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“自称”勇者と道連れの旅  作者: 針狸
雪山の神殿編

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36/62

36.雪山の神殿2

 入り口まで引き返し、全員の止血を終えて振り返る。


「何があると思う?」

「石像の魔物を見るに、“何か”は守られているな」


 スナッチ曰く、3人で歩いていたら突然飾りだと思っていた石像が動き出したと言っていた。似たような形の石像がたくさんあったにも関わらず動いたのはアレだけだった。


「引き返して元の山道に戻ろうぜ。僕はもう石系の魔物は嫌だ」

「私も無理に行くことないと思う……」

「あぁ、時間の無駄だ。ただでさえ辛い山道なんだから寄り道することないだろう」


 スナッチと顔を見合わせる。この考えの分かれ方は珍しいことじゃない。


「俺は行きたいなー。誰も探してなさそうな遺跡なんてロマンだろ」

「ここには勇者に必要な何かがある気がする」


 いつも通りスナッチと駄々をこねると、3人が頭を抱える。どうもこの3人は保守的な部分がある。危険を避けたいという気持ちはわからないでもないけれど、それでは得られないものもあるんじゃないかなあ。ただ人間はどうしても何かを手に入れてしまえば失いたくないという気持ちが強く出てくる。旅の最初に比べれば、良い理由だ。


「お前らなあ、前にもそう言ってただ行き止まりの魔物だらけの洞窟を探検するハメになったことがあっただろうが!」

「良い経験になったよねえ」

「あれを良い経験というならお前はとんでもない変態だよ」

「……もう壁にびっしり生えた卵は見たくない」


 震えを抑えるように自身の身体を抱き締めるリリム。あれは確かに目がつらかった。一体倒せば次から次へと卵からトカゲの魔物が這い出てくるのだ。卵を先に焼けばと提案したところ、卵からでろりとした……なんというか……思い出したくもない。武者修行と称して様々な洞窟に入ったり依頼を受けたりしたけれどあの経験は二度としたくない。


「でもここは人の手で作られた場所だろ?」

「ヤツらは場所なんて選ばん」

「石像が守っているなら魔物も厳選されてんだろ。その証拠にあの石像以外の魔物はまだ見かけていない」

「む」


 スナッチが目標をヤークに定めた。いつも3人に反対されても、結局勝ててしまうのには理由がある。




「人が作った建物なら、“魔法”に関したお宝もあるんじゃねーかなあ」




 クラリスが更に頭を抱え、リリムが両手で顔を覆う。ここからが多数決だ。


「う、確かに」

「ヤーク先生、遺跡は遺物の宝庫。遺物に魔法は?」

「つきものだ。行こう」


 変わり身がはやい。にまにまとクラリスの肩を叩くスナッチ。


「だってよ、これで3対2でこっちが多数派だ! 行こうぜ!」

「おかしいだろ! さっきまでの段階で多数決をとれよ!」

「いやー、多数決って話し合ってからするもんだろ?」


 ぎゃあぎゃあと喚くクラリス。それを見て嬉しそうに笑うスナッチ。私もそうだけど、行きたくないと言いながら当然のようについてきてくれる2人が嬉しいのだ。言えば調子にのるなと怒られるから言わないけれどこの瞬間が好きだ。リリムはそんな私たちの気持ちを察しているんだろう。いつも泣きそうな顔をしながら怒った目で私たちを見ている。


「さっき怪我したのに」

「次はヘマしないよ」

「一人で先を歩くのもダメだよ」


 どうやらさっき私が崖から落ちたことも気にしているらしい。一人で行ったからこそみんなに助けてもらえたんだけどな。今度はヤークに腕輪を預けることすら嫌がられそうだ。やっぱり、リリムが逃げられないための鎖じゃなくて私を捕まえておくための鎖にされている気がする。腕輪の存在が重たい。

 歩き出せば、また廊下に灯りが点る。人に反応して灯りが点くのなら人に反応して魔物が動き出すこともあるだろう。罠がないか地面や壁、天井をよく見て歩く。


「さっき3人で歩いていても灯りが点いた。ルートリアの言う“勇者に必要な何か”ではなさそうだな」

「ぬぅ」


 ヤーク先生は揶揄うように笑った。勇者が必要なら紋章持ちの私に反応するはずだという考えだろう。結局この紋章がなぜ光るのかはわからない。そのうえ勇者にしか扱えない魔法が使えることから勇者と同じ素質を持つことができていると言える。国の第二王子が勇者と呼ばれているだけで魔王は誰にでも倒せるのではないかという私たちの予想からは外れてきているけれど、なぜかうまくことが運んでいるのはそのおかげだ。

 最近では私以外の4人は、勇者にできることは、私にもできると思い始めている。


「逆かもしれないよ」

「逆?」


 勇者だけに反応せず侵入者だけを排除する形なのかも、と告げると「なくはない」とヤークが唸った。


「それじゃあ勇者を甘やかしているだろと俺は思うけどな」

「それもそうだが、死なれても困るだろう?」

「うぐ」


 以前のスナッチなら構わないといいそうだけれど今回は黙った。スナッチの世界はスラムしかなかった。それが旅をしていろんな場所を見て回っていろんな人と関わった。“勇者”という存在が人の生きる理由になったり、その場しのぎの希望になったりする。村や町を見て、人の集団を保ち続けることの難しさを知った。いずれ私たちの“兄貴”が失敗した理由も気付くかもしれない。

 さっきの石像だらけの場所に着く。小部屋やちょっとした行き止まりはあってもほぼ一本道のようだ。避けられない。


「先に小部屋を覗いてみるか?」

「いいね。罠があったら利用してみよう」

「利用するって?」


 罠にもよると思うけど、あの石像と戦う回数を少しでも減らしたい。小部屋の扉に何もないことを確かめてから開ける。小石を投げて様子を見る。目を凝らして糸がないか……、そうして、自分の腕に繋がっているリリムの首輪に気付く。魔力の糸っていうのもあるのかな?


