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33.休戦2

 魔法を教えているとたまにどうしようもなく嫉妬に駆られるときがある。リリムには膨大な魔力があった。クラリスも魔力量は多いが、やはりエルフは格別だ。つまらない気持ちはあるが、真剣に話を聞いているリリムの顔を見ると、教えなければいけないという気持ちになる。


「後はいかに長く保つかだな」

「ルートリアがやっていたから、私も頑張るよ」


 少し躊躇ってから名前を呼んだ。本人が居なければ呼んでも問題ないのか、私の前では呼ぶようになった。スナッチやクラリスの前では相変わらず“あの子”だとか“彼女”だとか回りくどい呼び方をしている。

 やっていたというのは『ライトオブランタン』のことだろう。ルートリアの光魔法は本人が思っているより便利な代物だ。少なくとも、闇魔法と同時に出せる人間は自分が知っている限りは彼女一人だけ。相反する魔法を持つということはどういうことなのだろうか。


「それにしても遅いね」


 一人であるスナッチもだが、クラリスを連れて行ったルートリアまで遅いとは。あまりにも遅ければ階下の食堂で先に飯を食べてくれて居てもいいとスナッチは言っていた。例の店を出た後は魔法をかけなおしたとはいえ、リリムはエルフだ。見る人が見ればバレる。だからこそ夜に街中を連れ回すのは避けたいために探しに行くこともできない。


「……先に下で温かい物でも食べるか」

「いいのかな」

「そうしておけとスナッチが言っていたのならそれでいいのでは。普段自分たちで作ったものばかり食べているんだからこういうときこそ何か食べておかないと」


 料理なんてものは鉄板もあるが知識が増えれば増えるほど失敗がなくなり、美味しいものが作れる。魔法と通ずるものがあって私は好きだ。この仲間達は全員の料理が致命的にまずかったということもあるが、自分の好みで旅ができるというのは有り難い。干物等をかじるだけではなく水と火でスープを作ることが許される旅は随分と余裕を感じる。

 腕の重みにだるい気持ちを抱えながら、リリムをつれて階段を下りる。もはや食材の購入権を任されているので財布に金は入っている。無駄遣いするほどの物欲もない。温かいシチューと柔らかいパンを頼んだ。リリムも塩茹でした野菜などの普段食べられないものを頼んでいた。冷めないうちに頂こうと二人でフォークを手に取った。

 カランカランと入り口から音がして、誰か帰ってきたかと期待した。しかしそこにはできればもう見たくなかった顔が覗いた。


「や、やぁちゃん!?」

「モモ……!」


 逃げなければという思考が巡ったけれど、“敵”が入り口側であったことから別の方法を探る。勇者はいない、加えてモモは一人だ。一人なら、傍にいるのが、リリムだけなら。この背中はとんでもなく情けない。今更繕う相手も居なかった。モモが杖に手をかけるか迷っているのを良いことに、両手を上に掲げた。これは世に言う、降参のポーズだ。このうえなく屈辱だけれど、腕の重みが私に見得を許してくれない。まだ、まだ“勝てない”だけだ。いつかこの身が誰よりも上に立つために、今はまだ辛抱できる。


「モモ、ここには何をしにきた?」

「えっ? 息抜きしてきて良いって言われたから美味しいご飯を食べに……? あっ、えっと、ここから先は海だから今のうちに温かいものとか日持ちしない野菜とか食べておきたくて……」


 さすがモモ。こいつがバカ正直なのは学生時代から変わっていない。マリンベルの勇者パーティは海ルートで合っているようだ。


「なら、お互いにまずはご飯だ。いいな、リリム」


 驚いて声も出ないリリムが必死に縦に頷く。モモの魔法の厄介さは既に経験済みだからか今は戦いたくなかったんだろう。モモはなんて言っていいかわからず、困りきった顔でおろおろと動けずにいる。畳み掛けるように、店主のほうを向いて注文を増やす。


「すまない、連れが増えたから具沢山のスープと、そうだな蒸しサラダと柔らかいパンが欲しい」


 店主が良い笑顔で了承していった。これでモモも断るまい。してやったりと振り返ると、相変わらず立ち尽くしていたから手で呼び寄せる。ハッと意識を取り戻すと、おずおずと傍に来る。


「追加があったら勝手に頼むといい。割り勘だがな」

「あ、ありがとう?」

「いいから座ってくれ。落ち着かない」


 リリムを見た後、一瞬戸惑ってから私の隣に座った。思えば学生時代でもあまりみなかったような距離感だ。話はいっぱいした気がするけれど、ほとんど魔法のことだったからご飯の時間も別で授業も離れていた。近寄れば昔とまったく変わらない幼い顔に不思議な感情を抱いた。


