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セティシアの風景


◆「10-28 武力の集う街 (2) - 敗戦と奪還の後」より



「グライドウェル傭兵団の馬車か。増援か?」

「既に何人かきてなかったか?」

「覚えてない。けど獣人の傭兵は見てないぞ」

「そりゃな。レオグルかパルドロスかは知らんが、あんな強そうな奴が増援でいたらしっかり覚えてるだろう。猫が馬を乗りこなして戦力にならないわけがない」

「まあな――」


 遠ざかり、鎧の上に黄色いシャツ――麦穂のサークルにランス槍を持った兵士を配置した絵がある。マイアン公爵の紋章だ――を着て、槍を手にした門番兵の2人組の会話が聞こえなくなる。

 猫が馬を乗りこなしてのくだりは面白いが、実際強いしな、シェフェーさん。レオグルはライオンの獣人らしいけど。シェフェーさんはライオンというよりヤマネコとか豹とかあっちの種類に見える。


 彼らの上にはマイアン公爵の紋章の旗が下がった石造の立派な物見やぐらがあり、同じく鎧姿の兵士2人がボウガンを構えている。

 微動だにしないので敵でも来てるのかと一瞬勘繰ったが、彼らの足元にイスのようなものが見えた。通常モードらしい。


 ずっとあの態勢を維持するのもきついだろう。情勢が情勢なので仕方ないと思うが、見張りも大変なものだ。


 視線を下に降ろす。今くぐった門には街を覆っていると思しき分厚い石の壁が左右に広がってあった。灯り用の台座が突き出ている以外ではレンガ石がモルタルで隙間なく塗り固められ、重厚の一言。ただ、高さはケプラの方がある。

 門外に木材をバッテンに配置した、名前は知らないが対馬の仕掛けが大量にあるのが見えた。魔法のある世界なのでどこまで通じるのかわからないが、敵襲時は門の前に配置するのだろう。


 門の内側でたむろっている別の麦穂の兵士たちが俺たちを見ているのに気付く。

 会話は馬車の音に遮られてとくに聞こえない。囁き合いはしている風だった。


 会話が聞こえないのは《聞き耳》を切ってるためだが、ひとまずオフのままにしておく。

 インチキはしないで新しい街を自然体で体感しよう。だいたいいまさらだが、盗聴癖はよろしくない。気分的にマップもとりあえず開かないでおいた。


 馬車が通るのを待っていたのだろう、2人の通行人が道を横切った。


 1人は青の服の袖にいくつも切れ目を入れ、帽子から縮れた頭髪が跳ねているいかにも裕福そうな貴族っぽい人で、手を後ろにまわして悠々と歩いている。一方の従僕と思しき青年は膨らんだリュックが重いのか下を向いていて、足取りは重たい。

 しばらくして前を歩いていた主人が立ち止まって従僕を待ち、振り返っては「早く歩かんか!」と叱り飛ばしたが、従僕はわずかに顔を上げただけで歩みのスピードは変わらない。従僕が辿り着くと主人は再び歩き出した。


 こうした光景、モラハラも普通に介在している主従関係の図式はケプラでもよく見たものだ。

 またありふれてもいたので、いくらかの不愉快な感情はすぐに薄れていき、地面の石畳に興味は向かう。


 門近くの石畳は砂を被っているが、しばらく進むか轍を外れると埋め込まれた石が顔を出し、家の敷地までしっかり舗装されているらしいのがうかがえた。

 メイホーやフィッタ、ヘッセーの道々は石畳ではない。石畳をつくるのは一定規模の街の証拠だろう。街の規模的にはセティシアはケプラと同等かそれ以上だと聞いている。


 街並みが少しずつ明らかになっていく。


 朱色の屋根。木材の露出した乳白色の壁。ブラウンとアイボリーの色の組み合わせ含め、女性受けもよさそうないくらか可愛げのある外観。憩い所で見かけたハーフティンバーの様式だ。

 続く家も同じつくりで、窓の場所や敷地面積の違いはあれど、3階建て規模の家が何棟も続く。ある家の壁には鉢植えと花が飾ってあり、また別の家では樽を鎖でぶら下げた看板がさがっている。


