
星界まで制し、自由自在にドラゴン形態を使いこなせるようになったオレに、もう敵はいないだろう!
オレは心地よいサナの回復魔法に身をゆだねながら、眼下に広がるオレたちの世界を見つめていた。
このオレ、リリ様の最強伝説はこれからも続く!!
これにて完結となります。
読んで頂いてありがとうございました!




