第1話 夏クリだねぇ
※第1話〜第3話は作品の導入です。
※基本は一話完結。スキマ時間にどうぞ。
「夏クリだねぇ……」
夏の日差しが眩しい昼下がり。
ちはるはアルバイトをしているパンカフェ『びみょる』の窓に、力の入ったクリスマスの飾りつけをしていた。
「遠い昔、地球からこの星にやって来た人たちも、こんな暑い夏にクリスマスやっていたのかな……」
「この暑さ、三十路の体に堪えるわ……特にこのメイド服が重たいわ……」
汗がジワリと滲んできた。
「夏と冬にクリスマスをやっているけども……なんでクリスマスとかイベントの時期を地球に合わせてるんだろう、冬の時期に行われるイベントだと聞いたことがあるけど……冬だけにしてくれないかなぁ……」
あーもう、腕が上がらなくなってきた。
乳酸とフラストレーションも溜まってきた。
愚痴を抑えられずにいると、店の奥から男性の楽し気な声がした。
「母なる地球を忘れないためにだねぇ〜」
「それに古の地球では、夏にクリスマスを祝う一族がですね、聖なるソリを大いに飾り立てていたそうですよ、私の集めた資料によればね」
ちはるは少しびっくりして、慌てて申し訳なさそうにした。
「あ、オーナーすみません、うるさかったですよね……」
「いえいえ♪」
「まだ飾り付けが終わってなくて……その、ちょっと手伝っていただけると……」
「いえいえ♪」
鼻歌まじりのオーナー。
何か忙しそうにしているけど、何もしているようには見えない。
ちょっとは手伝ってくれてもいいのに……
ふてくされてもいいかしら。
また奥から別の男性の真面目そうな声が語りかけた。
「地球から数十光年、この惑星キリシマに入植してきた人類ですが、歳をとる間隔は地球の頃と変わっていないので、それを忘れないためですよ」
「あ、まことさん」
厨房のカウンターから少し顔を出したまこと。
「このキリシマの一年は地球の2倍、四季もそれぞれ2倍なので、地球の冬に合わせると、夏と冬、交互にやってくることになるんです」
相変わらず真面目だな……
「……知ってます……それより終わったなら、手伝っていただけると……」
「今日の注文分のケーキがもう少しで終わりますから、そしたら手伝いますよ」
オーナーとは大違いだ!
少し嬉しくなり飾り付ける手を緩めた。
「すこし休憩しようかな」
腰に手を当て一息ついた後、客のいない店内に足を向けた。
空いている席に腰を下ろし、両腕を上げて伸びようとしたところで、
まことがアイスコーヒーを差し出してくれた。
「ちはるさんお疲れ様です」
「はい、お疲れさまです」
「……あの……また新しいスイーツを……作ってみたのですが……試食していただけませんか?」
「はぇ?」
こ、これは……
まことは腕はいいが新しいスイーツを生み出す能力は少し、いや、かなり、低い……
というか、皆無と言っていい。
拒絶反応が顔に出ていないよね……
以前にも出された試作スイーツを思い出し、汗の粘性が強まった。
「いや、その、あの……」
困った顔をなるべく見せないように、目線を店内に泳がせた。
厨房奥にいたオーナーを見つけ、アイコンタクトで救難信号を必死に送ってみる。
ニヤニヤした顔が返ってくるだけ……
何笑ってるんですかーー!
「いかがでしょうか……」
まことの期待感という装飾がされた目……
なんて眩しいのーー!
「そう、です、ね、では、一口……だけ……」
差し出されたスイーツの見た目は良かった。
前もそうだった。
しかし見た目ではなかった。
視覚からの情報と味覚からの情報があまりにも違いすぎる。
脳がその違いを処理しきれなくなり、舌の上で何かが爆発するのだ。
(面と向かってまずいと言えない……これについてはオーナーに釘を刺されているし……)
引きつった笑顔で覚悟を決め、全身全霊で祈る儀式のように、両手でフォークを握りしめた。
「メ゛リ゛ー ク゛リ゛ス゛マ゛ス゛」
この星の長い夏は、今始まったばかりであった。




