第1話 友達
「本日は、俳優としても注目されているPRISM CLOWNの石原碧斗さんにお越しいただきました!」
アナウンサーの明るい声がスタジオ内に響く。
綺麗な衣装を着て、この身にスポットライトが当てられて、トキメキと興味が混じった視線を浴びる。
幼い頃、テレビで見ていたアイドルのように、俺の笑顔で誰かの幸せを作りたい。
それは夢のまた夢かと思っていたけど、今では叶いつつあった。照明で目が痛くなりそうだけど、自然と笑みが浮かんでくる。
「____ここからは石原さんのことについてお聞きしたいのですが、アイドルになろうと思ったきっかけって何ですか?」
カメラが向けられて心拍数が上がるが、昨日送られてきたメッセージを思い出した。
《碧斗なら大丈夫! 友達代表で応援してるから》
あの声を思い出すと、少しだけ冷静になれた。
「僕は物心ついた時にはアイドルが好きで……本気で目指したいと考えたのは15歳の頃です」
中学校の卒業式が終わった後、両親に夢を語った。だが、2人の反応は良くなかった。むしろ、普通の職業にしなさいと回りくどく言われた。
憧れだけじゃできないと分かっていたが、あの日の両親の顔を見たら心が折れそうになった。周りの友達にも冗談だと思われ笑われた。
「それでもオーディションを受けられたのは、幼馴染っていうか、家が隣の友達がいたからだと思います。その人は落ち込んでる僕をいつも励ましてくれて……唯一、信じてくれた人です」
その人は、スタートラインすら諦めかけていた俺に言った。
『好きなことで輝いてる碧斗が見たい。だから、一旦好き勝手やってみようよ!』
この言葉と添えられた笑顔が忘れられない。
18歳になってオーディションに受かってからは、それが心の支えになっていた。
「素敵なお友達ですね!そのお友達は、こちらのオンエアも見てくださいますかね?朝早なのですが」
「はい…見てくれていると思います。早起き得意そうですし」
画面の隅にいたとしても、その人は俺に気がついてくれる。俺が仕事をするたびにメッセージが届く。取らなくてもいいのに、テレビの画面やライブ会場の写真が添えられて。
近頃は、ありがたいことに仕事が増え、よく連絡が来るようになった。それを見返すだけで息が楽になる。
心穏やかなまま、時間は過ぎていった。
対談は、PRISM CROWNのファンミーティング当日の朝に放送された。その間、俺はストレッチ中だが、メンバーはテレビに釘付けになっている。
「へえ〜碧斗って友達いたんだぁ」
逢田想介が唇を尖らせながら言った。歳が1つ下で天使枠と言われているからか、そんな顔をされるとすごく申し訳ない気持ちになる。
「碧斗ってほんと秘密主義だよな」
パンプアップしながら見ていた高宮瑠璃も、教えてくれれば良かったのにという顔をしている。いつも幸せそうな垂れ目なのに、少し目尻が上がっているように見えてしまう。
そうやって2人にじーっと見られると、俺はストレッチをやめて正座に変えた。
「…うん、ごめん。言う機会なかったから」
素直に謝った途端、想介がとてとて歩いてきて俺の胸に飛び込んできた。モデル並みの高身長が襲いかかってくると体が後ろに傾く。思っていたよりも拗ねていそうな金髪の頭を優しく撫でた。
「こら、そっちだけでいちゃいちゃすんな!俺も混ぜろ」
瑠璃は想介の上に乗っかってきたから、2人で俺を潰す形になっている。想介はまだ体が薄い方だが、瑠璃は服を脱ぐとただのマッチョ。
「うぐっ…重い」
2人と出会ったのはオーディションだから、もう7年の付き合い。変わらず友達であり同志という良好な関係だ。グループがこれだけ大きくなったのも、こういう雰囲気だからだろうか。
「ちょ、俺も重いから瑠璃はどいてくれ。ってか、また筋肉増えた?」
「分かる?2kg増量した!」
「あのさ、そこで会話しないでくれる?1番重いの俺だから」
そう言うとようやく2人が立ち上がり、そのまま手を差し出してもらって俺も立った。
「そういえば、今日友達来るの?俺会ってみたい!」
「碧斗をアイドルにしてくれた恩人だろ?俺も会いたいな」
キラキラした目で見られたが、その人の顔を想像してから答えた。
「…ごめん。来るけど会えないと思う。その…めっちゃシャイで、恥ずかしがり屋だからさ。一応聞いてみるけど」
「まあ、前向きに待ってるよ」
瑠璃に肩をぽんぽん叩かれて、俺はふぅと息を吐いた。2人もストレッチを始めたのを確認してからスマホを出してメッセージアプリを起動する。
画面をスクロールせずとも出てくるその人の名前“鳴海”をタップすると、開いた瞬間にメッセージが届いた。
《どうも、幼馴染っていうか家が隣の友達です笑 今は落ち込んでないかな?》
鳴海の声で再生されて、つい笑いがこぼれる。
《え、既読早っ 本当に落ち込んでた?》
偶然が重なって焦っている鳴海がやっぱり面白い。これに対して、俺も文字を打ち込んだ。
《大丈夫 落ち込んでない! 俺もメッセージ送ろうとしてただけ》
《なんだ で、どうしたの?》
いざ送るとなると緊張する指を動かして、目を閉じて送信ボタンを連打した。
《ファンミーティングの後会える?》
恐る恐る目を開いて、ちゃんと送信したことを確認する。
《え、無理》
あまりの即答だったので、返事にドキドキする時間が全くなかった。
たった3文字なのに、思っていたよりも読むのが苦しくて、画面から目をそらしたくなった。
そして、次に来たメッセージで現実を突きつけられる。
《アイドルと女が一緒にいるところ撮られたら危険でしょ?》
その通りだった。恋人同士じゃないとしても、周りは一面を切り取って想像力を働かせる。
幼馴染で隣の家に住んでいた鳴海晴香は、とても優しい“女友達”だ。
こんなこと、アイドルになった時点で分かっていたけど、現実がぎゅんと胸に刺さって、スマホが重く感じた。
晴香は職業抜きで話せる唯一の相手で、この先も一緒なんだろうなって思うくらい深い関係。メッセージ1つで一喜一憂する人なんて、晴香以外いないのに。
……なんて考えは抑え込んで、スマホに文字を打ち込んだ。
《だよな! メンバーがどうしても会いたいって言ってたから聞いてみただけ ごめんな》
《あら、それは申し訳ない… ごめんなさいって伝えといてくれる?》
了解と書かれたアニメキャラクターのスタンプを送る。
「なあ、やっぱり会えないって友達から来た。ごめんなさいだって」
口角を上げて2人に言った。
「そっか、残念だけど仕方ないな」
「なら全力で探すわ!碧斗のうちわ持った男子」
瑠璃と想介がなぜか2人で手を出して、えいえいおーなんて気合を入れている。
本当は男子じゃないなんて言えず、俺はいつものテンションで笑顔を作った。