「宿はここなの?」

「答える義理はない。他のヤツらはどうした」

「それこそ答えられないよ」


 首を横に振るモモ。さっき息抜きにと言っていたな。3人も男がいるならさっきの店で鉢合わせた可能性もある。思い出すとつい顔が赤くなる。……なんであんな店に連れて行かれたんだか。じっと机を見つめて深刻な顔をするモモは気付いていない。唇を噛み締めてから、勢いをつけてこっちを向いた。


「やぁちゃん、今からでも村に戻ったりは……!」

「するわけないだろう。バカめ」

「そう……だよね」


 わかりやすく落ち込んでみせる。ここにはお前をちやほやする喧しい学生時代の仲間もいない。攻撃の意志も今はないと信じて遠慮なく口撃する。


「この間は、痛くしてごめんね」


 謝るぐらいならやらなければいいのに。子どもの頃から何一つ変わらない。それでいて手加減ひとつしやしないのだからタチが悪い。


「ふん、手加減などしていなかった癖によく言う」

「する余裕ないよ。……他の人の力量もわからなかったし、やぁちゃんも剣を使うようになっていたし」


 恥かしい限りだ。剣を使うところなど、こいつにこそ見られたくはなかった。魔法にこだわっていたことを誰よりも知っているはずだ。……いや、どうかな。魔法についてモモの眼中に入れていたかもわからない。運ばれてきた蒸した野菜をモモの前に置くと、お礼を言いつつちらちらと私を通り越してリリムを見ている。こいつ、今でも私が眼中に入っていない。


「リリムが怯えるから、じろじろ見たかったらルー……私の許可をとってくれ」

「あ、ご、ごめんなさい」


 視線に、というより前回の戦闘を思い出して怯えてしまったリリムに気を使う。これじゃあ折角の料理が味わえない。まったく。リリムの水魔法は私達に対して相性がいい。魔力量もおそらくモモを上回る。経験さえつめればモモを越えることは可能なのだから怯える必要は……いや、モモも尋常ではない努力をする。これまでも差が一切縮まらなかったことからそれは確かだ。才能のうえにあぐらをかかないのが、モモだ。勇者パーティに見放されず可愛がられているように、今でも努力を重ねているのだろう。


「その、えっと、き、聞いても良いかな」

「内容による」

「ふ、二人は、どういう関係かな……?」


 二人は、とは?

 普通に旅の仲間だが。ルートリアとスナッチや、ルートリアとリリムを疑うならまだしも、私はあのおかしな仲間たちのように変な行動はしていないと思う。


「普通に……旅の仲間、かな」


 リリムのほうを見ると、同じように首を縦に振っていたので合っていたようだ。良かった。関係性を言葉にするというのは、なんというか、緊張する。


「普通、なの?」

「そうは見えないか」

「その、申し訳ないんだけど、首輪が……」


 あぁ、そうか。うっかり忘れてしまうが、リリムは奴隷のままだった。ルートリアに仕えているというよりはどちらかといえば姉のような扱いで接しているからつい意識から抜け落ちる。私たちとも普通に話すし、そもそも仲間になってもらうために買ったと言っていたから……、まあつまり、首輪なんてなくてもいいはずなのだ。それでも不安がるからリリム自身がつけているだけで、クラリスなんかは腕輪を返還されて解放奴隷になっている。魔法のつけられた首輪だから然るべき場所でなければ外せないのが残念だ。


「私たちにとってはリリムは奴隷じゃない」


 嬉しいような、事実は事実だと苦笑するような、複雑な顔をするリリム。そんな風だからルートリアが心配するんだが……。


「君もいい加減認めたらどうだ。私は諦めたぞ」

「もう無くても大丈夫だって思うんだけど……、でもあった方が安心するから」

「難儀だな」

「それに最近はリードを持っているのは私のほうだと思うし……」


 自覚があったのか。タチが悪い。今も落ち着かないのは傍にいないからだろう。甘えてくるから甘やかす代わりに守られている。奇妙な共依存。それはおそらく自分も同じだ。あいつが背中を押してくるから走り抜けるしかない。焦燥感は常にあり、見栄を張る暇もない。複雑な関係をどう答えればいいのかわからず、抽象的な会話にモモも死刑宣告を待つような顔で首を傾げている。……なんでそんな悲壮な顔なんだ?

 私の身体からひょいとモモを覗いたリリムが苦笑しながら控えめに口を開く。


「今はヤークの腕にあるけど、本当はいつも他の人に繋がっている物だから」

「そ、そうなんだ! あ、でもこの間もやぁちゃんの腕に繋がっていたような……」

「この間も押し付けられたんだ!」


 まさかこの私がお守をさせられているとは。実際にお守が必要なのはルートリアなのだから、リリムは野放しでもいいのではないか。この間は私を逃さないためだったと思うが、今となっては私もこの仲間たちから離れる気も無い。むしろこの面子でなければ私も目的を果たせないだろう。勇者のおまけになんてなってたまるか。英雄になんてならない。私が魔王を倒すのだ。モモもリリムも出し抜いて、ルートリアを英雄にしてやる。

