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深夜の攻防

「お義父様……」

 頼もしい味方の登場に、シエリス達三人は胸を撫で下ろした。


 こうなると針のむしろなのはアンスの方だ。


 何とかこの場を取り繕うとあたふたしてしまっている。


「貴様、なぜ領主代理たる者の寝所に入っておるのだ?」


 ドスの利いた声で凄んで行く。


 既に迫力で負けてしまっている。


「そんな事はどうでも良い! この女が私をこの花瓶で殴ったのだ! 平民の分際で貴族たる者に刃向かうなど言語道断だ!」


 何とかしてエメラインに全部を押し付けて乗り切ろうと考えているのだろう。


 アズベルトは事情を聞くべくエリンシアに視線を送った。


「エ、エメラインは私を助ける為にそうしてくれたのです」


 彼女は赤く腫れる頬に手をやりながら、声を振り絞る様にして弁護を振るう。


「だそうだが?」


 周りの目が一斉にエリンシアからアンスへ向いた。


「婚約者の私が未来の伴侶の部屋へ行って何が悪い!」


 とうとう開き直った態度になる。


「そんなものは誰も認めてはおらん。もっとましな言い訳を考えろ」


 追い詰められてか、開き直ってとうとうある事を言い出した。


「何も知らん猪武者が偉そうな事を抜かすな! 既に帝都より一万の兵を乗せた船団が出発しておる。いきがっていられるのも今のうちだぞ。貴様らもここにいる小娘もこの私に跪く事になるのだ」


「言うに事欠いてその様な世迷言を」


 アズベルトは頭からそれを信じず鼻で笑う。


「頭の悪い田舎騎士には理解できんか? これが証拠だ」


 言った事が相手にされず頭にきたのか、小さな紙切れを投げて寄こした。


 それは使い鴉が寄こしたと思われる物で、帝国の軍勢が出陣したと書かれているものだった。


「馬鹿な? そんな事をすれば我らと戦になるのだぞ」


 にわかに信じられないのか、いぶかしげな表情を崩さない。


「知った事か! これは畏くも皇帝陛下直々に裁可を賜ったものだ。気に入らぬというのなら、領地に帰って戦の準備をすればいいだろう!!」


 アンスの必死ぶりからして、事実なのだろう。


 しかしそれは非常に困難な状況に置かれている事でもある。


 一気にその場の形勢が逆転してしまった。


「ようやく自体が飲み込めたか。とにかくこの小娘は斬首刑にするとして、まあその前に自らが犯した罪の重さを我が配下達でその身に思い知らせてやるとしよう」


 下碑た顔で彼女を見下す。


 エメラインは薄明かりの中、ずっとうつむいている。


 逆にエリンシアの方はシエリスへ必死に救援の視線を送っていた。


 その意に気付いたシエリスはアズベルトにそっとつぶやく。


(お義父様)


 義父を動かそうと彼の袖を引っ張り、あのメイドを助けろと秋波を送る。


(あれはただのメイドだぞ?!)


(お願い……)


 何故そこまで平民の娘にこだわるのか分からなかったのだが、義娘の懇願には逆らえないのだった。


「そもそもこの事は貴様が自ら招いた事だ。この様な勝手は許されん」


 強者が弱者を絶対的に従わせるこの世界において、かなり無茶な論法だが何とか勢いで押し切ろうとする。


「馬鹿な、理由はどうあれ帝国貴族たるこの私に傷を負わせたのだ。厳罰は当然であろう! 打ち首が法というものだ」


 切り札を吐き出して気が大きくなっていたアンスは強気の姿勢を崩さない。


「だとしてもこの街の法で裁くのが筋というものだ。執行官たる領主が新たに決まるまで牢につないでおくのが順当であろう」


 不安そうにシエリスは義父を見ている。


「お義父様……」


(案ずるな、わしの配下に牢を張らせる。今はその方があのメイドにとっては安全だ)


 アズベルトは小さく呟いた。


 そして娘に向けるものとはおよそ別人といって良い鬼の様な形相をアンスへ向ける。


 戦場でその形相を見た敵兵は武器を投げ捨てて逃げ出すとまで揶揄されるほどのものだ。


「それとエリンシア殿は婚礼前の身だ。間違いが起きぬよう、わしも警備に関わる事にする。よろしいな」


 それに根負けしたのかどうかは分からないが、捨て台詞を吐いて去って行った。

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