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竜使いの聖域~少年剣士カミルの探求記~  作者: チャラン
第1章 聖域への旅立ち

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第1話 木陰での目覚め

「お前をこの先に進ませるわけにはいかない! 進むと言うのなら斬る!」


 謎の大岩壁を見上げ、その上を目指す鉄仮面の剣士にそう呼びかけ、勝負を挑む、黒髪の青年の姿がある。青年は悲愴な決意を持って、既に大剣を抜いていた。厚く幅が広いその大剣の刃は、扱う者の力によっては、大岩すら斬り裂くだろう。


 呼び止められた鉄仮面の剣士は振り返り、黒髪の青年の顔をよく確認している。青年と戦うことが本意ではないのか、鉄仮面の剣士は頭を振りつつも、自身が持つ竜殺しの大剣を抜き、


「斬ると言うのなら受けて立とう。こういう日が来てしまうとはな」


 何かの含みを持つ意味深長な言葉で、一対一の真剣勝負に応じた。


(…………)


 鉄仮面の剣士と対峙する黒髪の青年の後ろには、深い悲しみを湛えた目で2人の邂逅を見守る、ブロンドの美少女の姿がある。勝負の行く末を見届けるしかない彼女の双眸は、やりきれない悲愴感に満ちていた。


 もはや戦いは避けられず、黒髪の青年と鉄仮面の剣士、2人の激しい真剣勝負が始まる。


「ウオオオォォッッ!!」

「むうっ! 腕を上げたな!」


 膂力をもって鋭く振り抜いてくる青年の大剣を、鉄仮面の剣士は竜殺しの大剣で受けきり、鍔迫り合いの様相になる! 両者は長時間、一進一退の攻防を繰り返し、その実力は伯仲しているようにも見えた。だが、鉄仮面の剣士の強さは、黒髪の青年のそれを上回っており、時間が経つにつれ、力の差が如実に現れてくる。


 疲労の色が濃くなってきた黒髪の青年の大剣を弾き返すと、鉄仮面の剣士は、竜殺しの大剣を水平に素早く構え直し、渾身の突きを繰り出す! 鋭い大刃の切っ先に対し為すすべなく、急所を一瞬で貫かれた青年は、ほとんど即死であり、断末魔の声すら上げることなく、鉄仮面の剣士の体にもたれかかる形で、そのままぐったりと事切れた。


「…………!! …………!!」


 決着はついた。


 鉄仮面の剣士は悲しい目で、黒髪の青年の亡骸を両手に抱き、そのまま静かに野辺に置く。ブロンドの美少女は青年の亡骸に駆け寄り、その名を叫ぶが、既に事切れた彼にはもう何も聞こえない。




「…………!! ……カミル!」


 大きなモミの木の木陰で昼寝をしていた黒髪の青少年が名を呼ばれ、悪夢からハッと目覚めると、ほとんど反射的に体を起こしている。誰かからカミルと呼ばれ、飛び起きることができた青少年は、


「ふう、またあの夢だったか」


 と、独り言を呟き、冷静さと自分を取り戻した。体には、嫌な冷や汗をびっしょりとかいている。夢の中とはいえ、誰かになり、剣に貫かれ殺されたのだから、良い目覚めとはとても言えないわけだ。


 カミルが悪夢から目覚めることができたのは、傍らで様子を見守り、うなされている黒髪の彼の名を呼びながらその体を揺すり続けてくれた、美少女のおかげである。青髪セミロングのチャーミングで愛くるしい目を持つこの女の子は、


「大丈夫なの? カミル? うなされ方が普通じゃなかったわよ?」


 といった風に、起こした後も随分心配している。悪夢が覚めてから、徐々に頭がはっきりしてきたカミルは、そんな青髪の美少女の気遣いに笑顔を向け、


「なんでもないんだ、エミリア。よく見る夢を、たまたま見ていただけなんだよ」


 と、何も心配ないという風に軽く手を振って見せた。


 そんなちょっとした目覚めのやりとりの後、しっかり覚醒してきたカミルは、その場でスクっと体を立ち上がらせ、エミリアと呼んだ青髪の美少女と一緒に、周りをゆっくり見回していた。大きなモミの木の木陰の中にいるカミルとエミリアの目の前には、圃場一面に植え付けられ成長していく作物、牛舎から放牧され、ゆったりと牧草を喰む牛たちの姿といった、のどかな農村の原風景が広がっている。


 この懐古的な農村の村名は、シューンと言う。カミルとエミリアは、シューンの村で生まれ育った同い年の幼馴染であり、恋仲と言うまで発展はしていないのだが、両想いに近い形で、2人とも少なからず好意を抱いてもいる。また、2人の両親は健在で、お互い比較的近所に住んでいることもあり、何かと付き合いが多く、家同士の仲も良い。


 そうしたわけでカミルとエミリアは、このように一緒に過ごしていることが多く、2人をよく知る村民からは、ほとんどカップルなのだろうと見なされている。もっとも、まだまだ未熟なカミルとエミリアは、自分たちが抱いている恋心を、否定するのかもしれないが。


 カミルの両親は一定規模の農場を持っている。そのため、父のヨセフと母のハンナから頼まれ、今日もカミルは農作業の手伝いをしていたのだが、多少くたびれてしまったらしい。疲れた体を一休みするため、大きなモミの木の木陰で横になっている内に、眠りに落ちたカミルは、時折見る悪夢にうなされていたようだ。


 今日の仕事は十分であり、一応なりとも昼寝を取ったカミルは、体を休めることができている。


「そろそろ家に帰ろうか、エミリア」

「そうしましょ。お日様が少し下がって来たし、今から帰ればちょうどいい時間になるわ」


 カミルはエミリアにそう呼びかけ、青髪セミロングの彼女から返事を聞くと、いつものように何気ない談笑を交わしながらの家路につく。


 牛たちが牧草を喰み、季節の作物が豊かに実るシューンの農村風景を見ながら、エミリアとのんびり歩いていると、カミルはいつの間にか今しがた見た悪夢のことを、すっかり忘れていた。カミルにとって、大剣で戦い、負けて命を落とす悪夢は、よく見るものなのだが、何度見ても内容がぼんやりしていて、すぐ忘れてしまうらしい。断片的な夢の記憶くらいは残るのだが、この多感な年頃の黒髪の青少年は、わざわざ悪夢の内容を気に留めたくもないのだろう。


 一緒に同じ道を帰っていた2人が、家路の終わり頃、手を振って別れ、それぞれの家に着くと、ちょうど夕方前になっている。傾いてきた日の光を受けて輝くいつもの農村風景を、何となしに眺めていたカミルは、我が家へ入り、両親と夕飯を取る支度をし始めた。


 カミルもエミリアも、その日はそれぞれの両親と温かい夕飯を取り、和やかな団らんと余暇を楽しみながら、家でゆっくりと休んでいる。

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