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絆の香り



 取調室の扉をくぐった先、すでに座って待っていた人影に、北瀬はふわりと外面どおりの温和さで微笑んだ。窓のない部屋の中、どこか心許なく灯る電灯に、その金糸の髪がさらりと揺れる。

「お呼び立てしてすみません」


 いえ、と長い黒髪が首を振った。だがその表情はどこか不可解さで曇っている。

「今朝がたのニュースで、犯人が捕まったと聞きました」

 それなのになぜ自分が呼ばれたのか分からない、というところのようだ。気づかぬ風に人が良く笑んだまま、北瀬は綾乃あやのの正面の椅子を引いた。

「おかげさまで、犠牲者がこれ以上出ないうちに逮捕できました。ただその際に犯人から気になる供述がありまして。確認したいことがあったので、ご足労いただいたんです」


「犯人の話によると、家を出た琴乃ことのさんをすぐに追い、殺害したらしい。そのため、こちらとしては疑義が生じた」

 北瀬の柔らかな声音のあとをついで、彼の後ろに立つ那世から、真反対の低く威圧的な声が降った。

「つまり犯人は、家を出たのがあなたではなく、琴乃さんであったと、痣を確かめもせず分かったことになる。琴乃さんが家を出た時、あなたも在宅していたという話だったが、どうしてあなた方を見分けられたと?」

「それは・・・・・・」

 虚を突かれたように綾乃の視線が惑う。言い淀んだ彼女に、そのまま那世は畳みかけた。


「ふたりを見分けられる人間は、ご両親と七森ななもりさんの他いなかった。そのはずなのに、犯人には区別がついた。――あなたなら、その理由が分かるんじゃないか?」

「――もしかして、私、姉を殺したと疑われていますか? 犯人は捕まったのに?」

「なんらかの形で協力者として接触があったのではと思って質問させていただいた。だが、すぐさま殺した嫌疑に考え及ぶとは、やましい部分があるんだろうか?」


 一重の目元が、そこを縁どっていた哀切を消して、かすか苛立たしげに那世を睨み上げた。それを真っ向から受け止めて、単調な冷淡さで那世は切り返す。取調室の空気が固く険を帯びた。

 そこに、ふわりと苦笑する声が割っている。


「まぁまぁ、那世。任意で来ていただいているのに、証拠もなしにいきなりそんな勢いで詰め寄るのは失礼だ」

 すみませんね、と、甘い顔立ちは困り気味に微笑んだ。

「実はこちらでは、お姉さまの件とその他の犯行は、別の物ではないかと考えておりまして。少し、気が立ってる者が多くて……。一件目がなかったら、二件目の犯行もなかったろうと。二件目の被害者の方には、小さいお子さんがいらしたのもありましてね。同情する刑事も少なくないんです」


「それは警察が以前に犯人を捕まえていなかったからですよね?」

 まだ棘の残る響きで、綾乃は過去の警察の不手際ごと責めたてた。

「それが、今回の件があったから解決したとも言えるんじゃないですか? それに捕まった人は、犯行を認めているんですよね? これだけ同じ犯行を重ねてる犯人がいて、自分がやったと言っているのに、姉の件だけ違うだなんて納得がいきません」


「過日のことは返す言葉も……」

 柳眉を曇らせこぼした北瀬に、綾乃は鬱憤を晴らせたとばかりに鼻を鳴らした。けれどわずか殊勝な空気を溶かし消し、鋭く整った青い双眸は、その奥に綾乃を映し込んだ。


「ですが、お姉さまの件に関しては、先に那世が言った犯人の供述の他にも、腑に落ちないことがあるんです。被害者の顔を傷つけて胸元に数字を刻む。それが二十年前からのこの犯人の特徴的な行動ですが、琴乃さんだけ、顔の傷つけ方が違ったんです」