 看板の家は料理店か酒場なのか、木造のテラス席で兵士がスプーンをすくっていた。

 インを始めとしてもう見慣れたものでとくに眉をしかめることもないが、スプーンを上からワシ掴みして口に入れていく様は品性とは程遠いものがあり、彼に対して子供の食事風景を眺めているような穏やかな心境をいくらか抱く。


 ハーフティンバーばかりで、外壁が石のままの家や木造の家がなかなか見えてこないに気付く。


 ケプラでは門の付近、街の外周になると家が安っぽくなり、あばら家もあったものだが、セティシアはとくにそうではないのか、それとも別の場所が貧民街になっているのか、ハーフティンバーで統一されている。

 もっとも景観に統一感はあり、ある種の安心感はある。次いで、ケプラには日本のように街並みの一体感があまりなかったことに改めて気付かされる。セティシアの街並みはその辺ヨーロピアンらしい。


「――ごろつきどもはどこに雲隠れしたんだろうな。アマリアに怖気づいたのか?」

「奴らの生き様は知りたくもない」

「はぁ……。腑抜けどもめ。売女のケツを追いかける奴らのケツを追いまわして張り倒すのが日々の楽しみだったんだが」

「短い楽しみだったな」

「ゴミでも拾うか? アマリアの都市ではゴミ拾いで生計を立ててる奴がいるらしいぞ。都市の評価も『清潔であること』は重要らしいし、進軍が止まるかもしれない」

「もしそうなったら栄誉賞ものだな――」


 通行人でもいたのか、馬車の速度が落ち、傍を通る兵士3人からそんな会話。街中に賊はあまりいないようだ。


 アマリアは街の清潔さを気にしているらしいが……聞く限り、セティシアの評判は悪かった。街を守る兵士の素行が悪ければ、ごろつきが減らないわけもない。

 ただ、そんな兵士たち――セティシア兵団は今は壊滅し、別の兵士たちで一新されている。憩い所でも話されていたが、以前と同じ過ちを犯すわけもないだろう。ごろつきたちもねぐらの替え時ではありそうだ。


 それにしても街の景観の雰囲気はいいのだが、……変わった物音がほとんどない。人の気配も静かなものだ。

 また、人がいても兵士率が異様に高い。もしくは傭兵風の人たちだ。“鎧ズレ”のカシャカシャ音ばかりが聞こえる。


 今の時間は昼前くらいなので、ケプラだったら通行人で溢れている時間帯だ。そこらじゅうで民間人の話し声や呼子の声、楽団の音色などをはじめとした雑多な物音が聞こえていたものだったし、場所によっては労働者は重たそうに樽やら荷車やらを運び、子供はどこでも見かけた。

 一方のセティシアには景観に反して賑やかさはまるでなく、静かすぎ、物音は鎧の音ばかり。民間人もほとんどおらず、件の噂に関係する女性たち、娼婦らしき人たちも見かけない。というか、女性すらもいないか?


 まだ街に入ったばかりなのでなんとも言えないし、家に引っ込んでいるだけなんだろうが、警戒時になると街はこうも変わるのかという考えがもたげる。

 ケプラでも確かに俺たちが捜索されていた時には兵士は多かったが、別に通行人を見かけないこともなかった……。


「……警戒時の街の雰囲気ってこんなものかな」


 自分で驚くくらいつい素直にそうぼやいてしまうと、「セティシアは今戦争のまっただなかだからね」とジョーラ。戦争中か。


「だが各都市や貴族から兵士たちが送り込まれてきているし、あたしら七星・七影もいる。今のセティシアほどの戦力を持った都市もないだろうさ」


 確かに戦力はある。


「隊長や副官クラス以外でもなかなか粒ぞろいの猛者が揃ってるよ。練度にばらつきはあるだろうし、連携は取れないだろうがね。今攻め込まれたとしても前のように大敗を喫することはないだろうさ。鍛えがいもあるよ」


 ジョーラの声音は生き生きとしていて弾んでいた。俺が気にしているのは兵士ばかりで街らしい賑やかな雰囲気がないってことだけど、ジョーラ的には楽しい街のようだ。さすが戦闘狂。


