インVSクシシュトフ(魔法戦闘)
◆ 「11-8 インの戦い (3)」より
今度は決闘ではないためか、マルセリさんは戦いの場に赴かなかった。
「ダイチ殿。あの方は……大魔導士様なのですか? あなた様も」
その間にこのような問いかけが俺にされる。マルセリさんの声は半ば上ずっていた。
謙遜しても世間でいうところの大魔導士の正確な区分けが俺にはよく分からないので、「そんなところだと思います」と返しておいた。この返しによって俺たちは世間知らずであるのが知れただろう。
マルセリさんは驚きと疑りが混じったような複雑な表情でしばらく俺を見ていたが、続く言葉はなかった。
まあ、実力は示したからな。やがて彼の注意は2人の戦いの先行きに向いた。
インとクシシュトフは向かい合った。
「では、さきほどと同じでお主は七歩、私は十歩下がってからしようかの。全力できていいぞ」
「……はい」
全力できていいと言われてもクシシュトフの様子にはそれほど変化はない。ビールスキだったらカチンときていただけに彼の底は分からず、にわかに不気味さを感じた。魔法を織り交ぜると言っていたが。
もっともレベルは41だ。レベルが1しか違わないビールスキがあのような戦いの内容だったので、彼が善戦するビジョンは正直見えてこない。インは魔法のプロフェッショナルを自負しているし、なおさらだ。
互いに下がってしばらくは2人に動きはなかったが、クシシュトフの体が薄い膜で覆われ始めた。
「《交差する盾》の魔道具か」
プロテクション。灰色ということは物理防御の魔法になる。《盾》より上位か?
次いでクシシュトフの足元に緑色の魔法陣が現れた。《風力場》だろうか。
――もっとも今度はインは駆けていた。さきほどと同じように手には魔力装の刃がある。
クシシュトフは素早く腰の2本の曲刀を抜き、交差させた剣でギリギリだったがインの攻撃を防いでみせた。双剣使いか?
「そう何度も補助を許すと思うな」
やはり《風力場》かなにかだったらしい。インの言葉の通り、緑色の膜は発現していない。いわば詠唱の中断に成功したようだ。
「だが、魔法の選択は間違ってはおらんの――」
そうしてインはつばぜり合いからいったん引いたかと思うと、魔力装をパンチンググローブ型に変形させた上で勢いをつけて双剣を再度殴った。
さきほどビールスキがくらった攻撃だ。
だが、盛大な衝撃音の割にはクシシュトフが木に向かって吹っ飛ばされることはなく、彼は地面に両足の跡をつくりながら後退していくだけだった。
またもや迫力のある一幕だったが、クシシュトフは半ば前傾姿勢になっている。事前に見ていたこともあり、受け方も考慮したか。
「《交差する盾》のおかげだの」
「……俺はもっと」
「もっとしのげると思ったか? だが私は奴の時よりも少し力は加えたぞ。もっとも、力はまだ出し切ってはおらんがな」
インが再び駆け始めた。だがクシシュトフも同時に茶色の魔法陣を出していた。魔法陣があるのは前方の地面。
魔法陣から巨大な石の壁が一瞬にして生えてくる。土をあたりに撒き散らしながら現れた分厚い板型の石は綺麗にカットされた長方形で、砂っぽい色合いがある。
しかしインは豆腐でも切るかのように簡単にこの石の壁を切り裂いた。パンチンググローブを元の両刃の剣に戻して。
石の壁が切断箇所からずり落ちていくなか、突如現れたのは赤色の紐――魔力の紐だ。
魔力の紐は元々狙いを定めていたようで、一直線にインの足元に向かい、そして細い足を払った。やるな。
「お、――おお?」
転ばされるはずのインだったが、すぐに態勢を整え、軽い身のこなしで地面に両手をついた。
その瞬間、インのいる地面に現れる茶色の魔法陣。追撃か。
何がくるのか悟ったようで、インは立ち上がることなく跳躍し、空中で逆立ちのような態勢になる。その間魔力装を左手にも出し、地面に向け、クシシュトフがしたように魔力装を交差させた。
インがそんな態勢で警戒した理由はすぐに分かった。
魔法陣からはインに向かい、「巨大な拳」が地面から猛烈な勢いで生えてきたからだ。直撃を受けたため上空に吹き飛ばされるイン。
絵面が間抜けっぽかったので一瞬何が起こったのか理解できなかったが、絵面の通りのことが起こったらしい。インは地面から現れた石の拳によって下から攻撃されたようだ。
