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タイムストッパー結衣  作者: 楽園
9/14

久しぶりの二人で登校

 とうとう言ってしまった。

 自分の部屋に入った琴乃は顔を真っ赤にして、ベッドに突っ伏した。

 そのまま、枕で顔を隠す。

 顔面が熱でもあるのかというくらい火照ってた。

 明日、大丈夫かなぁ……。

 登校シーンを頭の中で再現する。まずはわたしが結衣くんの家のインターフォンを鳴らす。

 いや、鳴らさなくてもいいか。スマホのLINEで呼び出せばいいよね。流石に昭和じゃあるまいし。


 そして待つ。周りからどう見られるのだろう。

 彼女、ガールフレンド……妹……。

 ぶんぶんと左右に首を振る。

 ちょっと深呼吸。

 すーはーすーはー。


 そして、そして……二人で手を繋いで……。

 思わず顔が綻ぶ。想像だけでも最高。


 でも想像だから最高だけど、実際このシュチュエーション無茶苦茶緊張するのではないだろうか。


 で、電車に乗って、わたしが端よね。で目の前には人垣から守ってくれる結衣くん。

 そして、そして……。


 ちょっと待った。これってどこに問い詰める要素あるの?

 そう言えばそうだ。どう言えば真実がわかるだろうか。

 妹さんから何か聞いた?

 違うな、これでは意味がない。そもそも、これ言っちゃったら、こっちの真意がバレバレ。

 ここはやはり、

「びっくりしちゃった。ごめんね嫌がったりして急に手を繋いだりするから」

 これだ、これに決まり。

 琴乃は、明け方になるまで、悶々と考えながら過ごし結局ほとんど眠れなかった。

 

 朝になり、目覚ましが鳴った。

「はっ……」

 慌てて飛び起きる、時間は6時40分。

 緊張して遅くまで寝れなかったため、30分は起きるのが遅れた。

 女子は男の子のようになんの準備もしないで飛び出すなんてできない。女の子には準備があるのだ。

 慌てて一階に降りて化粧台の前に立つ。ドライヤーで頭をセットし、顔を石鹸で洗い、乳液を使って肌を整え、リップクリームを塗った。

 

 大丈夫かな、変じゃないかな?

 

 早くしてくれよ、と言う父親の声をこの際無視して左から右へと確認する。

「おかしくは、ないかな」


 暫くするとインターフォンが鳴った。

 ちょ、ちょっと待って。何故、インターフォン。確かにわたしたち幼馴染だけども、そしてこれから恋人同士になりたい女子だけども、みんなに見送られながら行きたくない。


 その後、お母さんのニッコリとした表情で、付き合ってるのって問い詰められるに決まってる。

 うまくいっても、最初から彼氏彼女認定されたくない。

 ちゃんと一定の交際を経て、家族に紹介するのならばいいのだけど。

 鏡に写った自分の顔を見て我に返る。

 何考えてるのよ。

「琴乃、ごはんは?」

「もういい、行ってきます」

「あっ、そうだ。インターフォンは」

「ちょ、ちょ、いいからいいから」

 両手を左右に振って、全身で拒絶を表す。

 母親はふふーん、と何か合点がいったような表情をしながら、

「いってらっしゃーい」

 疑惑の表情に笑みを浮かべながら手を振った。

 絶対、夜問い詰められるよ、きっと……。


 琴乃は慌てて家を飛び出す。目の前には結衣が手を振りながら待っていた。

「おはよ」

「おはよう」

 軽い口調で挨拶を交わし、二人揃って歩く。母親が出てこないか後ろを振り返り、また前を向いた。

 とりあえず、家からは出てこなかったか。隠れて見ている可能性は高いとは思うけれども、今のところ結衣の姿を見られたとは限らない。

 夜に問い詰められる可能性は低くはないから、とりあえずは、知らないふりだけはしよう。

 それよりも、どう伝えよう。インターフォンは鳴らして欲しくないとしっかりと言ったほうがいいのかな。幼馴染認定されているから、見られても平気だろと思われていたら、これはあまり使えない。

 だから、要件だけを伝えることにした。

「ねぇ、朝の連絡手段なんだけど」

「うん?」

 ニッコリと笑顔で

「できれば、LINEでしてくれないかな」

「そっちの方がいいのか? ならそうするけども」

 こっちの真意はわかってはいないようだけれども、次回からはあのインターフォンは聞かなくて済む。


 できれば待ち合わせ場所を電車前にした方がこの際いいのかもしれない。

 男の子には分からないかもしれないけれども、親に問い詰められて、あーだこーだ言われるのは面倒なものなのだ。

 誰と会ってるのかから始まり、どんな子だ(これは結衣くんの場合、無視していいけれども)に続き、どこまで行ったのか……、これはお母さん限定。

 根掘り葉掘り、どっちかというと興味本位満載で聞いてくるに決まってる。

 しかも、毎回出かけるたびに、身体は大切にしなさいよ、などと言われるのならば、そんなことわかってる、聞きたくないと言ってしまいそうだ。

 そんなことはわたしにも分かる。そういう関係になったら、女の子は自分のことは自分で守らないと。男の子は興味は強いけれども、本当のところ、その後のリスクとかは考えてくれないさそうだし。