「違った、んですか?」


「琴乃さんは顔を切りつけられただけだったが、過去四件、犯人は顔を削ぎ落している。そして先日の二件目も――同様にして打ち捨てられていた」

 躊躇いもなく、あえて悲痛もなく、淡々と那世が事実だけを告げれば、一瞬意を把握しかねて瞬いた綾乃の瞳が見開かれていく。所在なく動いた指先が無意識に、ふたりと彼女を隔てるささやかな壁を象るように絡み合わせられた。


「二件目の報道があった後、尋ねに来てくださいましたね」

 のびやかに、けれど決して耳を閉ざすを許さぬ凛とした響きで、北瀬の声が綾乃の耳朶に絡む。逆らいがたく引き寄せられ、視線をそらせない。

「ちょっと、気にはなったんですよ。どうして、お姉さまの件が、未解決連続殺人犯によるものかもしれないと報道された直後ではなく、二件目のあとだったのか」

 すっと切れ長な青の底。微笑みながらも、まっすぐ貫き糾す苛烈さが閃いて、綾乃は動きを縫い止められた。

「ご存知だったんじゃないですか? 報道がされる前から、琴乃さんの件がただの殺人事件ではなく、過去の連続殺人と結び付けられること」


「最初、事件の報道はされたが、ただの殺人事件としてだった。だが、その翌日の昼には何者かに報道へとリークされ、騒ぎ立てられた。連続殺人との関連は警察内で秘されたままだったにも関わず、だ」

 色の抜け落ちた表情で押し黙る綾乃の上に、那世の低い声音が、冷ややかに、積もり重なる雪のように注いだ。

「報道機関はもちろん、関係者にもその件が伏せられていたのは、ご存知の通りだ。推定の段階で話して、無用な心労になるといけないからな。だが、それが逆に心配の種となったんじゃないか? せっかく細工までしたのに、過去の件と無関係にされるのではないか、と。なにせ古い上にかつて県警の汚名ともなった事件だ。不安がよぎった。だから、捜査の方向がそちらに向くよう、報道機関へ情報を流した」


「こちらとしても、どこから情報が流れたのか、捜査の傍ら色々調べたんですよ。どこへいつ、誰からか」

 微笑んだ指先が、事件資料の挟まれたファイルから、写真を取り出し、机の上を滑らせた。

「電話は地元テレビ局へ、公衆電話からでした。この写真は、その公衆電話付近のビルの監視カメラからの映像です。顔は鮮明には見えませんが、身長や服装から考えて、女性でしょう。ちなみに今回捕まった犯人は、男性です」

 端正な顔には、にこりと笑みが象られただけなのに、薄暗い室内の空気がより重苦しくなった。

 ゆるゆると首を絞められゆくように――綾乃の口元は、酸素を求めて小さく開閉を繰り返した。


「リークを行った時点では、もちろん、二件目は起こる予定ではなかった。だがそれが呼び水になって、本当に過去の犯人に再犯を起こさせ、もうひとり、犠牲が出た」

「だから、会いにいらしたんでしょう? 自分のせいで、誰が亡くなってしまったのか、知りたくて」

「さっき北瀬が二件目の被害者の子どもの話をした時、あなたは警察の落ち度を責め、自分が疑われるのを不服としたが、その子と同じように、自分も姉を奪われた遺族なのだ、という主張は、欠片もしなかったな。同じ被害に遭って、片方へだけ警察が肩入れしていると聞いたのに、そこに憤らなかったのは……違うと理解していたからでは?」

 己は奪われた側ではなく、奪った側だということを――。


 柔らかに、冷ややかに――畳みかけられる言葉に、綾乃は唇を引き結び、だが直後、頬を凍りつけたまま小さく微笑んだ。

「せっかく協力しようと思って来たのに、言いがかりもひどいわ。監視カメラの女性の顔は分からないし、自分が遺族だと意識してるかどうかなんて、言葉尻を捕らえただけよ? 警察は、こんなことで人を殺したことにするの? それも親しい――誰よりも身近な、自分の姉を」

 淀みなく流れる声はいっそ清々しく、彷徨っていた視線は惑うのをやめ、目の前の北瀬と那世を静かに見つめ返した。


「姉は、私の半身だったの。同じ時に、同じ身体を、二つに分けて生を受けた。産まれた時から、全部同じ。同じの――運命だったの。そんな姉を、どうして私が殺したと思うの?」

