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第9話 花嫁強奪

 サーブ公はカライとともに祝杯を上げていた。酒に酔ったサーブ公は上機嫌だった。


「明日は我が結婚式だ。これで公爵の家の財産は我がものだ。」

「おめでとうございます。それはよろしゅうございました。」


カライは頭を下げた。サーブ公は愛想よく酒をふるまった。


「さあ、飲め! ひとえにこれもお前のおかげだ。ひと段落ついたらお前を大臣にするように推挙しよう。俺の言うことだ。王様はお前を大臣にするはずだ。」

「ありがとうございます。あなた様があるが故です。これで我らは怖いものなしですな。」


カライはへつらうように言った。サーブ公はますます機嫌がよくなった。


「そうだ! 王など舌先三寸で何とでも言いくるめられる。」

「しかしジャグが遅いですな。奴を殺ったらすぐ戻ってくるはずですが。」


カライは少し心配があった。肝心なジャグが戻ってきていなかった。もし奴が下手なことをしゃべったら・・・と思うと気が気でなかった。だがサーブ公は楽観的だった。


「なに。奴も与えた金でどこかで祝杯を上げているのだろう。気にするな。」

「はあ、それだといいのですが・・・。」

「心配いたすな。それより独り身の最後の夜だ。徹底的に飲むか? 今日は帰さぬぞ。」


サーブ公はふざけて言った。


「これはお手柔らかに。はっはっは。」


2人は笑いながら酒を酌み交わした。




 ムタヤは真っ暗な部屋で一人座っていた。彼の脳裏にはミイナが浮かんでいた。そこでは彼女は優しく微笑みかけていた。


「ミイナ・・・」


ムタヤはつぶやいた。どうにもしてやりない自分が情けなくなり、涙がこぼれた。だがあの老人の


「あなたが動かねば誰も浮かばれないのです。よいかな? あなたにかかっているのですぞ。」


という言葉が頭に響いてきた。


「そうだ! 今度は私がミイナに答えてやる番だ。」


ムタヤは決心を固めた。



 教会では多くの人たちが集まっていた。そこでは王様の列席において、王族のサーブ公とユーマス大臣の一人娘のミイナの結婚が執り行われようとしていた。

サニー王がサーブ公に言葉をかけた。


「サーブ公よ。本当にめでたい。私もうれしいぞ。」

「これも王様のおかげでございます。私もより一層、励みまする。」


サーブ公は笑顔で答えた。ことは彼の目論見どおりに進んでいた。


(あと少しでミイナは俺の妻になる。そうなれば公爵家の財産は俺のものだ。)


サーブ公は心の中でほくそ笑んでいた。


「花嫁が来られました。」


教会に声が響いた。すると入り口から豪華な花嫁衣裳を着たミイナがユーマス公爵に手を引かれて入ってきた。華やかな結婚式なのにミイナの表情は冴えなかった。いやむしろ生贄に捧げられる者のような悲壮な顔をしていた。だが参列者はそれに気づかず、祝福の言葉をミイナに投げかけていた。

やがてミイナはサーブ公の前に来た。ユーマス公爵がミイナの手をサーブ公に引き渡そうとしていた。その時だった。


「バタン!」


教会の扉が激しく開けられた。参列者が振り返るとそこに一人の男が立っていた。


「ミイナ!迎えに来た! 一緒に行こう!」


それはムタヤだった。その声は教会中に響き渡った。


「ムタヤ様!」


ミイナの手はサーブ公の手をすり抜け、彼女は振り返ってムタヤの元に走った。参列者は驚いて唖然としていた。


「ミイナ!」


ムタヤは走って来たミイナを抱きしめた。そしてムタヤはミイナの目を見て言った。


「もう君を放しはしない!」

「私もです!」


ミイナもムタヤの目を見て言った。

 あまりのことに、その場にいる者は茫然として見ているだけだった。ただサーブ公は怒りのあまり立ち上がって、真っ赤になって怒鳴った。


「おのれ! 王様の面前で花嫁を奪い取るとは!」


サーブ公は怒りでわなわなと震えていた。カライも立ち上がり、周りの兵士に命じた。


「王様の面前を騒がす無礼者! 皆の者、奴をとらえよ! 奴は城下追放のムタヤだ!」


すると護衛の兵士たちが2人に向かって来た。辺りは騒然となった。


「逃げよう!」


ムタヤは言うとミイナはうなずいた。2人は手に手を取って教会を出て行った。


「追え!逃がすな!」


カライはそう叫びながら追いかけて行った。あまりの騒ぎにサニー王は周囲の者に尋ねた。


「何が起こったのじゃ?」

「ムタヤです。城下追放の身でありながら、王様のことを逆恨みして、あろうことかミイナをそそのかしてこの結婚式を潰し、王様の顔に泥を塗ろうとしたのです。」


サーブ公が横からそう答えた。するとサニー王は烈火のごとく怒った。


「なに! それは許しがたい! 我が王家の面目にかけて捕まえてくるのじゃ。」

「はっ。こうなれば私めが直接、奴をとらえて王様の前に引き立ててきます。」


サーブ公は片膝をついて言った。サニー王は大きくうなずいた。


「うむ。無礼者を捕まえよ。頼むぞ。」


サニー王にそう言われて、サーブ公は傍らにあった剣をつかんで教会を出て行った。

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