第19話 楽しい学院生活編 その5 クリスティーネと、凡人の憂鬱
その時、怒り狂ったグラン・ガルーダが、拘束魔法を弾き飛ばし、4人に向かって急降下する!
くっ……まずい! この位置からでは!
「ひっ……リリ様っ!」
奴が狙っているのは、サナだ!
*** ***
どうする? ドラゴン・ブレスでは4人を巻き込んでしまうし、攻撃魔法では着弾までに時間がかかる。
危険だが、転移魔法でサナの前に転移し、カバーするか!? だがそれでも巻き込む危険が……!
オレが一瞬、迷ううちに、”グラン・ガルーダ”の鋭い爪が、サナを……!
ガキイイイインンンッ!
その瞬間、奴の爪をはじいたのは、青い防御陣だった!
「グスタフ君!?」
おお、メイン盾のグスタフか!? よくやった! 男だが、オレのファンクラブに入れてやってもいいぞ!
「フレア・レーザー!」
すかさず放たれた、オレの爆炎魔法が、”グラン・ガルーダ”を焼き尽くした。
*** ***
フイイィィン……
「大丈夫っすか? サナ」
防御壁を消し、無害な笑みを浮かべるグスタフ。
「グスタフさん……」
と、そこに降りてくるオレ。
「すまん、サナ! カバーが遅れた。大丈夫だったか?」
「!! うー! リリ様、怖かったです……でも、助けてくれてありがとうございました!」
だきっ
すかさずオレに抱きついてくるサナ。
「…………(しょぼん)」
わりーなグスタフ、サナはリリちゃんにぞっこんなので、”トゥンク……”チャンスはないんだ……まあ、今夜ステーキでも奢ってやるさ。オレが男に奢るとか、有史以来初だぜ?
「ううぅ、わたくし……わたくし、またダメでしたわ……どうしてもモンスターを目の前にすると、舞い上がってしまって……」
「クリスちゃん、誰もケガしなかったんだから、結果オーライだよぉ、クリスちゃんの魔法がクソエイムなのは、みんな分かってるから……」
クリスは、あそこまでお膳立てされて、自分が倒せなかったのがショックのようだ。まあ、無理もないか。 そしてハンナ、それは慰めになってないぞ……
「こんなことでは、アスマン家の再興など、夢のまた夢ですわ……もっと、もっと力が……」
コイツ、思い詰め過ぎだな……なだめてやろうとクリスに近づくが……
クアアアアッッッアアア……!
再度、モンスターの雄叫びが響き渡った……ちっ、もう1体いやがったか!
「!! わたくし、今度こそやりますわ!」
クリスは、はっと顔をあげると”グラン・ガルーダB”の前に飛び出す。 おいおい、魔力結構使っただろ、無理しなくても、オレが……
「私の力、見せつけてやりますわ!! ”ライトニング・バースト”!!」
なっ! 雷撃系SSランク魔法!? だが、本来レベルBの魔導士が使えるようなものじゃ……!
「くっ……くっ……なんで……わたくしはっ」
案の定、レベルが追いつかない魔導術式を、発動させ切れていないじゃないか……って、危ない! 魔法が暴走する!
「…………えっ?」
ビイイイイイイィィンン!
次の瞬間、雷撃魔法が暴走し、稲妻が辺りにまき散らされる!
ギアアアアアアッッ……!?
稲妻が直撃した”グラン・ガルーダB”が黒焦げになる。 それはいいのだが、暴走の余波が……!
「くっ……!」
オレは、とっさに防御陣を出現させ、辺りに散った稲妻を相殺していく。 だが、カバーしきれなかった一条の稲妻が、ハンナの方に……!
「…………ほえ?」
「ハンナちゃん!!」
ドシュッ……
サナの叫びも空しく、稲妻がハンナの腹を貫いた……!
*** ***
どさっ……
糸の切れた操り人形のように、倒れ伏すハンナ。
どろり、と出血が拡がっていく……
まずいな……あの負傷、下手をすれば即死だぞ……くそ!
「サナ!」
オレは、サナを呼ぶ。 あいつの回復魔法なら、あるいは……!
