20話
陽が落ち始めても外からは囃し立てる歓声や楽しそうな笑い声が聞こえてくる。まだしばらくこの時間は続く。どんな種族も人々も、この間だけは喜びにあふれている。
「あら、キュリアじゃない!」
他の男性参加者と歓談していたジニナが気づいた。
「あらキュリアも結局祭りに来たの? あたしはお付き合いがあるから、そのエルフの坊やと二人でごゆっくり!」
軽く手を振ってすぐにまた男性との会話に戻る。二人が一緒にいても気にしないでくれるのはありがたい。
「そういえば、そろそろあれが始まる時間かな。キュリアこっち来て!」
スガルに連れられた先はヤーニウクの噴水広場だった。町でスガルと初めて話したのもこの場所だった。
「ほら、ここならきっとよく見えるよ!」
彼が空を指さすと小さな光が空へ昇り、大きく炸裂した。まるで巨大な花が咲いたように大きな火花が浮かび上がっている。
「市長が用意してくれた花火だよ! ここまで大きくてきれいな花火は、僕も見たことがないよ!」
「凄い……」
キュリアにとって花火は初めて見るものだが、空の星々よりも大きく、色鮮やかに輝く花火はとても圧倒されるほど美しいものだった。
「ね、参加してよかったでしょ?」
周りからも歓声が上がる。みんなが顔を見上げて花火を鑑賞している。人間族、エルフ族、オーク族、獣人族……みんな喜びに溢れ笑顔になっている。
「僕はこの花火を君と一緒にまた見たいな」
「ええ、私も……」
「ねえ、キュリア。僕の妻になってくれないか」
「え……ええ!?」
突然の告白にキュリアは目を丸くして驚いた。スガルの表情と口ぶりから、それは冗談なんかではなく真剣に言っていることがうかがえた。
「どうして、私……?」
「盗賊たちと戦った時から一目ぼれしちゃったんだよね。どうかな、僕じゃ駄目……?」
「駄目じゃない! 駄目なんかじゃないけど……!」
むしろ、自分の方が釣り合わないとキュリアは思っていた。それに古今東西、そんな話は聞いたことがない。種族が違うのに愛し合う事なんてできるのだろうか……。
「結婚なんて突然言われても私どうしたら……」
「じゃあ恋人になって! それで上手くいったら、考えて欲しい……」
恋人に? エルフ族とオーク族が? それすらも未知数だ。でも、本当に不可能なのだろうか? 最初から無理だと決めつけたくはない。
「そこまで言ってくれるなら、私で良ければ……お願いします」
「本当? やったぁ!」
スガルはキュリアに飛びつくように抱きしめる。初めて告白された。それも自分とは異なる種族の相手に。
異なる種族同士が紡ぐ愛は本物であろうか。前例のない二人の恋を空に打ちあがる花火だけが祝福していた。