いいようにされているので心配になってインのことを目で追ったが、吹き飛ばされたインには特別痛がっている素振りはない。
きちんと防御の態勢を取っていたし、なにより華奢な体には灰色の膜がある。いつの間にか防御魔法を展開したらしい。機敏に動けること自体は既に知っていたが、対人戦もなかなかこなれたものだ。
それにしても……結構な高さになっている。10メートルくらいか。一般人なら死も覚悟する高さだ。
どうやらクシシュトフは土魔法が得意な魔導士のようだが、戦いを仕事にする者がやみくもに相手を上空に放り上げるわけもない。
クシシュトフは右腕を眼前にやりながら、緑色の魔法陣を展開していた。ブレスレットが輝き、そして彼の頭上に現れたのは3本の緑色の矢だ。お。風魔法もいけるのか。
「――ほう」
俺が先日覚えたばかりの《疾風の三撃》だ。彼も使い手らしい。
「ならば私も応えるとしようかの」
対してインも同様の応え方を選択したらしい、インの眼前には黄色い魔法陣が現れ、やがてインの周囲には5つの黄色い矢が現れた。これは……
「あれは……」
黙って観戦していたマルセリさんが反応した。
銀竜として戦った時に使った魔法か? まずくないか?
もっとも魔力の密度は全然ないし、だいたい矢も少なすぎる。さすがに人型モードだからかだいぶ規模は弱めてあるようだが……。
クシシュトフが3つの矢をほとんど同時に発射させるのと同様、インもまた矢を発射させた。
インの矢は正確にクシシュトフの矢を捉え、3本とも衝突し、消滅させるのに成功した。残る2本はクシシュトフに襲いかかった。
クシシュトフは跳躍して1本はなんとか回避に成功し、矢も地面に刺さって消えたようだが、ホップしてきたもう1本は避けきれず、彼に直撃した。
「ぐッ……!」
軽く吹っ飛ばされたクシシュトフだったが、少しよろついたもののすぐに立ち上がった。鎧の腹の部分には焦げ付いたような痕ができた。
インは悠然と着地した。
「なかなかやるのう。――ん」
クシシュトフは早くも次なる一手――赤い魔法陣を出し、バスケットボールほどの炎の球を出現させた。
俺の例はまったく参考にならないだろうが、規模的に《火弾》ではおそらくないだろう。
「ほお。今度は《業火魔弾》か。練度は低いが、多才だの。お主は自分が火属性の適性が低いことは知っておるか?」
「……見抜いたのですか」
「うむ」
練度低いのか。
「あまり適性の高くない魔法を使う場面としては、今の状況は適さないのではないか? 私はいつでもお主に不意打ちをくらわすことができるぞ? 無論、さきほどと同じようにその炎を打ち消すこともできる。――このようにな」
インはクシシュトフと同じように赤い魔法陣を出現させ、一回り大きな炎の球を生み出した。
炎の球の内包するエネルギーはクシシュトフのものより密度が高く、色濃い。おそらく《業火魔弾》なのだろう。
そうしてインの炎の球は突如動き出し、クシシュトフの炎の球にぶつかった。
球は両方とも破裂し、多すぎる飛び火がクシシュトフに襲いかかった。クシシュトフはよろめきながらも後ろに跳躍して引いたあと、《水射》で服に着火した火を消した。
「さきほどの《石壁》から《疾風の三撃》まで続いた一連の流れは見事であった。おそらく幾多の敵を屠ってきた魔法戦術なのであろうの。……さて。他にこれ以上の戦術はあるか? あるのなら受けて立つぞ」
インの言葉は強者の言葉に他ならなかったが、語調はごく平然としたものだった。
この態度がクシシュトフの闘志を削いだのか、それとも本当に他に戦術を持たなかったのかは分からない。クシシュトフは「俺の負けです」と、息をついた。
「私も楽しかったぞ」
インの言葉は今度は賞賛の言葉のままに語調も明るく、相手を褒めたたえるものになっていた。
そうしてクシシュトフの元へ行くイン。ジョーラがいい戦いだったよ、と2人を激励した。
>称号「妹は戦士であり、魔導士でもあります」を獲得しました。
はい。そうで~す。
「ダイチ殿。さきほどイン殿が使った魔法、あれは《天星弾》ではないですか?」
「スターバレット?」
なんとかアローじゃないのか?