「任せてください! リリ様! まだハンナちゃん、息があります! これならっ!」
パアアアァァァ……
眩しいほどの回復魔法の光……サナの全力回復魔法だ。 ふう、これなら大丈夫だろう。
見る見るうちに、ハンナの傷がふさがり、真っ青だった顔色に、血色が戻る。
「……ん……あれ……サナちゃん、私……雷撃魔法が当たって……」
「へへ、ハンナちゃん、回復魔法掛けたの。 もう、これで大丈夫だよ……♪」
「……って、私! んほおおおおぉぉお!? むしろ、ギンギンでみなぎってきたよぉ!」
ぴょこん! と飛び起きると、辺りを走り回るハンナ。
こら、女の子が”んほおおお”とか、昼間に言っちゃいけません! 相変わらず、サナの回復魔法はすげーな! いろんなトコロがチャージされるもんな、アレ。
こっちは大丈夫だな。 ……さて。
オレは、先ほどから呆然と膝を抱え、座り込んでいるクリスのもとに向かう。
「……わたくし、友人を傷つけて……やはり、わたくしはダメですわ……才能なんて無い凡人が……アスマン家の面汚し……もう、辞めたい……」
やれやれ……絶賛ネガり中か……めんどくせー! こういう時は……
オレは、クリスの首根っこをひっつかむと……
「グダグダ言ってんじゃねええぇぇ!」
クリスの頬を、”グー”でぶん殴った!
「ふぎゅうう!?」
女子とは思えない声で吹っ飛ぶクリス。
「えええええ!?」
「り、リリ様、そこは”クリスの……ばかぁ!” ぱーん(平手打ち) じゃないんですか……?」
ばかもの! こういうプライドの高い奴には、中途半端じゃダメ、鉄拳制裁だ!
「いたた……なっ! なにしますのアナタ! お父様にも殴られたことないのに!」
甘ったれるな! オレは太陽を背にして立つと、ビシイッ! と指をクリスに突きつける。
「ばかやろう! お前は誰よりも努力してきたんだろう! それを、”才能”の一言で片づけるのか! レベルBの能力で、”ライトニング・バースト”を発動させかけたのは、ただの偶然か?」
「ちょっとぐらい仲間を傷つけたくらいで、お前は過去の自分を否定するのか! アスマン家の誇りとは、その程度なのか!」
「……それに、ウジウジとネガってる暇があったら、まずはハンナを心配したらどうなんだ!? 大切な仲間は、お前の家柄とやらより価値がないのか? どうなんだ、クリスティーネ・アスマン!」
……やっべ、オレ、めっちゃいいこと言ったわ! こりゃ、クリスもオレに惚れたね……いやー、リリちゃん主人公属性で困っちゃうな~。
「ふふ、ふふふふふ……そうでしたわ……努力に勝る才能無し……ですわね。 ありがとう、リリ。 目が覚めましたわ……でも、そのまえに!」
バキイッ!
なっ、なにいぃぃ! コイツ、オレが妄想に浸って、油断してたとはいえ、オレに攻撃を当てただとっ!
「ふっ……でも、いいパンチでしたわ……アスマン家の跡取りとして、お礼を言います。 ありがとう、リリ」
クリスは、ぐっ! と握りこぶしを作ると、オレに差し出してくる。 あ、アレ? こんな熱血友情展開にするつもりじゃなかったんだけど……待たせるのは悪いので、一応こぶしを合わせておく。
「これで、アナタとわたくしは、永遠のライバルですわ! 覚悟しなさい! リリ・グレイト!」
「……ハンナ、ごめんなさいね。 わたくし、自分の弱さで大切なクラスメイトを失う所でしたわ……許していただけるかしら」
「もちろんだよクリスちゃん! 今日は女子組みんなで一緒に寝ようね!」
「おお、美しい友情……このグスタフ、感服っす!」
いつの間にか出てきた夕陽がオレ達を優しくてらす……えぇ……オレ、友情より、夜の愛情がいい……
つぶやくオレの声は、さわやかな風に流されていった。