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会談-17

 まず、我々の起こり(・・・)から話すべきでしょうな。


 私が族長を務める「龍族」は、遥かな昔からこの地で暮らしていました。

 人間など、我々の祖先を『神』と崇め奉るほどに謙虚に暮らしていたとされます。


 やがて時が過ぎ、信仰を受け続けた祖先たちの一部が、人間たちに興味を持ったそうです。

 悠久と言っても過言ではない時間を生きる間の、ほんの暇つぶし…そう思って、言葉を介して一部の人間たちに接触を図るようになりました。


 人間たちは、それを『神託』と言い、その言葉に従い生活するようになりました。

 人間たちが龍族の知識で繁栄を享受し、龍族がその生活を眺めて暮らす。

 それが暫く続いたある日の事…。


 我々の祖先のもとに、一人の少女が『供物』として届けられたそうです。

 少女は人間の巫女であり「神からの『神託』を受け、この場所へと送られた」と、そう言っておったそうです。

 祖先たちは訝しみました。誰もそのような事を言った覚えがないからです。


 しかし、少女は「神託」だと言って退きませんでした。

 困った祖先たちでしたが、人間の暮らしを直接聞きたいと思い、また少女が頑なだったことから暫しの逗留を認めました。


 これが間違いだったと気づいたのは、随分後になってからです。


 少女は『供物』などではなく、人間の中に僅かながらいた過激な思想を持つ一派の『暗殺者』だったのです。


 少女は、数年単位で我々と寝食を共にして、我々の油断を誘ったのです。

 そして完全に油断していた我々の祖先の一人を騙し、殺しました。

 その首を持って、人里へと戻り……少女は『勇者』だと祭り上げられました。


 我々の祖先たちは、仲間の一人を失ったことを酷く哀しみました。

 それと同時に、激しい憎しみの炎が身を包み、遂に身を焦がしてしまった……。

 祖先たちは、怒りに身を任せて、少女の居たと思われる場所を次々に壊していきました。


 時に、土地の魔力を暴走させ、村を一瞬で森に吞み込ませ…

 時に、絶大なる魔法を使い、街を灰燼に帰し…

 

 そうしているうちに、激しい魔力に曝された土地の人間や動物たちが、過大な魔力により変化してしまったのです。

 人間や動物たちは、その身に有り余る魔力を蓄え、外見が変化したものや、外見は変わらずとも魔法が使えるようになったものなど…多種多様な変化を遂げたそうです。

 ただの人間たち…いや、勇者を筆頭とする組織は、そういった存在を忌み嫌い迫害するようになりました。


 そして、変化した人間を『魔族』、変化した動物を『魔物』と呼び、全ての人間が忌み嫌うべき対象として印象を操作してしまったのです。


 生まれによって言われなき迫害を受けた彼らは、祖先たちに庇護を求めたそうです。

 「我々を助けていただけるなら、未来永劫の忠誠を誓う」と……


 その言葉を聞いた当初、祖先たちは傍観するだけだったそうです。

 それもそのはず、魔族という存在になる以前は、ただの人間や動物だったものたちです。

 再び、龍族に戦いの矛を向けないとも限りません。


 関係が変わったきっかけは、先に話した勇者の少女の件からでした。

 彼らは、迫害を受け続けながらも勇者の情報を集め、居場所を探し出して我々に知らせてきたのです。


 その場所は、人間界の奥地……現在では連邦の聖首都として定められている場所です。

 当時は、山に穴を穿ち勇者を信奉する者たちの総本山となっていた場所でした。

 

 祖先たちは総力を集めて、その山に攻撃を仕掛けました。

 結果として、総本山は一刻も持たずに壊滅しました……勇者一人を残して。


 祖先たちは、真っ先に勇者を捕らえて、その場にいた人間たちを勇者の目の前で滅ぼしたそうです。

 捻りつぶし、焼き殺し、噛み殺し…ありとあらゆる殺戮を行ったと……

 殺された龍族の仲間の敵討ちのつもりだったのでしょう……後になって、「ひどいことをした」と一部の者は後悔していたそうです。


そして、最後に残ったのは勇者として祭り上げられていた少女だけです。

 彼女は、祖先たちに捕らえられたまま、信者たちが無惨に殺されていく姿を見せつけられ、狂乱していた。


  「貴様らは『神』などではない!!いずれ報いを受けるぞ……この化け物が!」


 少女が最期に祖先たちに向かって放った一言です……。

 その言葉を最後に、少女は葬られました……一片の塵芥も残らないように。


 それから、勇者が死んだと世界に伝わるまでに少し時間が掛かりました。

 意図的に伝えようとしない者も一部にはいたそうですが……魔族が世界中を駆け回り、触れ回ったそうです。


 「神殺しを神が罰した」と……


 そして、全ての出来事が終わり人間たちの居る場所から引き払おうとした時の事だそうです。

 とある一団が祖先たちの前に現れました。

 その一団は、龍族の多大なる魔力によって性質が変化した者たち…

 そうです…魔族の一団だったそうです。

 

 彼らは、既に魔族となったものをまとめ上げて一つの民族として独立しようとしていました。

 独立を許さなかった勇者の勢力は、既に祖先たちが滅ぼしていたので、支障はないはずでした。

 しかし、魔族たちは祖先たちに変わらず庇護を求めました。

 恐らく、自分たちがほかの人間と違う種類の人間になってしまったと理解していたのでしょう。


 長い問答の末、祖先たちは折れました。

 そして、現在の魔族領……当時は荒れ果てた土地でした……に彼らを誘ったのです。

 一部の魔族や魔物は人間領に残りましたが、大半の魔族が新天地へと渡って繁栄を遂げることが出来ました。


 それが祖先たちの最期の仕事だったそうです。

 いくら長寿を誇ると言っても、所詮は我々も生き物の端くれ……

 全ての生物がそうであるように、我々も死の運命からは逃れられません。


 それでも、一緒にわたった魔族たちの第一世代がすべて代替わりするまで見届けたそうです。

 全てのものたちが第二世代となり、魔族領はさらに発展を遂げました。


 森は切りひらかれ、土地を開墾し、川を引き込み……

 人間が地道に長い年月をかけてする事業を、数か月という速さで成し遂げていく様は目を見張ったそうです。


 やがて、勇者たちとの一件が忘れられようとしていたある時……。


 人間たちが再び魔族の前に姿を現したのです。

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