「お主はいつでもどこでも戦いたいらしいの」


 インがため息交じりに嫌味を隠さずにそう言い放った。インも、ジョーラの肯定的な感情には思うところがあるようだ。


「子供の頃からずっと戦ってきたからねぇ。あたしにとって槍を振り回すのは、薬草師が薬草を採るために山や川辺を練り歩き、商人が売り上げ金を数えるのと同じくらい身近なことなのさ」

「まるで戦うために生まれたような言い分だの」


 ジョーラは驕慢な雌豹のように、「そんな高潔なもんじゃないよ」とニヒルに口元を緩めてみせた。自覚があるのか?


「強い奴と戦うのが一番楽しいがね。でも弱い奴と戦ったり訓練するのも嫌いじゃないよ。弱い奴は弱い奴なりに戦い方があるし、信念もある。それこそ針に糸を通すような戦術があったりするもんさ。たまにいるんだよ、強い奴と戦うとあっと驚くような底力を見せてくるのが。その時にはあたし自身も発見があることが多くてね。たぎるよ」


 ジョーラはインの嫌味もそれほど気にせずそう持論を語った。そういう逆境に強い人もいるだろうな。「そういうのが戦うために生まれた奴の言葉だと思うが」とインが核心らしきものを突くと、ジョーラは肩をすくめただけだった。

 ジョーラが言うと戦いがさながらスポーツのように聞こえてくるから困る。「武道」ならそれでもいいんだけどな。


「親がお主に槍を持たせたのか?」


 インの続いての質問に、「まあそうだね。うちはそこまで強い家でもなかったけど」と答える。「ガンメルタ家は代々都市警備をしていたらしいな」と、ある程度ジョーラの家を知っているらしくエリゼオ。

 都市警備か。ジョーラは才能を伸ばした感じか?


「じいさんが割と強い人だったらしいよ。うちの里でも警備隊長をやっていたが、ときどきエルフたちと魔物の討伐に出かけていたそうだしね。女王バシリスクやリコポリスの討伐に関しては奴らの対処に慣れた狩人のような腕前と知識を披露していたそうだよ」

「ほう」


 じいさんか。寿命倍だし、何年前の話なんだろうな。


「……あたしにはそんなじいさんの槍の腕と胆力が受け継がれたそうでね。親もみんなも言ってたが、オルフェを守る将軍になるとは思わなかったらしいけどね」


 ジョーラは後半は視線を落とし、自分の握った拳を眺めながらしんみりと語った。仕官先が他国だもんな。言い合いの1つや2つあっても不思議じゃない。


 ジョーラ様だ、という男性の高揚した気づきの声があり、外を見れば、兵士数名が姿勢を正し、胸に手を当てていた。そのうち気付かれていただろうけど。

 水のにおいがあることに気付く。確かセティシアに街中に川が流れてるって話だ。


「師匠とはいつ出会ったの?」


 少し間が空いたので、ジョーラの槍を変えたであろう人物を持ち出してみる。


「24年前さ。よく覚えてるよ。まだあたしがレベル30台の頃、商人の用心棒をしながらヴァーヴェルにいた頃だね」


 あんたらくらいの頃だよ、とジョーラは姉妹を見て言った。ヴァ―ヴェルは亜人が多いというアマリアの都市だ。

 俺も姉妹に視線をやる。2人ともジョーラの話に聞き入っている様子だ。ジョーラは45歳なので、21歳の頃だ。姉妹は28歳と25歳なので、もう少し若かった頃ということになる。姉妹が1人で各地を放浪していると考えると不安ばかりが先行するが、ジョーラだからな。


「マイヤード様はフリドランの王城にオルフェの大使として呼ばれていたんだが、帰りに古い友人の元を訊ねてきていてね。その時ヴァーヴェルの荒くれもの連中がマイヤード様に切りかかってきたんだが、」