「リリムには何か見える?」

「私?」


 よくわからないけど、と言いつつしゃがんでいる私の隣で同じようにしゃがむ。目が良いことに加えて、リリムには魔力的な何かが見えているように思える。エルフだからというより魔法をよく使うから、なのだろうか。ということはヤークやクラリスにも見えている?


「あ、あそこ」

「どこ?」

「あの辺り、なんか、もやっとした……、澱んでる?」


 リリムの言う辺りを見るも何も見えない。クラリスとヤークに確認すると、ヤークは見えるがクラリスは見えないと言った。


「魔力溜まりや痕跡といったものは、魔法を使っていると目を通して見えるようになる人が多数だな」

「クラリスは?」

「前にも言ったが、クラリスは土魔法より回復魔法を使うことのほうが多い。神官だの僧侶だの神に仕える人間は魔法の出所が違うからな。見えるものも違う」

「そういえば、僕の故郷では生まれつき魔力が見える者は精霊眼だって呼ばれてたな」


 それを聞いてリリムが首を傾げる。


「生まれつき見えたよ?」

「リリムは……エルフってみんなそういう感じだって気がする」


 生まれながらに精霊に愛されている、というより精霊の血が混ざっているとまで言われているエルフはそうなんだろう。ハイエルフなんかはどちらかというと精霊寄りだ。むしろ見えないほうが色々言われそう。

 罠の種類まではわからないようなので、いっそ試してみることにした。廊下に並ぶ石像を眺めてもどれが動くかはわからない。だから私が廊下を進み石像が反応した途端走ってあの部屋まで誘導し、リリムの風魔法とスナッチの体力で部屋に押し込む。という作戦を立てたのだけれど。


「えっと、始めるけどいい?」

「……」


 リリムが完全にへそを曲げてしまった。この作戦ではまたヤークに腕輪を託すことになる。最近は先導する私よりリリムとクラリスを守る役割が多いヤークに任せきったほうがいいのではとも思うのだけれど……。ついでにそう話してみればヤークとなぜかクラリスからも反対された。そしてその話を聞いたリリムはさっきからずっと黙っている。……怒った顔で。魔法は使ってくれるだろう、怒っていてもそこまで浅はかではないはずだ。ヤークに腕輪を預ける手を、じっと見られる。他に案がないから反対もできないんだろう。

 みんなを置いて廊下を一人歩く。ゆっくりゆっくりと足を進める。左右からは物言わぬ石像からの圧を感じる。真ん中辺りにぽっかりと1つ分何もない場所があった。たぶんさっきの石像はここに居たんだろう。それにしたって動かないはずの石像からも視線を感じるような気がするのはどうしてだろう。


「ルートリア!」


 ヤークの声に反応して一歩後ろへ下がる。ちょうど横の石像が動き出したようだ。反射で避けたけれど、もう一歩前に進んでいたら爪を受けていた。全力で後ろへ走ってさっきの小部屋直前まで戻る。魔物が飛ぶスピードより自分の足のほうが若干遅いか、追いつかれそうだ。小部屋に入る寸前で床に伏せる。


「『ウィンドアロー』!」

「おりゃああ!」


 風と斧の力で確実に部屋の中に投げ入れられる石像。そのままさっき澱みが見えるといわれていた場所まで吹っ飛んだ。石像が起き上がるより早く罠が作動し、一瞬で部屋が凍りついた。


「うわ」

「凄いな」


 魔法って怖い。澱みが消えている間に、固まったままの石像を氷ごと砕いていく。クラリスの体力を温存するためにスナッチと交代で借りたメイスで殴りつけていくと、途中でヤークに止められた。どうやら澱みが復活したらしい。少しでもあの澱みに触れれば今度は自分たちが部屋ごと氷漬けになってしまう。


「うまく活用できたけど、2回目は嫌だな」

「しょうがないけど普通に戦うか?」

「石像は2体だけだったってオチを願うよ」


 ふぅ、と息を吐くとリリムに水を差し出される。一口飲んで返すと、何か言いたそうに見つめられた。


「ありがと」

「休憩する?」

「いや、まだ大丈夫。スナッチもいけるよね」

「おう」


 それでもまだ不安そうにするリリムの頬に触れる。赤に近い目が不安で揺れた。


「みんなが守ってくれているから大丈夫なんだよ」


 さっきのヤークの声も、今心配してくれるリリムも、今は私の力の内だ。いつかは一人で立ってもらわないといけないから突き放すように強くなってもらっているけれど。頬に触れた手をリリムが握る。祈るように寄せられた眉が痛々しい。納得できないけれど、駄々をこねていても進めないから飲み込もうとしてくれているんだろう。数秒してから手を離すとひとつ深呼吸をして気持ちを落ち着かせたみたいだ。


「お、お宝発見」

「待てスナッチ、罠がないか見てからだ」

「さっきあっただろ?」

「あれだけとは限らないだろ」


 リリムから目を離すと、ヤークと男達が宝箱を前にごちゃごちゃと話をしている。


「魔法系の罠はない、か」

「どう思うルートリア」

「うーん」


 糸と細長い棒を取り出して、宝箱の隙間に噛ませる。引っかかりはなく、壁や床と接着されているわけでもない。特に問題はないと思う。


「勇者らしくない特技だよな」


 笑うスナッチを睨みつける。放っておいてくれとも思ったけれど、離れていたリリムが少し笑ったから良しとしよう。針金を突っ込み、念のためにゆっくり鍵を解除するとやはり罠はなく開き切った。中に入っていたのは本と金貨と綺麗な石だった。

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