01 庭に落ちた光
01 庭に落ちた光
庭で、何かが光った。
窓の外を横切った光は、ポーチのあたりで弾けるように消えた。ロズマリーは手にしていた本を置き、急いで外へ出た。
ポーチの階段に、人が倒れていた。
まだ幼さの残る男の子だった。服は大きく裂け、胸から脇腹にかけて血が染み出している。階段に垂れた指先は、ぴくりとも動かなかった。
「聞こえる? しっかりして」
ロズマリーが肩に触れると、男の子はわずかに顔をしかめた。息はある。けれど、ひどく浅い。
血のついた体を抱き起こし、どうにか家の中へ運び込んだ。ベッドに寝かせると、棚から傷用のポーションを取り出した。
「少し染みるかもしれないけれど、我慢してね」
裂けた服を傷口から離し、ポーションを振りかける。
流れ続けていた血が止まり、傷の縁がゆっくり寄り合っていった。しかし、深く切り込まれた部分までは塞がらない。男の子は唇を震わせ、苦しそうに息を漏らした。
(こんな小さな子どもが、どうしてこんな怪我を……)
もう一本、ポーションを使った。それでも傷は残った。
ロズマリーは、自分の腕にはめた腕輪を見つめた。
祖父から、決して外してはいけないと言われていたものだ。理由を尋ねても、祖父はいつも真剣な顔で同じことを繰り返した。
けれど、今はその言い付けを守っている場合ではなかった。
「おじい様、ごめんなさい」
ロズマリーは腕輪を外し、男の子の傷の上に手をかざした。
指先から淡い光がこぼれた。白い光の中で、紫の稲妻が幾筋か走った。
光が傷口をたどり、裂けた肉を繋いでいく。苦しげだった呼吸が、次第に落ち着いていった。
「大丈夫。もう大丈夫だから」
声をかけながら、ロズマリーは魔力を注ぎ続けた。
やがて傷がすっかり塞がり、男の子のまぶたが震えた。
ゆっくり開いた目が、ロズマリーを捉える。
「天使様ですか……?」
かすれた声だった。
ロズマリーが答えようとすると、男の子の口元に小さな笑みが浮かんだ。
「ああ……やっと、会えた……」
それきり、目を閉じてしまった。
「待って。ねえ、聞こえる?」
慌てて顔を寄せたが、呼吸は穏やかだった。胸が規則正しく上下している。触れた手からも、先ほどまでの冷たさは消えていた。
安心して眠ったらしい。
ロズマリーはようやく息をつき、毛布をかけ直した。腕輪を戻してから、血に濡れた布を片付ける。
(目を覚ましても、事情を問い詰めないようにしなくては。きっと、よほどのことがあったのだから)
あれほどの傷を負った子どもだ。話したくないことも、思い出したくないこともあるだろう。
(ここにいる間は、ゆっくり休ませてあげよう)
ロズマリーはソファをベッドのそばまで引きずってきた。男の子の寝顔が見える向きに置き、自分も横になった。
目を閉じても、しばらくは小さな寝息に耳を澄ませていた。
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