 と、そんなところで「止まれ」という鋭い声があり、馬車が動きを止めた。

 鋭い声につい、ジョーラ様が乗ってるけど? という問いかけを内心で反射的にしてしまう。


「グライドウェルの馬車ってことは増援か?」

「いいや? 単にご立派な方々をお送りしているだけさ。用事でオルフェから出るためにな」


 答えたのはワイアードさんだ。


「ご立派な方?」

「そうさ。見ればわかるぜ」

「……あんたは? 護衛か?」

「その通り。最上位傭兵トップティアーのな。知ってるか? グライドウェルに所属してる傭兵の中で指折りの実力者ってことだ。馬に乗ってる二人もそうだぞ。2人とも七星・七影の副官に勝るとも劣らない逸材だぞ」

「……本当か?」

「信じるも信じないも自由だが。信じなかったら後悔するのはお前さんかもな?」


 ワイアードさんの話し振りは慣れてる感じだ。これまではあまり感じなかったが、俺の知ってるドワーフの中で一番尖ってなくてできた人かもしれない。


 馬車の横を行く鎧の足音があり、やがて麦穂の兵士2人が客車に顔を出してくる。

 そうしてジョーラに視線がいくと1人が目を見開いた。


「これはジョーラ様!」

「喋ってたドワーフの言う通りさ。増援じゃなくて悪いね。通してくれるかい?」

「「はっ!」」


 兵士2人は俺たちのことを一瞥しただけでなにか訊ねることはなく、去っていく。ジョーラ様のご一行だ、お通ししろ、という声があり、馬車は再び走りを再開した。顔パスだな。

 さっきのジョーラに気付いた兵士たちの声は聞こえていてもおかしくはないが、馬車に乗っているとは思わなかったのかもしれない。


 そうして馬車の走行音の音質が変わりだした。客車から風景を見ていれば、橋だった。

 両サイドは張った太くて黒い鎖があり、石造の門に続いていた。鎖の接合部分は鎖の輝く黒い金属のせいもあるが、かなり頑丈そうだ。下には川がある。跳ね橋?


 やがて反対側にも同様の跳ね橋が現れる。

 橋はそれぞれ高さ10メートルくらいあるだろうか。持ち上げるのはかなり大変だろう。積載重量大丈夫かと心配したが、ここは魔法がある世界であるのを思い出す。俺の知る物理法則の常識は簡単に捻じ曲げられる。


 それからさらに俺は件のセティシアでの戦闘に際して、ワリド団長たちが跳ね橋で応戦していたのも思い出した。実際は上げられずに侵入を許したそうだが……。


 自然体で体験するのももういいかと思い、マップウインドウを出した。

 考えていた通り、俺たちが今走っているのはセティシアのノルトン川により二分されている都市にかかった橋だった。<モルツァート橋>とある。モーツァルトみたいだ。


 セティシアの都市面積はおおよそケプラと同じくらいのようだが、あるのは朱色の屋根ばかりだ。そして、……なんか“ごちゃごちゃ”している。

 ケプラが特殊寄りな気もするが、真っすぐだと思えば道はすぐに折れていて、太い道から急に細くなったりしているなど、道には規則性がとくにない。急に途切れている道も多々あるし、分かりやすい通りがないのだった。外周の防壁に面する道はさすがに一本道だが、巨大さも合わせてゲーム中には覚えられる気がしない街マップだ。


 防壁はてっきり街全体を囲っているのかと思いきや、ところどころで門があるようで、先には街道が続いている。

 北にある側――ヴァレス門の先には大きな建物と敷地がぽつんとあり、先では嫌がらせとばかりに盛大にうねったヘアピンカーブが続いている。この建物は<ヴァレス砦>とある。襲撃を受けた砦だ。


「この橋から先はノットハレー教区だね。反対側はヴァルディ教区。先の戦いでちょっと壊されてるところはあるが、ノットハレーはセティシアの中心地区だね」


 ジョーラがそう解説してくる。


「厩舎についたらすぐに出るのかい?」

「いや。……少し街を見てまわりたいかも。壊されてるところも」


 破壊されている部分は、それはそれで見てみたい欲がある。

 インを見れば、別に構わんよ、とコメント。


「ま、別に一刻を争うわけでもないしね。夜に出発するわけじゃないだろ?」


 俺は頷く。そこまで巡るつもりはない。せいぜい1,2時間程度だということを伝えた。


 ノットハレー教区に入ってしばらくすると、静かだった街にはようやく別種の気配があり、人の賑わいが現れてきた。

 荷車でレンガ石やら武器やらを運んでいる労働者を多く見かけたし、そうでない人々にしても工具をぶら下げている職人らしき人だったり、文官っぽい雰囲気の人だったりもした。復興作業の従事者だろう。兵士と傭兵風の人々を多めに見かけつつ。