「使い手が非常に少なく、希少価値の高い神聖魔法の1つです。魔法の内容は他の属性の球体放出系攻撃魔法と似ているのですが、使用者の少ない神聖魔法であることと、神聖魔法では攻撃魔法がほとんど開発されず、また使われもしないので、結果として世に知られない魔法になっているのです」
ふうん。使われなければ希少価値も高くなるだろうな。
「――お主は色々と使い分けるようだが、他に何を使うのだ?」
「他は……《水射:熱湯撃》や《強風:突風》くらいです」
「ふむ。あのような巧みな戦術を見せたお主が使えば有効活用できそうだの」
という戻ってくる時の2人の会話。インは口元を緩めている。ご機嫌らしい。
「さて。お主の主人に頼まれたからの。私は助言をしてお主の才を伸ばしてやらんといけないわけだが」
インは会話のままに、老齢の師のような口ぶりで子爵のことを見やった。後ろに手をまわしている辺り、いよいよ老師の印象は強まる。
インと出会ったばかりの彼らが今どう思っているかは知らないが――おそらく今まで通り俺ほどインの早熟な美貌を認識していることはないのだろうけど――美少女として完璧に整った顔立ちのすべては、識者然とした師のような話し振り、人生と人の世を達観した老人めいた態度、かと思えば、他者を嘲笑するのも厭わない傲然な煽りを見せもする一面と絶妙な説得力を生み出すことは想像に難くない。
事実、子爵は改まってクシシュトフの四肢を眺め始めたインを教えを待つ生徒よろしく熱心な表情で見つめるばかりであり、クシシュトフ、ラファウ、マルセリさん、グーダジラドの他の4名にしても、インが喋り出すのをじっと待っているばかりだ。
インの後ろで結んでいる髪が目に入る。ラファウよりも細い華奢な首で、まったく年相応の首だが、この首の持ち主はさきほど大男の一撃を片手で防いだものだった。
「さきほども言ったが、お主は火属性の適性は低い。土属性の適性が高いことは知っておるな? 次いで高いのは風だ」
クシシュトフは真摯に「はい」と頷く。
やはり土属性の魔導士らしい。ロウテック隊長のことが浮かぶ。
「また、お主は魔力操作と体内魔力感知にも長けておる。他属性への魔力変換も滞りがなかった。ゆえにあのような複合的な魔法戦術を可能としているのは納得の事実であった。……魔法を使うことにおいて、本来よいとされる属性の限界数は知っておるか?」
クシシュトフは少し言いづらそうに、2つです、と答えた。2つなのか。
「まあ、お主のように努力して3属性使う者もいなくはないし、稀に4属性を極めるような逸材もいるようだが、4属性を極める者は稀な例として、一般的には3属性の行使はあまり好ましくはないとされる。なぜなら、本来その者が得意とする属性や第2属性の成長を妨げるからだ。応用術式に3属性の混合魔法がないように、相互の調和が取れんくなるのも理由だ」
2属性の応用術式はあるのか。
「3属性の行使は下手をすれば寿命を縮めることになるぞ。歳を経ていくうちに減る魔力量も消耗が激しくなる」
インは声音をいくらか逼迫したものにし、たしなめるような口ぶりになった。クシシュトフは黙って聞いていたが、視線を落とした。
寿命もか……。
インは子爵をちらりと見て、「ま、お主なりの忠義だったのかもしれんがの。だが、2属性を極めるだけでもお主は今より強くなることはできような」と、口調を緩めた。
「本当ですか?」
「うむ。《業火魔弾》よりは《岩槍:雨撃》や《巨人の投擲》の使用と錬磨をするのがよかろう」
「《巨人の投擲》ですか……?」
どっかで聞いたな。……どこだったか。
それは上級魔法か、と子爵。
「上級魔法だの。土属性のな。もっとも、習熟に際してはクシシュトフはそれほど難儀ではないはずだ。……お主は土属性の適性が高いし、魔力操作の才もあるからの」
「魔法の巻物を探させよう。《岩槍:雨撃》も上級か?」
「いや、中級だの。土属性の手頃な攻撃魔法だ」
子爵はマジでいい人だ。……いや、というか、なにか目的があるのか?
