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第10話 結ばれた2人

 ムタヤとミイナは走って逃げたが、兵士たちに追いつかれて囲まれてしまった。もう逃げられなかった。ムタヤはミイナを後ろにして何とか守ろうとしていた。その2人に兵士がじりじりと近づいてきた。そこにカライとサーブ公が追い付いてきた。そのカライが声をかけた。


「あきらめろ! さあ、ここまでだ!」

「さあ、花嫁を返せ! ミイナ! こっちに来るんだ!」


サーブ公も右手を出して叫んだ。


「嫌です。絶対に嫌! ムタヤ様と一緒にいます。これ以上近づいたら舌をかんで死にます!」


ミイナはそう叫んだ。その言葉に兵士たちは手が出しにくくなった。だがサーブ公とカライは無理にでもミイナを取り戻そうと少しずつ近づいた。


「待ちなさい!」


そこに声が響いた。それは威厳のある声だった。サーブ公とカライは一瞬、動きを止め、その声のする方向を見た。するとあの方術師の老人が出て来た。カライが大声で怒鳴った。


「じじい! 邪魔するな!」

「サーブ公。カライ。2人で企んでムタヤさんを陥れたであろう。この2人を引き離させはせぬ。」


老人は鋭く2人を見据えながらきっぱりと言った。痛いところを突かれたカライは驚いたが、すぐに、


「ええい、黙れ! 黙れ! お前もムタヤの仲間だな。構わぬ。斬って捨てい!」


と大声を上げた。すると兵士たちは剣を抜いた。サーブ公も横から言った。


「この者たちを叩っ斬れ! ただし花嫁は傷つけてはならぬぞ!」


老人はそれを見て、


「ビャッコ! スザク!」


と2人を呼んだ。すると白地に縞の入った着物を着て背中に2本の剣を背負った剣士と朱色の服に赤いブーツをはいたスザクが現れた。老人が2人に命じた。


「向かってくる者を叩きのめしなさい!」

「はっ!」


ビャッコとスザクは返事をして飛び出していった。ムタヤに剣が振り下ろされてきたが、その兵士をスザクが飛び蹴りして吹っ飛ばした。


「大丈夫ですか?」


スザクが訊いた。


「ええ、ありがとう。スザクさん。」


ミイナが言った。ムタヤも頭を下げた。


「お2人は私たちがお守りします。安心してください。」


スザクはそう言うと飛び上がってムタヤとミイナに向かってくる兵士たちの頭を蹴って倒していた。

 一方、ビャッコは背中の2本の剣を抜くと平打ちで兵士を叩きのめしていった。兵士たちは次々に倒されていった。大勢で立ち向かっているのに全く歯が立たない。カライとサーブ公は次第に苛立ってきた。


「おのれ!」


カライとサーブ公も自ら剣を抜いてビャッコに向かって来た。しかしビャッコに剣でさんざんに叩かれて、


「ひえい!」


と声を上げて後ろに下がった。兵士たちは思わぬ強敵に恐れおののいて後ろに下がり始めた。


「こら!逃げるな! 向かって行け!」


サーブ公は逃げ腰になった兵士の背中を後ろから次々に押していった。押されて前に出た兵士はビャッコの剣で叩かれてその場に倒れていった。

 

 外の騒ぎが収まるどころか、ますます大きくなることに異変を感じたサニー王が家来とともに出て来た。そこではムタヤたちを追っていった兵士たちが見知らぬ者たちに次々に打ちのめされて倒されていた。


「どうしたのだ!」


サニー王は大声を上げたが、それに答える者はいなかった。彼の先にはムタヤとミイナ、2人を守るようにして剣士と女、そして老人がいた。この者たちが狼藉を働いたとサニー王は見た。