 ……そのためには、勇者しか使えないとされる魔法を私が扱えない理由を突き止めるためにルートリアと私の違いをきちんと知る必要がある。


「折角だから確認するが、モモは『ヒューマンシールド』は扱えなかったんだな?」

「この状況でも私に魔法を聞くなんて、相変わらず魔法のことしか見えてないんだね……。勇者しか、という話だったから試そうともしていないよ」


 腰抜けめ。モモは虐げられることに弱い。勇者に逆らうことなどひとつも考えていないんだろう。提案すら怖くてしていないようだ。


「本当にそっちの……えっと、リーダーさん、は使えたの?」

「私達にとっては勇者だが、まあその呼び方でもいいだろう。使えたさ」

「紋章も、だよね」

「ふむ、私達もわかっていないが、確かに勇者の証として“働いて”いる」


 光る紋章は勇者にしか反応しないというが、あいつの手で見事に光ってみせる。おそらくそんなもの無くともルートリアなら旅を続けただろうが、それが諦めきれない理由の一つにもなっている気がする。本物である偽者であるという話以前に、本物の証明がわからなくなっている。口に手を当て考え始めるモモ。


「王族なの?」

「いや。本人は違うと言っているが実際はわからん」

「なにそれ」

「スラムで拾われる前の記憶がないみたいだ」

「あぁ、スラム育ち」


 それで勇者が嫌いなんだね、と一言。そういえばルートリアは一人で勇者たちと揉めたことがあると聞いていたか。盗人風情だとかなんとかかんとか言っていたが、あちらからも遺恨を残すような痛烈な一言でも放ってそうだ。あれは意外と怒らせると……心に痛い言葉を投げてくる。普段ののらりくらりとした態度はポーズなのだろう。いや、どうかな、甘えたいだけかもしれない……。


「記憶の手がかりも少ないようだが、旅の間に見つけるかもな」

「記憶の手がかり……、何か私でもわかることあるかな」


 手で小さく頑張るぞのポーズを取ってみせる。お前がわかったところで……と思ったが、私より先に旅を始めたモモは、私たちの入れないような場所へ行っているかもしれない。念のため話してみるか。


「得意な魔法は敵だから教えないが、剣を扱うのは何度か見せたな」

「あまり、その、品がいいとは言えない戦い方だったね。えーっと、何か特徴的な証みたいなものってある? 身体に痣がある、とか」

「あるのか?」


 リリムを見る。どうしてそこで私を見るのという顔をしたから、水浴びの際などに見ていないかと耳打ちすると、強めに肩を抓られた。赤いまま答えはする。


「……身体に、変なところは、ないよ。ちょっと傷跡は多いけど」

「そう……」

「心理的なものなら、少し年上の女性への憧れが強い、ぐらいかな」

「好き好んで娼館へ行くぐらいだからな」


 思い出したら腹が立ってきた。なんで私があんな……。自分が好きだからって全員を押し込む必要があったのか? そりゃ、初めての経験という点ではまあ有益、いや、そんなわけない。必要のない経験だ。


「女の子だよね? あ、でももしかして今二人でご飯を食べているのって、そういうところに行ったから?」

「いや、さっき全員で行ったからそれはないだろう」

「そっか、全員で……、全員?」


 信じられないものを見るような目でこちらを見るモモ。なんだその目は。


「全員って、やぁちゃんも行ったの?」

「私の意志じゃない! 押し込まれたんだ!」


 まぁ、魔法に対してすごいだの格好良いだのちやほやされたのは悪い気は……、いやいや。それにしたって柔らかい肌だの脂肪だのを押し付けられて、頭がぼんやりしていただけだ。誘惑というならリリムの声のほうが心地良いはずなんだ。耐性はあるはず、はずなんだ。




「……満更でもなかったの?」




 うん?

 突然隣から熱気が。待て、なんだその顔。学生時代にも何度か見たか? 見た気がする。いやしかし、その顔を見たときにはあまり良い思い出がないような。学生時代に対策のために作ったアクセサリは今はモモ本人の胸に輝いている。


「待て、モモ、何を怒って」

「そっか、やぁちゃん、恋愛とか興味ないって言ってたのに娼館とか行くんだぁ」

「いやだから私の意志ではないと」


 ちらとリリムを見ると、鎖の範囲内でかなり離れたところへ退避していた。あいつ……!




「やっぱり、村に連れて帰らないと……」

「おいそれとこれとは関係ないだろ、しかもモモには関係がな……うわっ!」




 モモは店に被害が出ないよう器用に私だけを燃やした。気絶してしまったので、後からリリムから聞いた話では私を焼いたぶんのポーションとお勘定だけして去ったらしい。てっきり村行きの馬車にでも突っ込まれるかと思ったが、今強引に連れ戻してもきっとまだ諦めてくれないだろうから、と言っていたとか。ただ、私が諦めるように次会ったときは徹底的に叩きのめすとも言っていたとか。

 あいつは何がしたいんだ……。



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