 タミル君が言うには先の戦いにより兵団が全滅し、一時的とはいえ占領されたことにより、セティシアは市民の流出がひどいという話だった。厩舎を利用する上客もかなり減ってしまったのだという。

 人が少ないのは警戒時というのもあるだろうが、本当に家に誰もいないこともあるのかもしれない。せっかくの大きな都市だが寂しい話だ。


 もっともフィッタの人々がそうだったように、危険な場所からはみんなすぐに去りたがり、家ですらもあっさり捨ててしまえるようなので、仕方がなさそうな話でもある。

 何事も命あってのことだ。確かに。金は稼げる。命は一度失ったら終わりだ。蘇生魔法は一応存在しているようだけども、蘇生がそんなに簡単な話ならみんな逃げたりはしないだろう。信念は時に命の重みを上回るが、創作でネタになるように「稀な美談」だろうし。


 馬車が止まり、獣や草や糞尿のにおいが強まった。厩舎だろう。


 馬車を降りると、二列に並んで台車を引っ張っていく一団が目に留まる。台車の中にはレンガ石ばかりが山盛りに積まれている。

 みんな腕も首も太い屈強な男たちばかりだが、中には一般的な体格の人もいる。足取りは一様にそれなりだ。大変そうだ。行き先は砦や北門だろうか。


「あの人たち、どこ行くのかな」


 ジョーラに訊ねてみると、やはり北門かヴァレス砦だろうとのこと。どちらも破壊されていて、急ぎ修復中とのことだ。


「また<黒の黎明>の党首がきたら破壊されてしまうかもしれないんだけどね。面倒な話だよ」


 そう言いながらジョーラは不快そうに息をついた。ジョーラも建物の1つや2つ破壊できそうだけど。

 黒の黎明の党首か、とエリゼオ。


「知ってるかい? あたしと同程度の槍の使い手なんだが」

「いや……。<黎明の七騎士>の中でもバウナーに次ぐ女の党首とは聞いているがそれ以上のことは……分からないな」


 女槍使いか。ジョーラがライバル視するわけだ。

 それにしてもエリゼオのジョーラに対する控えめな語調が再び気にかかる。タチアナと話してるときは偉そうだったけど、緊張でもしてるのか?


「敵国だからね。あたしもそこまで詳しいわけじゃないよ。バウナーは党首を降りたし、あたしが知る限りでは単騎では奴が七騎士で1番強い奴になるんじゃないかい? 新党首がバウナーと同等でないことを願いたいところだよ」


 1番強い奴か。ジョーラは七星・七影で1番じゃないんだろうか。


 馬を置いてきたシェフェーさんとスタンリーさんがやってきて、出発はすぐにするのか訊ねてきたので、少し街を見たいことを伝えた。

 とくに反対意見が出ることもなく、自分たちは厩舎で待っているので、出発する時には教えてくれとのこと。


「ジョーラ様!!」


 と、ジョーラを呼ぶ男性の声があった。見ると、真ん中に白いラインを入れた濃紺のシャツを着た兵士数名がこちらにやってきていた。麦穂の兵士たちとは別に何人か見かけていた服装だ。どこの兵だろう。

 先頭の人は菱形を3つ配置したマーク――上2つが赤、下が黄色だ。何か意味があるのだろう――の描かれた質の良さそうなケープを羽織っている。冑も上げているが、1人だけバイザー付きだ。彼の目の下には深めのシワがあり、その下には切り傷もあるが、冷酷なまでに作戦指揮のできそうなシャープな眼力の方が印象に残った。