 たずさえられた笑みは穏やかで、一重の縁どる瞳の中には一筋も、虚勢や怒りで揺らぐところはない。ただ一方それは、厚く水面に張った氷のおもむきに似て――色も温もりなく見えた。

「そうおっしゃられるなら、最後にもうひとつ、こちらから質問を」

 ゆったりと流れた北瀬の声に合わせて、おもむろに那世が動き、証拠品用の袋に入ったままのネックレスをひとつ、綾乃の目の前へと置いた。

 柄杓のようなに連なるこぐま座の小さな石が、薄明りに儚く煌いている。


「これ、どちらのだと思います?」

 柔らかに、けれど試みるように。不敵に微笑んだ唇が、綾乃へと身を乗り出し、首を傾げた。

「お姉さまのか、あなたのか」


 綾乃の視線はネックレスを一瞬、息を詰めて凝視し――そのまま、強張りを覆うように、強気な笑みをのせた。

「分からないわ。同じだもの。見た目だけでは、分からない」

 寸分違わぬネックレスだ。同じように、変わらぬように――そう、作った。自分たちと同じように――。


「あなただって、その袋から出して目印をなくしたら、どっちか分からないでしょう?」

「それが、俺は分かるんですよ。匂いが、違うんで」

 微笑みが告げた言葉に、ぴくりと綾乃の片眉が釣り上がった。瞳の奥に瞬間、許し難きに注ぐ瞋恚の焔が閃く。

 それをあえて、素知らぬそぶりで淡く笑みで受け止めたまま、北瀬は続けた。


「ちなみにこれは、訪ねてきてくださった時に、あなたからお預かりしたものです。あの時、琴乃さんのと比べる参考にとお話ししましたが、実は他にも、ちょっと違和感を覚えて調べたかったんですよ。そして、その違和感の原因がなにか分かりました。――血の匂いです」

 北瀬はファイルから数枚の紙面を綾乃の前へと突きつけた。

「こうしたアクセサリーは、石を止める爪の部分に、付着物が残りやすいんですよ。そこで調べてみたら、琴乃さんの血液でした。さて……あなたがお持ちだったこのネックレスに、どこでお姉さまの血が付着したんでしょうね?」


「――手を……怪我したのよ。ちょっと前にね」

 するりと白い滑らかな手の甲をもう一方の掌で撫ぜ、綾乃は平淡に言い切った。逸らさない瞳の奥に、微笑む北瀬のかんばせが、じっと映っている。

「それでその時、私の血が付いたんだわ。不思議はないでしょう? だって、私と姉は元はひとつの存在だった。この身に流れる血も同じなの。それを、勝手に姉のものとそちらが早とちりしたんでしょう?」


「残念ながら……それは少し、難しい言い訳です」

 微笑む唇はゆっくりと、綾乃の言葉を否定した。

「お伝えしたと思いますよ。匂いが違う、と」


「俺の異能は、契約者の身体能力を著しく高めるんでな」

 意を得ないと怪訝に眉を寄せた綾乃に、那世の硬質な声が北瀬の代わりに淡々と応じた。

「そうして高められた嗅覚で、北瀬がこのネックレスから感じ取った違和が血の香りであり、そして――それはあなたに流れる血とは絶対的に違う匂いを持っていた、ということだ」

「〈あやかし〉と契約者の特徴的な繋がりとして有名なのは、互いだけに分かる香り、胸に浮かぶ同じ痣ですが、もうひとつ――分かりづらいため、あまり知られていないものがあります。……契約者の血に微細な違いが生じ、匂いが変わるんです」


