15.ドリアンパイ1
二次創作の原稿作業で1週遅れました。すみません。
「普通の街、リングバーグ」
「普通って言ってやるなよ」
「特産品は……果物だったな」
普通というか、まあ、オシャレ?
レンガの建物が多く山に沿って建物が立っている。自警団の鎧もなんとなく煌びやかだ。……というか、通るだけで明るく挨拶をされる。主に私とリリムに対して。ヤークは女性扱いされていないらしい。
「ここは、寒いな」
「気候的には温かいほうだろ」
「いや気持ちが」
ナンパ系の男性は少し苦手だ。年上の娼婦のお姉さんたちに可愛がってもらうのが好きで娼館に入り浸っていた頃にも声をかけてくれる男性はいたけれどどうも好きになれない。リリムはああいう男性は好きなんだろうかと顔を見てみれば、その目はどちらかというと果物を眺めていた。奴隷紐の範囲でふらっと離れて果物を一つ買う。
「お前、早速特産品だけ買ってきやがったな」
「旅を楽しむのもいいかと」
半分に割って片方をリリムに渡す。果物の割りには水々しさはなくモチモチムニムニしている。甘みはあるけれど、ちょっとくどいかも。同じことを思ったのかリリムも一口だけ食べて不思議そうな顔をしていた。代わりに全部食べようかと思ったけれど、目を合わせるともう一つ口に含んだからまずかったわけではないみたいだ。目線をずらすとジト目のヤークがこちらを見ていた。
「……前から思っていたけど、君はリリムとクラリスに甘すぎないか?」
リリムが耳を赤くして盛大に咳き込んだので背中を擦ってやる。そうだろうか。
「後衛とはいえ絶対に二人に怪我させないように動いているだろう」
「それが前衛の役割じゃないの?」
「それもそうだが……。あ、いや、それだけじゃなくてだな、その、そういうところだそういうところ」
ふむ。リリムが息を整えたので背中から手を離す。耳は赤いままだし絶対に私と目を合わそうとしない。クラリスはいつも通り呆れきっているし、スナッチは苦笑いだ。最近私も学習したので、みんながこういう反応をしたときは私が普通ではないらしいことを覚えた。
「無駄だ。そいつは本能の生き物だ」
「クラリスはまだ抱き枕にしたこと根に持ってるの」
「その後抱き心地が悪いって言って僕をクマの寝床に放り込んで自分はリリムの布団に潜り込んだことなら根に持っている」
「誰がクマだよ」
さて、今日の寝床はどうしようか。こういうところは宿が高そうだ。
「お、あそこは良さそうだな」
スナッチが指差した先には、酒場と宿が一緒になっている建物があった。騒音の問題でリリムの健康状態が気になるところだけどああいうところならば私やスナッチは情報が集めやすい。酒場と宿屋を兼用している店は活気があることが多い。
ただ最近はヤーク先生のおかげもあり、リリムは魔法もかなり習得している。音をやわらげる魔法も大分慣れたみたいでヤークとクラリスが喧嘩をしているときに使っているときも見た。問題ないと判断してこっちを見ていたスナッチに対して頷いた。
まだ昼だからか酒場にはほとんど人がいなかった。町の住人だろう酔っ払いが一人と人当たりの良さそうなお姉さんが一人。
「いらっしゃいませ! 旅のお方ですか?」
「はい。宿は空いていますか?」
「5名様ですね。3人部屋と2人部屋で良かったですか?」
特に異論もないので頷く。
「人が少ないですね」
「この間まで勇者様が居られたんですが、もう旅立ってしまわれたのでみんなお祭り騒ぎは終わったところですね」
「へえ」
ということはもうここには居ないということだ。
「もう行っちゃったのか~、残念だな~。せめて勇者様の武勇伝だけでも聴きたいなあ」
「ふふ、いいですよ!」
ニッコリ笑うお姉さんに自分も笑い返すと、ちょっと引かれた。演技が棒すぎたかな。ちっとも残念だと思ってないことがバレているんだろうか。荷物をスナッチに任せて椅子に座る。なぜかリリムとクラリスも隣に座ってきた。……なんなんだろう。ヤークはスナッチと一緒に部屋に引っ込んだみたいだ。
「そういえば二人は顔も見れなかったんだっけ」
「話だけでも聞いておいたほうがいいかなって」
「僕らは勇者なんて興味もないけど、お前の考えは知っておきたいからな」