 って想像して、一息つく。

 はっ、何考えてるのよ……。


「どうした?」

 そう言えばそうだった。母親のことが気になって完全に忘れてた。

 今日は久しぶりの結衣くんと一緒に登校。

 二人で歩く駅までの道のり。朝はみんな忙しそうで、見落としてしまいそうだけれど、今の自分達の周りだけはゆったりと時間が流れてるように感じた。

 いつもの当たり前な道のりが輝いて見えるような気がする。たくさんの街並み、信号機、走り去る車の群れ、そして人々の群れ……。

 それら全てが輝いて見えた。


「結衣くん?」

「どした」

「明日からは、駅で待ち合わせしようか」

「俺はどっちでもいいけど、お隣だし直接迎えに行った方が早いかなって」

 結衣の横顔を見て思う。全然、真意は伝わってはいなかったようだ。効率を考えればそちらの方がいいかもしれない。だけれど……。

「まあ、そっちがいいなら。それでいいけど」

「うん、ごめんね」


 やがて、駅が近づいてくる。サラリーマン、わたしたちのような学生、OLなどなど。

 東京のような都会ではないけれども、そんなに東京から遠くもないこの街は通勤時ともなると割と混み合っている。女性専用車両であれば、少しは空いているかもしれないが、それでは結衣くんが乗れない。


 混雑に巻き込まれながら、列車に乗り込んだ。

 全く動きが取れないほどでもないけれども、動ける空間はない。

「こっちに、おいで」

 腕に結衣くんの手が触れ、電車の端に連れていかれる。

 壁ドンをされるような体制で、混雑から引き剥がされた。

 昨日、思い描いた光景。心拍数が上がり、ドキドキする。暑い、列車の中のせいもあるけれども、これは少し違う。

 そう言えば、手を引っ張られた瞬間、身体に電流が流れたような気がした。


 電車でこれから30分同じ体制のまま、わたし耐えられるだろうか。もちろん嫌などでは当然ないのだけれども。

 ドキドキが止まらない。車内は空気が少し澱んでるので、深呼吸するのもままならない。

 このまま、倒れたらわたし……。

 と思いながら、本題を思い出す。

 ダメダメ……。

 忘れるところだった。今日は本題を聞かないとならなかった。妹から話を聞いて、手を握ったのか、それともそんなこと知らなくて、偶然が重なったのか。

 できれば偶然の方がいい。もしそうでないのであれば、一度茜ちゃんとしっかり話した方がいい。

 そして、やはりお付き合いは先延ばしにした方がいいのかもしれない。

 付き合いたいのは勿論だ。

 けれど、自分の本心を知られたままの告白なんて嫌なのだ。もっと、ドキドキする状態で、告白して欲しい。

 結末を知って、それであえて告白を受けるというのは自分の女としてのプライドに関わるのだ。

 つまらないと思ってくれていい。でも、それでも納得できない。


 列車内で人に聞かれるわけにいかなかったので、峠坂を登り始めてから言った。

「昨日はごめんね」

「なんのこと?」

「手を握られた時、嫌なこと言っちゃって……」

「あぁ、俺こそ突然、手を握ってごめんな」

「びっくりしたよ、なんで急にだったの?」

「後ろの男いただろ。あいつが君をつき落とそうとしてたんだ」

「えっ!!」

「だから、君を守るために、手を握った」

「結果的には、何もなくてよかったんだけれども」

 そう言えば、昨日舞い上がってしまい、サングラスの男のことは完全に忘れてしまっていた。

 結衣の話は彼の目を見れば分かる。嘘なんかついてはいない。自分は話しかけられたら、とか痴漢などと簡単に思っていたけれども、その可能性だって充分にあった。挙動が不審だったのだ。

「怖い……」

「大丈夫、俺が守るから」


 帰宅途中のいつもの帰り道、クラブ活動で遅くなった琴乃は、峠坂を歩いていた。

 時間を見れば18時40分。決して遅い時間ではないけれども、太陽が落ちて、暗闇が広がる少し前の時間だ。

 水平線上に太陽が沈んで夕焼けが海に映り込み淡いオレンジの色彩を描いていた。

 昨日の今日だ。できれば一緒に帰りたかったし、結衣も何度か待っていようかと言ってはくれたのだが、流石に今日は遅くなるからと、帰ってもらっていた。

 まだ、太陽は完全には沈んではいないが、もう10分もすれば闇があたりを覆い尽くす。

 ギリギリの時間だった。

「早く帰らないと、それにしても今日はお母さんに問い詰められるかなあ」

 帰ろうと右回りの峠の坂道を降りて行くと一台の車が琴乃の目の前で止まる。

 駅に行く道を塞ぐように。

 車を避けようと思った瞬間だった。

 運転席に乗っている男の姿が見えた。

 サングラスに小太り、手に傷があった。

「えっ」

 

 逃げないと、殺される。

 反射的に思った。今朝の結衣の台詞、そしてこの車、どう考えても偶然なんかじゃなかった。

 わたしは車を避けて逃げようとした。

 2発の銃声の音。

「熱い……」

身体に衝撃と同時に熱を感じた。

 瞬間に襲ってくる痛み。

 痛い、こんなのって嫌……、結衣くん助けて。

「いやあああああ……」


 琴乃の叫び声があたりに響き渡った。

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