「誰だったかな?」

「セティシア新兵団副団長のラモネーと言います」


 ラモネーさんはさきほどの呼び声とは一転して落ち着いた声音で軽く会釈をした。それから俺たちを一瞥。


「元々はどこの部隊だったんだい?」

「南部警戒地です。隊長をしていました。この度マイアン閣下の命を受け、セティシア兵団の副団長に任命された次第です」

「そうかい」


 南部警戒地から転身……オランドル隊長やロウテック隊長と同じか。いや、オランドル隊長は隊長を辞めたっぽいけど。


「グライドウェル傭兵団の馬車で来たようですが、増援に?」

「いや、そういうわけじゃないんだ」

「と言いますと?」


 なんだか説明話になりそうだったので、俺は「じゃあ、ちょっと街を見てくるよ」とジョーラに言っておく。


「ん、ああ」


 インと姉妹に声をかけて、ジョーラには悪いがそそくさとこの場を逃げるように立ち去ることにする。

 あまり遅くならないよう戻っておくれよ、と困ったように言われたので頷いた。


「なにか見たいもんでもあるのか?」

「いや、とくには。街並みとさっきも言ったけど、破壊された場所が少し見てみたいくらいだよ」

「ふむ。……市場はないのかの」

「市場?」


 ああ、肉ね。食べ歩きも悪くはない。


 マップを再び開く。……ざっと見るが、朱色の屋根の群れから市場の所在をつかむのは難しそうだった。そもそも、“露店の屋根”は衛星マップには表示されない。ケプラの大通りのような、分かりやすい広い道もない。

 ただ、ノットハレー教区の真ん中辺りには少しいびつだが円形に開けた場所がある。広場ならいくらか店もあるだろう。人もいるかもしれない。


「2人はセティシアは詳しいの?」


 とりあえず広場らしき場所に向けて歩き出しながら姉妹に訊くと、


「訪れたことは何度かあるのですが、滞在時間は短かったですし、ケプラほどでは……」


 と、ヘルミラが自信なさげに答えた。ディアラもそんな雰囲気を醸し出していた。じゃあ、適当にぶらつくのでいいか。


「じゃあ、適当にぶらつこうか」


 俺にはマップがあるので、俺が主導する限りは適当ではないのだけども。


 街をのんびり歩いていく。


 赤いレンガのアーチ。植木。仕立屋。植木。……結構道々に植木があって、街の雰囲気の評価が上がる。ただ、人の姿は相変わらず多くなく、がらんとしている。先の戦い以前の街の風景が知りたいものだ。

 それと結構道が手狭らしく、かつ建物が高くて圧迫感もあるので、衛星マップのままに入り組んでいる印象も受ける。住宅地だからか分からないが特徴的な建物も少ないので――時折古くなったり、壁がはげた建物があるくらいだ――道も第一印象のままに覚えにくそうだ。


 でも、敵が攻め込んでくる可能性を考慮するなら整然と生理されているより、複雑にした方がいいのかもしれない、などという考えが浮かんだりしながらしばらく街の風景を観察しながら歩いていると、大きなトンネルめいたアーチが現れた。

 なかなか乙な光景で、トンネルの下には灯りが灯り、トンネルの前では家と家の間で紐がかかり、さきほどのラモネーさんのケープにあった3つの菱形を逆三角形型に配置したマークの旗が下がっている。セティシアのマークってところか。


 姉妹にマークがセティシアのものかと聞くと、そうだと思います、とのこと。ケプラは逆三角形を3つ配置したマークだった。


「今は警戒中だからな。あまりうろうろしないようにな」


 ふとそんな声があったので、声の元を辿ればトンネルの下にいる兵士からだった。

 麦穂の兵士だ。視線は俺たちにある。


「はい。気をつけますね」


 兵士はへの字口をつくった。彼は反対側にいるもう1人のアゴの割れた大柄の兵士と顔を見合わせた後、肩をすくめて、俺から視線を外した。

 への字口の兵士は姉妹に視線を寄せていたが、無視して通り過ぎていく。いつものことだろうが、やれやれだ。


>称号「いつも誰かに心配されます」を獲得しました。


 いまさらだなぁ。


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