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閑話(アルヴィンの父母):黄昏の森の姫

今から約七十年前。ハーフエルフの帝国皇太子エルヴィンは、母エルナの故郷である領邦国家『エルフェンライヒ』を訪れた。そこで彼は領邦君主の末王女すえむすめであり、のちにアルヴィンの母となるセシリアと出会う。


既にエルヴィンは正妻を迎えており、小さな息子リヒャルトもいたが、彼はセシリアの星が瞬くような瞳を一目見た時から、彼女から目が離せなくなる。 「君の眼差しはなんて美しいんだ。こんな瞳は見たことがないよ」 囁くエルヴィンに、セシリアはたおやかに返した。 「あなたは、人間にしては平穏な目をしているわ」


エルヴィンは、かつての父のように強引な男ではなかった。彼はハーフエルフとして、人間社会でもエルフの国でも「半分」の存在である孤独を知っていたからかもしれない。その高貴で、どこか陰のある佇まいに、セシリアは次第に惹かれていった。



二人は領地の森で、黄昏時に幾度も密会を重ねた。だが、エルヴィンは彼女を帝都へ連れて行くことはしなかった。かつて自分の母が味わった苦悩を、愛する女に味わせたくなかったためだ。 「僕は君を皇宮という籠に閉じめたくはない。でも、叶うならば、君との証が欲しい」 セシリアも同じことを望み、周囲の反対を押し切って、第二妃という立場を受け入れた。


そして二年後、アルヴィンを身籠ったセシリアは、自ら「別居婚」という形を選択する。 「私は故郷の風と森の光の中で、この子を育てたい。あなたはあなたたちの守るべき大切な帝国を、守って生きていって。いつかまた、私たちに会いに来てくれれば、それでいいの」


アルヴィンが生まれた時、父に似たそのサファイア色の瞳を見たセシリアは、遠い帝都にいる夫を想い、「この子は、空の広さと海の青さを知る子になるでしょう」と予言した。



継承権のある男児とその母は、宮殿で大切に守られて育つのが当たり前の世界で、当時の皇太子と美しい第二妃の決断は、大きな驚きを持って受け止められた。「生涯、一緒には暮らさず、それでも強い愛で繋がれた」二人の関係は、切ない物語ロマンスとして、事情を知る者たちの間で密やかに語り継がれている。

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