「さすがに《巨人の投擲》の巻物は見つけるのは難航するだろうが、金竜の地であるガシエントで探すのがよいかもしれんの。奴らは金に目がないし、金を積めば魔導士に巻物の作成を頼むこともできよう」
「ガシエントか。了解した」
子爵様と、クシシュトフが戸惑いを隠さずに呼んだが、子爵は「気にするな。ビェガンスキ家の栄光にはお前が必要だ」と意味ありげな言葉を並べた。
栄光。クシシュトフは胸に手を当ててありがとうございますと語気も強く礼を言った。
インは子爵たちのやり取りをさほど気にせずに話を続けた。
「それと《炎師の鞭》も使うのなら《魔力鞭》に変えた方がよかろうの」
「《魔力鞭》ですか」
「知っておるか? 使役魔法の一種だが」
お、使役魔法か。
「知っています。使役魔法は多少学びました。戦いで活用できるほどではありませんが」
「そうか」
インは手を差し出し、細長く、垂れもしている、少し黄みがかった半透明の魔力――鞭らしきものを出現させた。
そうして持ち手を握り、さきほどまで戦っていた場に向けて軽く鞭打った。地面に軽く鞭跡をつけたあと、鞭はしなりながら戻ってくる。本来の鞭打ちなら周囲を気にするところだが、インの鞭は蛇かなにかが意志を持って戻ってくるように、元の場所に戻ってきた。インの方も周囲を気にした素振りはない。
「さきほど私の足を払ったような使い方もできよう。使役魔法であれば属性同士の相互の干渉もないし、寿命が縮む心配もない」
クシシュトフは納得とばかりに数回頷いた。
マルセリさんが使役魔法も使えるのですね、と驚いた表情を見せた。インは、無論だ、とそれほど気にせず答える。
マルセリさんはインの存在の不可解さには気付くかもしれない。さすがに銀竜にたどり着くことはないだろうけど。
「《魔力鞭》なら自分で鍛錬できそうです」
「使役魔法はある意味、無限の可能性を持った魔法だ。お主は賢く、想像力を働かせる頭もある。実戦を知らぬ口先だけの王宮魔導士ではない。使役魔法も色々と試してみるのもよいだろうの」
「分かりました。……助言ありがとうございます」
確かに戦術を考えられるなら、想像力は豊かだと言えるだろう。
「私からも礼を言う。貴公の助言は参考にさせてもらう」
「うむ」
「……ところでイン殿。ラドスワフの方はどうだろうか」
インが、どうとはなんだ、と小首を傾げた。
ビールスキにも助言が欲しいのか? ビールスキは相変わらず木の下で伸びている。誰か介抱してやればいいだろうにと少し不憫に思った。
「奴は魔法はほとんど使えないのだが、戦闘時には魔法道具の魔法で補っている」
「良いのではないか? 魔法の才は天性の素養だ。なければほとんど伸びんし、無理に伸ばそうとしても時間の無駄だ」
言い切ったな。
「それは私も聞く。戦士の才に関してはどうだ?」
「戦士の才? 私は魔導士であって、戦士ではない」
「しかしあの身のこなしは、」
「戦士に関することは戦士に聞くのがよかろ。ジョー…………ジョルデ、なにか助言してやれ」
かろうじてジョーラと言いそうになるのをこらえてくれたようだが、ジョーラもジョーラで、「あたしはインと違って先生の性分でもないんだがね」と肩をすくめるまで一瞬の間があった。
それにしても子爵はインの戦いっぷりを見て、魔法を使えないビールスキへの助言も期待していたらしい。分かる話でもあるが、インが体力作りや武器の扱い方を助言する姿はどうにも違和感がある。それとは別に、なら「なぜああして身軽に動けるのか」という疑問は解けないのだが……。
ジョーラは視線を落とし、考える素振りを見せながら話し始めた。