「何者だ! 私はサニー王だ。控えぬか! この神聖な結婚式を騒がす者たちめ! 成敗してくれるぞ!」


サニー王は大声で怒鳴った。すると老人がその前に出てきた。


「このようなことになったのは誰のせいだと思うのか! サニー王よ! 目を覚まされよ!」


とさらに叱るように大きな声を上げた。その厳めしい物言いはサニー王をひるませた。


「なにを!」


サニー王は怒りを覚えたが、前にいるのがただの老人ではない気もしていた。


「ふむ・・・」


とその老人の顔をよく見た。するとはっと思い出して慌てて兵士たちに言った。


「や、やめよ! 剣をひけ! あのお方は稀代の方術師、ハークレイ法師様だ。皆の者、控えるのじゃ!」


サニー王は慌ててその場に片膝をついて頭を下げた。兵士たちは驚いてその場に跪いた。サーブ公とカライもあっと驚いて剣を捨てて片膝をついた。


「あのお方がハークレイ法師様・・・」


ムタヤとミイナは信じられぬという風に片膝をついて頭を下げた。


 やっと騒ぎが収まった。サニー王はハークレイ法師に深く頭を下げて言った。


「ハークレイ法師様とはつゆ知らず、ご無礼いたしました。平にご容赦を・・・」


ハークレイ法師は「うむ。」とうなずき、そして尋ねた。


「サニー王よ。こうなったのはどうしてだと思われるか?」

「いえ、それが・・・私にはさっぱりと。」


サニー王は困ったように答えた。彼には事の次第が何もわからなかった。


「ではお教えしよう。あのサーブ公とカライ。2人はあなたを欺いた悪人じゃ。昨年、公金を横領したうえ、その罪をムタヤの父のウキヤにかぶせて殺したのじゃ。しかも今度はユーラス公爵の家の財産に目がくらみ、ミイナを嫁にしようとムタヤに罪を着せようとした。そして殺そうとまでしたのじゃ。」


ハークレイ法師は言った。しかし横で控えていたサーブ公とカライはそれを否定した。


「恐れながら、何を証拠に。我らはそんなことはしておりませぬ。」

「はい。私も役目を忠実に行ったまで。」


すると赤い服を着たキリンが現れた。傍らには縄で縛った男を連れていた。


「おっと。そんな言い逃れはできないぜ。この男が何もかも吐いたぜ!」


連れてきた男はジャグだった。ジャグはバツの悪そうな顔をしてその場にしゃがみこんだ。それを見てサーブ公とカライは何もかも露見したと観念した。


「もう言い逃れができんぞ! 恥を知れ!」


ハークレイ法師は一喝した。サニー王はすぐに家来に命じた。


「2人に縄をうて。後で罪を問うてくれるわ! 汚らわしき奴らめ! すぐに引き立てい!」


「王様・・・」


サーブ公たちはそう言い残して、縄をうたれてその場から連れていかれた。それを見ながらサニー王は言った。


「申し訳ありませぬ。すべて私の不徳の致すところです。お恥ずかしい限りです。」

「サニー王よ。王族とはいえ、むやみに信用して騙されてはなりませぬぞ。あなたがしっかりしなければこのような仕儀となる。」


ハークレイ法師は静かに言った。


「はっ。肝に銘じまする。」


サニー王はさらに頭を下げた。ハークレイ法師はさらに言った。


「時に王よ。この2人。本来なら結婚しているはずじゃった。この2人のことをお願いできるかな。」

「はっ。」


サニー王はムタヤとミイナの方に向き直ると声をかけた。


「ムタヤ、ミイナ。2人には苦しい思いをさせた。許せよ。その償いにこの王が2人の結婚式を執り行う。よいな。」

「はっ。ありがたき幸せ。」


ムタヤはそう言って頭を下げた。その後ろでミイナも嬉しそうに頭を下げた。


「公爵も異議はあるまい。」


ハークレイ法師は後ろで控えているユーラス公爵夫妻に声をかけた。


「はっ。私たちは何の異議もございませぬ。私が間違っておりました。ムタヤ殿を娘から引き離そうとして。」


ユーラス公爵が言った。その横で妻は目を潤ませていた。


「ハークレイ法師様。ありがとうございます。これでやっと娘は幸せになります。」


「よかったのう。ムタヤは孝心の厚いよい男じゃ。公爵家の婿にしても恥ずかしくなかろう。これで2人は一緒になることができる。お幸せにな。」


ハークレイ法師はムタヤとミイナにもやさしく声をかけた。2人は頭を下げた。


「これもすべてハークレイ法師様のおかげでございます。お礼の申し上げようもございませぬ。」


ムタヤは言った。そしてミイナと見つめ合って恥ずかしそうに笑った。その姿にハークレイ法師は目を細めてにっこりと笑った。


 数日後、ムタヤとミイナの結婚式が執り行われた。サニー王とユーラス公爵、そして多くの参列者のもと、2人は幸せな笑顔で式に臨んでいた。そしてハークレイ法師は、2人の幸せを願いながらまた旅を続けるのであった。

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