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第7話 ミイナの心

 ユーラス公爵の家にまたカライがやって来た。奥の間に通したところ、尊大な態度でカライがいきなり言った。


「先日の返事をいただこうと思いましてな。王様の命もあり、急ぎまして。」

「その話はお断りいたします。娘は今、そのような気になれないようで・・・」


ユーラス公爵はあまりにも時期を考えないカライにムッとしながら、その申し出を断ろうとした。だがカライはそれに気にいせず、薄笑いを浮かべながら言った。


「いや、噂はいろいろ聞いておる。だから力になれると思って来たのです。御息女と2人だけで話させていただけるかな。」


 ユーラス公爵は嫌な予感がしたものの、召使にミイナを呼びに行った。するとしばらくしてミイナが奥の間に来た。気落ちしているらしく、痩せてその顔色は優れなかった。


「今日は何の御用でしょうか? 先日の件でしたらお断りしたはずです。私には心に決めた方がおります。」

「ミイナ殿に考え直していただこうと思いましてな。」


カライは作り笑いをして言った。だがミイナは顔を背けた。


「私の気持ちは変わりません。」

「果たしてそうですかな? 実はムタヤを捕まえましてな。そのことはもうご存じでしょう。」


カライの言葉にミイナはひどく動揺した。それをカライは見逃さなかった。


「驚かれたでしょう。元の婚約者が強盗などと。」

「ムタヤ様は強盗などする方ではありません。何かの間違いです。」


ミイナは強く言った。そんなことがあるはずがないと・・・。


「私もそう思いたい。しかし証拠の金が出てしまった。ムタヤは罪に問われるでしょう。それも重罪に。もともとムタヤの一家は城下追放の身でしたから、下手をしたら死罪ですな。」


カライは薄笑いを浮かべながら言った。それを聞いてミイナは顔を伏せた。急に目の前が暗くなる気がした。


「ムタヤ様が・・・」

「ミイナ殿。そう気を落とされるな。いい方法がある。」」


ミイナは顔を上げた。ムタヤのためならどんなことでも・・・彼女は思った。


「それはどんな方法でございますか?」

「その商人はサーブ公の屋敷の出入りの者だ。サーブ公のお口添えで何とかなる。サーブ公がその商人に話して訴えを取り下げさせることもできるというのだ。」


カライはそう言った。だがそのためには何かありそうだった。カライは言葉をつづけた。


「だがそれには条件がある。それはあなたがサーブ公と結婚することだ。それならサーブ公は喜んで動いてくれよう。そうすればムタヤはすぐに解き放たれる。さあ、いかがかな?」


カライはミイナをじっと見た。ミイナの心は揺れた。


「えっ、本当に?」

「ええ、嘘は申しませぬ。これでムタヤは助かるのです。あなたがうんと言いさえすれば・・・」

「本当にムタヤ様は助かるのですね?」


ミイナは確かめるように訊いた。カライはおおきくうなずいた。


「本当です。すぐにムタヤを釈放できましょう。すぐにお返事をいただけるといいのですが・・・。今頃、ムタヤは牢でひどく拷問されているでしょう。あなたが迷うほどムタヤは苦しむのですよ。あまりのことに悲鳴を上げておられるでしょう。」


カライは不気味に笑った。


(ああ、ムタヤ様・・・)


ミイナの脳裏にはカライが拷問を受けて苦しむ姿が浮かんでいた。彼を助けるためには自分がうんと言わねばならなかった。だがそれはミイナがムタヤとの結婚をあきらめて、サーブ公のもとに嫁ぐことを意味していた。ミイナの目に涙があふれてきた。そんなミイナを見てもカライはさらに攻め続けた。


「さあ、早くお決めなされ。どうします? ムタヤを救えるのはあなたしかいないのですよ。」


(ムタヤ様・・・)やがてミイナは決心した。ムタヤのために・・・。あふれる涙を拭いてカライに頭を下げた。


「サーブ公のもとに嫁ぎます。ですからムタヤ様のお解放しを。」

「おお、わかってくれたか。ならば事は急げだ。サーブ公に申し上げよう。」


カライは喜んですぐに出て行った。そして入れ替わりにユーラス公爵が入ってきた。2人の話を陰から聞いていたようだった。彼にも娘の切ない気持ちが伝わっていた。


「よいのか? ミイナ。もう後戻りはできぬぞ。」


ユーラス公爵は心配そうに尋ねた。しかしミイナは気丈にも顔を上げてきっぱりと答えた。


「はい。これでいいのです。ムタヤ様のためにはこれしかないのです。」

「お前はムタヤのためにこんなに・・・」


ユーラス公爵は親として何もしてやれない自分がやるせなかった。だが娘にそれ以上、かける言葉が見つからなかった。




 その夜、ミイナは庭を見ていた。その頭の中にはもう会えないであろうムタヤとの思い出が浮かんでいた。


「ムタヤ様・・・」


ミイナはつぶやいた。その時、庭先から、


「ミイナ様。」


と声をかける者がいた。


「誰?」


ミイナが庭を見渡すと、庭の隅からスザクが現れた。どこからか忍び込んできた様だった。


「こんなところから失礼します。訪ねて行きましたが会わせていただけなかったので・・・。みんなが心配しております。療養所の方にもお見えにならないし。」

「心配かけてごめんなさい。急に結婚することになりました。サーブ公と・・・」


ミイナは言葉を詰まらせた。スザクは驚いた。いきなり結婚などと。それもサーブ公と・・・。


「サーブ公と? 一体どうしてですか?」

「ムタヤ様を助けるためです。私がサーブ公と結婚したら罪に問わないと言われて。」


ミイナが顔を背けて答えた。その目には涙が光っていた。スザクにはミイナの悲しい心が痛いほどわかった。


「ミイナ様はそれでいいのですか? ムタヤ様を愛しているのではないのですか!」

「ムタヤ様を救うにはもうこれしかないのです。もしムタヤ様にお会いすることがありましたらお伝えください。ミイナはあなたを愛しています、と」


そう言って流れる涙を手で押さえながら部屋に戻っていった。


「おかわいそうに・・・」


スザクはため息をついた。

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