まずは顔がいいだのなんだのとはしゃぐお姉さんの話を聞きつつ、だんだんと解決していった話に移っていく。輸送路を塞いでいた魔物を倒した話。金を無心していた悪徳商人にお説教をした話。それでも反省しないから罰を与えた話。名産品の果物を荒らす魔物を退治した話。
「……良い人だね」
「でしょう!? さすが勇者様でした!」
ご機嫌なお姉さんに対して私の顔が不貞腐れていたのがバレてリリムとクラリスに同時に足を蹴られて両足が地面から浮いた。椅子に座っていたから良かったけれど片方だけにしてほしい。ボロが出るような不審な態度をとった私が悪いんだけど最近みんな暴力的すぎる。
「じゃあ困っていることもないわけかあ」
「仕事を探しているんですか?」
「そんなところ」
お姉さんはうーんと考え事をすると、そういえばと酔っ払いのほうを向いた。
「魔物や荒くれ者の問題は無くなったけど薬草が足りないってバーンズさんが言ってたよね、ビリーおじさん」
酔っ払いは突っ伏していた顔を渋々上げると、また下げた。酒はまわっているけれど舌がもうまわらないようでへろへろと何を話しているか聞き取り辛い。
「ありゃあ、ガキどもの、なあ」
「子ども?」
「本当に小さなお願いだしあまりお金にならないかもだけど、無いよりマシっていうなら話を聞いてあげてほしいな」
「ガセだ、ガキどもどうせ自分たちで悪さして……ぐぅ」
寝てしまった。店員は呆れながら毛布をかけてやっている。常連というよりは家族のようだ。子ども、悪さ、ガセ、小さなお願い。どれも大人からは聞きたくなかったワードだ。
「聞きにいく?」
「うん」
ちょっとした支払いをして言われた場所へ出向く。スナッチたちには告げなくてもたぶん大丈夫だろう。宿のお姉さんが行き先を知っているし、あとなぜかリリムとクラリスがついていくつもりだと言葉にはしていなかったけれど顔に出していたので、二人を置いていったら怒るだろう。
まだまだお昼で明るく、柔らかい日差しが肌を撫でる。温かくて心地良い。入り組んだ街の真ん中の影にある家。宿屋のお姉さんより紹介されたバーンズさんとやらの更なる紹介で訪れたこの部屋には病気がちの母親と暮らしている何人もの子どもがいるらしい。ノックをしても反応がない。少し待つと代表格らしい少年だけが顔を出した。
話を聞く限りではまったく悪ガキには思えない。病気の母親のために金はないけれど薬草が欲しい。普段は自分たちで取ってきていたけれどなぜかこの間から強い魔物がうろついていてその付近へ近寄れない。金がないのに依頼を出すしかないという状況で誰からも断られていたということらしい。
「あの、本当に受けてもらえるんですか?」
「いいよ」
武者修行ならもってこいの話だ。そのうえ薬草採取もできる。
「リリム、病状を見て薬草って選べる?」
「……薬草選びはできるけれど、病状は見てもわからないね」
「僕が見よう」
クラリスが中へ入り、母親の様子を見に行った。子どもは少し警戒したけれど同じ子どものような外見のクラリスだからか許したようだ。中から出てきたクラリスが腕を組んで唸った。
「あれは……単なる風邪だが、またなるだろうな」
「どういうこと?」
「病弱っていうか、体力がないんだ。たぶん薬で風邪を治したところで寝床から出られないよ」
子どもを育てて度重ねた無茶が祟ったんだろう。一度壊した身体を立て直せずにいるのか。それでも風邪程度で済んでいるのは子どもたちが一生懸命薬草を取ってきているからだろう。
「虚弱体質っていうことなら、マシにはしてあげられるかも……」
「本当?」
期待してリリムを見上げると、ふわりと微笑んだ。
「滋養強壮っていう形になるから体力をつけるような薬草を組み合わせて調合して、お薬を飲みつつ外へ出て体力をつけるような生活を送れば少しずつなら良くなるかも」
「ジヨー……よくわからないけど良くなるなら頼まれた薬草のほかにそれも作って持っていこうか」
「慈善事業だな」
「ジゼン……二人揃って難しい単語使わないでくれるかな」
私たちは武者修行、そのついでに子どもたちが喜ぶなら有り難い話だ。宿で待っているであろう二人も呼んですぐにでも行ってみよう。