 平静を気取っていた綾乃の双眸が見開かれた。固まり、削ぎゆかれる表情に、ただ那世の声音が、退路を断つように静かに重なりゆく。

「〈あやかし〉を見分ける手段のひとつに、血液検査があるのは知っているだろう? その血の違いが、契約者にもわずかに生じる。ちょっとした混じりっけ程度で、医療的には問題ない違いなうえ、よほどしっかりした検査ではないと分からないがな。ただ、北瀬はその匂いが分かる。だから、これに付着した血は契約者のものだという前提で、相応の検査もきっちり行った」

「結果、俺の嗅覚はちゃんと働いていたようです。間違いはない、と。検査結果にもはっきりと出ました」

 長い指先が紙面の数値の箇所を指し示したが、綾乃の視線がそれを追いかけて動くことはなかった。


「当然、契約が途切れれば、互いの匂いも果て、痣は消え、血の内の違いも元に戻る。だが、すぐさまではない。時間にして三十分前後。そのわずかの間に、契約者と〈あやかし〉の間のすべては途切れていく……。が、逆に、そのわずかな時間の間であったならば、契約者がこと切れたあとであっても、血の内の匂いは薄れない」

「他人の胸元にあるネックレスに血が飛び散るなんてことは、よほどの出血がある怪我でもない限り、そうそうありません。念のため七森さんにうかがったところ、最近、琴乃さんが怪我をしたという事もないそうですね」

 凛然とした青が、逃げるを許さぬ笑みを携えて、ひたと綾乃を見据えた。


「さて――もう一度聞きますよ。どこで、いつ、あなたのネックレスにお姉さまの血が付着したんですかね? それとも、もうすこし分かりやすい質問に変えましょうか。お姉さまが殺された日、七森さんがその死を悟り、あなたに連絡した瞬間。あなたは、どこで、何をされていました?」


 頭上の儚い電灯が机に落とす陰影が濃く、重い。取調室は、息も凍る沈黙に閉ざされた。

 やがてその凍った空間に、乾いた綾乃の声が、「違うわ」――と、おもむろに呟いた。


「……このネックレス、あなたは私の物だと思っているようだけど、違う。それは、琴乃の物よ。私のは、姉が苦し紛れに手を伸ばして、握りしめて――引き千切ってしまったから」

 証拠品の袋越しに、淡く綾乃の指先が、ネックレスの表面を撫でた。

「――でも、必死過ぎて、その時には気づかなかったのよ。お揃いだって……あんなに大事にしていたのに……千切れたことにすら、気づかなかった」

 いとおしげに石の連なりを辿った指先が、その尾の部分――北極星にあたる石の上で止まる。他より大きく、異なる色で眩く光る、特別な石だ。


「……姉の息がなくなってすぐ、七森さんから電話があったの。本当に、すぐ。私には感じられない形で、確かに繋がっていたんだって――思い知らされるようだった。それに苛立ったのかしらね。別に捕まってもいいと思っていたはずなのに、昔あった事件を真似て逃げることにした。二番目の方には、お気の毒だったけれど……仕方ないでしょう? 続かれるなんて、予測できるはずもない。だから、姉の顔を傷つけて、数字を――……」

 そこでネックレスに触れていた綾乃の手は、ひどく苦い笑み交じりに頭を抱えた。


「大好きな姉だったのに、躊躇いなく出来てしまった。同じ姿形を傷つけた。・・・・・・その罰かしらね。七森さんと姉の行方を探すふりをして、家に戻ってきた時に、ようやく、姉が私のネックレスを握っていることに気づいたの。だからもう、取れなくなってた。それで、姉のしていたネックレスをとったのよ。同じだから。分からないと思った。でも、そう――匂い。……これも、匂いが違ったの……」

 届かない星の瞬きに追いすがるように、綾乃は凍えた色で鈍く輝く星の石を見た。


「――北極星って、連星なんですって。別の星々なのに、同じ存在として呼ばれるの。そうやって、ずっと変わらず、空に在り続ける」

 ふいにふわりと、花が咲きこぼれるように、なのにどうしようもなく凄絶に、綾乃は口元をほころばせた。


「聡明で優しくて穏やかな姉が、溶け合いたいほど好きだった。そんな姉と、産まれた瞬間から、身体の端の隅々まで同じ存在であることが私の喜びだったのに――七森さんに出会って、決定的に……匂いが、違ってしまったの」

