第98話 - アルスローの南西 -
ようやく束の間の短い連休です。
今回は話の都合で少々短いですが、次話はかなり長くなりますのでご了承ください。
「しっかしアンタがまさか戻って来るとはねえ!」
「この街にずっといる訳じゃないですけどね」
執務室へと通され、質の良いソファに座り話す4人。ヘレンはというと、ビエラに諭され泣く泣く受付の仕事に戻っていった。
「今はまだそれで良いのよ。アルノルト様も心配だろうから偶には顔を見せてあげなさい。」
「そうですね」
「さて、そろそろ本題に入るとしようかね。まさか顔を出しに来た訳じゃないだろう?」
その見た目通り、まどろっこしいのは嫌いだね。と言わんばかりに単刀直入に尋ねるビエラ。
こちらとしても助かると思いながらベルゼは、アルノルトの屋敷での事を伝える。
「霞の森ねぇ…。あそこは厄介な所だからね。アルノルト様の推測通りで魔族は避けると思うのよねぇ。」
「ちなみにどのくらい魔力を持ってると、症状として出るんですか?」
ベルゼの隣でそれまで大人しく聞いていたリエルが尋ねる。
「並の冒険者と言っても難しいのだけれど…前に魔道具を使って検証した時に出た数値で言うなら、ステータスで言うと、だいたい1000以下なら気怠さと急に漲る程度だったかしらね。」
「そ、それ以上は…?」
「大体1万以上魔力を持つ者になると、相当ヤバいわね。3万で廃人確定よ。」
それを聞いたティアだけが安堵していた。
ベルゼとリエルは青い顔をしながらも、平然を装う事で精一杯だった。
数多く存在する冒険者は、ステータスのレベルはベルゼ達に比べそこまで高くはない。というのも、ソロだろうが、パーティであろうが、経験値を多く稼ぐ機会に恵まれない…というか恵まれた時点で生死に関わる事が多い。
その点、彼らはスタンピードや下位竜の討伐、ダンジョンの踏破により多くの経験値を稼ぐ事ができてしまった為、並の冒険者を遥かに凌ぐレベルに到達している。
「そんな顔をするって事は…アンタらは近づかない方が良さそうね。いったいどのくらい魔力を持ってるんだい…」
流石にギルド長というだけあってか、一瞬の表情の変化に見抜いたビエラだったが、後に2人の魔力量を聞いた時は思わず卒倒するところだった。が、ここも流石はギルド長。どうにか耐え抜いて2人には森に入る事を強く禁じた。
「その霞の森って、アルスローから見てどの辺にあるんですか?」
ベルゼはふと思いついた事を聞く。
「霞の森はアルスローの南西にあるんだよ」
「南西…?」
アルスローの南西。
そのワードに聞き覚えがあった。
「ベルゼ!前に参加したモンスターフェスティバルの時に説明したんだけど、覚えてるかな…?」
「ん…何を?」
ベルゼの独り言に対して助言を入れたのはリエルだった。
「モンスターフェスティバルって秋頃に魔物がたくさん湧き出るって。」
「ああ、前に教えてくれたよね。洞窟から阿保ほど出て来るって。」
「そう!その洞窟は"満月の洞窟"と呼ばれてて、アルスローから見ると南西にあるって!」
以前参加し、優勝した|モンスターフェスティバル《魔物狩り祭》。毎年、秋の満月頃にその洞窟から湯水の様に湧き出てくる魔物を討伐する為の祭だ。
通りで聞き覚えがあると思った……ん?
「え、人が廃人になる森に行ってたってこと?」
「満月の洞窟は、霞の森の手前だよ。洞窟を抜けるともう霞の森だけど、あの洞窟までは人体に影響はないんだよ。」
ベルゼが不安に思った事はビエラの説明によって解消された。
確かにあの祭は洞窟の内部より進んではいけないというルールだったからだ。
「なるほど」
「聞きたい事はそれくらいかい?無ければもう少しアタシのお茶に付き合っておくれよ」
わざわざビエラに会いにギルドへと出向いたのだが、そこで得られた成果は、霞の森には近づかない。これだけだった。
だが、久しぶりに会った事もあり、互いの近況話に花が咲き夕暮れが近づいたところでお開きになる。
♢ ♢ ♢
一夜空けて王都南に位置する港街、セレスタン。
時刻は昼過ぎだが、漁港市場のような活気は未だに現在だ。メインストリートを挟んで露店が立ち並び、そこではやはり港町だけあって新鮮な魚介類が並んでいる。
「というわけでセレスタンに帰ってきたけど、今後の活動方針をたてようか。」
「そうだね!」
「んっ」
アルスローで馴染みの宿にて1泊して、昼にアルスローを発った"冥府の使者"一行は立ち並んだ露店で昼ご飯がてら食べ歩いていた。
「とりあえずアルスローは無事だったし、ティアも無事Bランクになったし、クエストでもいく?」
「そうね…あの子達とご飯も行く事だし、セレスタンから動かないで出来ることといったら…ね」
「ん。」
あの子達とは"疾風の翼"のメンバーだ。リエルとティアが不在の時、ベルゼが一人でグリフォンに立ち向かった日に、食事の約束をしていたのだが、グリフォンの襲来によって叶わなかった約束。そして謎の力を酷使した代償で倒れていた所に駆け付けて宿へと運んでくれた感謝として改めて改めて食事に誘ったのだ。
「でもいつ魔族が来ても良いように警戒はしておきたいね。」
そう言うと自身の腰のベルトに括り付けた"報せの鈴"に目をやる。
「まあ、気にしてばっかりいてもね!わたし達はわたし達にできる事をしよっ!」
「ん!」
それもそうだなと、2人を見て強く頷くベルゼだった。
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