第三十三話:帝国の宝物庫と小さな「賢者」
翌朝、早起きしたアルヴィンに引きずられるようにして一行が向かったのは、皇宮地下深くに眠る「第一国家宝物庫」だった。 「……おいおい、これ全部本物かよ」 扉が開いた瞬間、ロドルフの顎が外れそうになった。そこには伝説級の武具や、巨大な魔石の原石が山のように積み上がっていた。
「ああっ! 貴重なドラゴンスパインの黒曜石に、大きな金剛鉄鉱石! こっちは……神代の時代の魔導回路じゃないか! 素晴らしい、陛下、これ使ってもいいんですよね!?」 普段の余裕はどこへやら、アルヴィンは子供のように目を輝かせて駆け回り、珍しい素材を次々と抱え込んでいる。
「エルフの生地があるし、追加でマントが作れるぞ。おっ、これは火の魔物の革だ。こっちは伝説のドワーフ作の鎖帷子じゃないか! おおっ、このミスリル製片手剣も素晴らしいな。カーバンクルの宝石もあるぞ……」 興奮が止まらず、涎を垂らさんばかりの叔父の様子を、皇帝ラインハルトは呆れ半分、微笑ましさ半分で見守っていた。(まるでマタタビを喰らった猫獣人だ……) 初めて目にするアルヴィンの緩み切った表情にロドルフは若干引いていた。
その時、ルピーネの背中のフードから、ルークがひょっこりと顔を出した。 「……キュ?」 「おっと、これが噂の『幸運の竜』か」 ラインハルトが近づくと、ルークは物怖じせず、皇帝の指を甘噛みした。 「ははは、可愛いものだな。だが、確かに瞳には誇り高い竜の知性が宿っている」
「ルピィ! アルー! ロー!」 不意に響いた幼い声に、その場にいた全員が固まった。ルークが、ルピーネとアルヴィン、そしてロドルフの名前を(少し舌足らずだが)呼んだのだ。「ルーク、今喋ったの……?」(驚いた、でももう「ママ」じゃないのね) 「賢い子だなあ。まだ1歳にもならないのだろう? リントヴルムは成獣になるまでに十年ほどかかるそうだが、言葉を覚えるのは意外と早いのかもしれん」 皇帝の称賛を受け、ルークは得意げに「ルー!」(自分のことらしい)と胸を張った。 その時、ルピーネの腰にある紋様『竜の物語』が、わずかに熱を持ち、光を放ったような気がした。
自室に戻った後、ルピーネは服を捲って鏡を覗き込んだ。以前より、紋様が薄くなっている気がする。 「ねえロドルフ、アルヴィン。ちょっと来てくれない?」 バルコニー越しに声をかけると、ほとなくして二人がやってきた。 「ちょっと、私の腰の紋様を見てくれない?」 ルピーネが上衣を捲り上げると、ロドルフが上擦った声で顔を背けた。 「お、おい! 何をいきなり脱いでるんだよっ」 「あれ、少し色が薄くなっているみたいだね」 アルヴィンがいち早く気づく。ルピーネは不安げに頷いた。 「そうでしょ? さっきルークが喋った時、ここが温かくなって発光した感じがしたのよね。これ、大丈夫なのかしら」
アルヴィンは顎に手を当てて考え込んだ。 「うーん、悪い魔力は感じないから心配はいらないと思うよ。おそらくルークの魔力とルピーネの魔力が同調するにつれて、濃淡が変化しているんだろうね。絆が深まっている証じゃないかな」
その後、二人を応接間に連れていったアルヴィンは、興奮冷めやらぬ様子で装備の吟味を始めた。 「よし、ドワーフ工房とも協力して、最高の装備一式を用意してあげるよ。貴重な素材を扱う機会だし、彼らも喜ぶだろう。ただ、これだけの素材を使って魔法付与を施すには、流石の僕でも二週間はかかる。その間、君たちは暇だろう?」 アルヴィンはニヤリと笑い、ロドルフのギルドの登録証を指差した。 「クエストの実績はもう十分だ。……どうだい、Bランクへの昇級試験、受けてみないか?」