「……インはさっき魔導士は2つの属性に絞るのがいいと言ったが、あたしからすれば戦士は色々と経験するのがいいと思うよ。まあ、主に武器だね。奴は剣と盾を扱うようだが、戦士の戦い方はもちろんこれだけじゃない。槍や斧、弓に騎馬、寝技に格闘、鎌だったりフレイルだったり色々とある。奴は体格もいいし重さはあまり関係ないだろう」
体格も腕の太さもベイアーやホイツフェラー氏級だしな。
「あたしらはこの中から武器を選んで戦うわけだが、武器がない時に戦うこともあるし、苦手な武器も使ってみて、学ぶことで得るものはある。実際にその戦い方をする相手と戦う時の対処がしやすくなるからね」
ふむ。
「では、ラドスワフには色んな武器を使わせた方がいいということか?」
「使わせるというか、軽く訓練したり、その道の達人と手合わせをすればいいと思うよ。なにかそういう訓練を日常的にしてないのかい?」
子爵は「私はラドスワフに訓練の指示はしていない。むしろ奴は騎士団員の訓練をする側だ」と答えた。
子爵の騎士団の訓練教官か。子爵の配下で戦力になるならそうなるか。
「奴は剣と盾以外には何が使えるんだい?」
「私が知る限りでは剣と盾と、あと喧嘩くらいだが……」
喧嘩ねぇ。言い淀む子爵に、「槍を少し使ったことがあると言っていました」とクシシュトフ。
「槍か。貴族に仕えてるなら馬上槍試合はできそうなものだが」
「できますね。ただ、合わなかったそうで最低限の訓練しかしていないかと」
「そうか。でも弓はあまり得意じゃなさそうだね」
「弓は俺の方ができます」
間髪入れずに答えたクシシュトフに、そうだろうねぇ、とジョーラは頷いた。
俺もそう思う。弓はがさつな奴ほどできないだろう。意外とがさつではないかもしれないが、見る限りそれほど繊細な性質ではないように思う。
「あとは……瞑想とかじゃないか? 奴のような大柄の男は体術は一度は習わせるのをすすめるよ。戦いの場で気持ちが研ぎ澄まされるし、体捌きや間合いの管理も劇的に変わる」
「体術か……。どこで習うんだ? 道場か?」
「道場だろうね。知り合いに達人がいるなら話は早いんだが」
いないな、と子爵は首を振り、体術の道場がどこにあるか知ってるか、と続けてクシシュトフに訊ねた。
「ラジクティンとリャハーにあるのは知ってます」
「ラジクティンは行きづらいな。リャハーにまともな道場があるようには思えないが」
「私も詳しくは知りませんが……あの村は賊に襲われても追い返しているという話を何度か聞いたことがあります。なんでも道場の主は格闘と投擲の達人で、普段は彼が矢面に立ち、賊たちを追い返しているのだと」
格闘家……とは言葉の意味が少し違うんだろうけど。賊相手なら殺しもするだろうし。
「へえぇ! なかなか習いがいがありそうじゃないか。道場を開く奴は名声に興味がない奴らも多いからね。住んでる場所の規模はあまり気にしない方がいいよ。滝行をする獣人みたいなものだからね」
獣人、滝に打たれるのか。
「……了解した。近日、リァハーに訪れてみることにする」
「あんたは貴族にしてはなかなか理解あるね。良い主になるよ」
子爵は、良い主になるためにリァハーに行くわけではない、と言った。小声であり、この言葉を言う子爵には深刻味があった。
「クシシュトフ、ラファウ。ラドスワフの奴を起こしてやってこい」
子爵に言われ、2人が気絶している彼の元に向かう。ジョーラが追及しなかったこともあり、子爵の思惑が吐露されることはなかった。
良い主になるために貴族をしているわけではないだろうが、俺も子爵になにか暗い目的があるのは察してみた。復讐とかな。