 契約者と〈あやかし〉が互いに感じる匂いは、唯一無二だ。他の誰も持ち得ぬ、たったひとりのためだけの――絆の香りだ。


「姉と私は、どこまでも同じなはずだから、同じ香りを手に入れなければならなかったの。でも、姉がいたら、確かめられない。どうしても、どこまで同じなのか確かめたかった。だから殺したの。私から、同じ匂いがするかと思って。私も七森さんに、同じ匂いを感じられるかと思って」

 当然の帰結とばかりに、彼女の口調は理路整然とした調子だった。まっすぐに、告げるに躊躇いもなく綾乃は微笑み――けれど、唐突にそれを曇らせた。


「でも、違ったわ……。同じ匂いを知れないどころか、私は姉と同じ契約者にすらなれなかった。どこまでも、同じだと思っていたのに……違ってしまったの。姉の運命は、私じゃなかった。私が――同じで生まれた私が、唯一無二であったはずなのに……」

 紡ぐ声には悲嘆があり、瞳の向こうには哀切が揺れていた。滲む姉への思慕には偽りも澱みもなく、きらきらしくさえある。いっそ、狡猾に装ってくれていた方が、まだましなほどに。


「ねぇ……あなたたちは、ブルーズ・バディとして、たくさん人と〈あやかし〉の事件を見てきているんでしょう?」

 茫漠ととぐろを巻く薄気味悪さを纏ったまま、翳った微笑みは、憧憬と嫉妬を綯交ぜてふたりを絡めた。

人と〈あやかし〉(あなたたち)の出会いって、そんなに一瞬ですべてを変えてしまうほど、運命的なの?」


 それは肯定を望み、そう答えるだろうと見通す響きがあって――だから自然と、那世の口からは否定がこぼれた。

「そうでもない」

 瞠られる綾乃の目を、真っ直ぐに見定める。

「出会い方が特徴的なだけであって、それだけで、なにもかも変えられる力があるわけじゃない。契約を交わしたかどうかも、ともに生まれたかどうかも、同じことだ。等しく、出会い方のひとつであるに過ぎない。どんな関係を築けるかは、お互い次第だ」

 だから、暴力的で甘美な運命の牽引力を前に抗い、敵わず負けたなどとは思わないでほしい。

「姉との唯一無二の関係を千切り捨てたのは、他でもない、あなただ」


 綾乃は口を引き結び、顔を伏せた。その視界に、姉と揃いのネックレスが入り込む。形を模してはいても、遠く冴えわたり輝き続ける本物の星には及ばない、冷たい石の光が朧に霞んだ。


 それを認めたくなくて瞬きで誤魔化し、綾乃は最後に男たちをひと睨みしてやろうと、俯く顔を振り仰いだ。その先で――じっと己を見守っていた視線に、思わず息を飲む。

 違う瞳の色に、同じ綾が揺蕩っていた。共感も同情もなく、冷静で、いっそ冷徹でありながら、侮蔑もない。ただ彼女の有様を受け止め、醜悪さからも逸してくれない眼差し。それに、奇妙なぬくもりを帯びた安堵を与えられた。


 見目も、纏う空気も、まるで正反対なのに――彼らは同じように在るのだ。目に映るものだけでない、ほかのどこかで得た感覚が、そう綾乃に疑いようなく囁いてやまなかった。

(ああ……そうなの――……)

 仰いだ空に、変わらず輝き続ける北極星。別の存在を同じ名で呼ぶ、沈まぬ星。


「あなたたち、そういえば――ふたりで、ブルーズ・バディって呼ばれてるんだったわね……」

 落とされた言葉に、訝しげな空気がふたりに混じった。彼らにはその意までは分からなかったようだ。だが、それでいい。そこまで伝わってしまったら、ひどく癪であろうから。

 真似事だった己には、仰ぎ見たふたりは眩すぎて、綾乃は堪らず、素直な笑みを小さくこぼした。






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